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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
179/225

思いついたけど駄目だった

思うところがあり、ちょこちょこ直しました。

本編の流れに変更はありませんが、気になる方は下記のURLで差分を見て頂ければと思います。


https://dl.dropboxusercontent.com/u/800298/040_%E6%80%9D%E3%81%84%E3%81%A4%E3%81%9F%E3%81%91%E3%81%A9%E9%A7%84%E7%9B%AE%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F.html


その他、一部魔法名を変更しました。


魔法障壁(マジック・シールド) → 魔法障壁(マジック・バリア)

多重障壁(マルチプル・シールド) → 多重障壁(マルチプル・バリア)


以前の変更点

魔弾(マジック・アロー) → 魔弾(マジック・ブリット)



 竜の住まう島の調査を依頼された俺とリデルはモモを伴って王都を出発し、一路西へと向かっていた。


 ◇


「大分慣れて来たようだね」


 隣を並んで歩く馬上から、リデルが俺の様子を見て声を掛けてくる。


「何とか、歩くだけならな。走るのはまだ怖いな」


 俺は慣れない馬に乗り、何とか真っ直ぐ進めることに集中している為、余裕が無かった。

 ウォーレンの工房で作って貰った(あぶみ)は良い仕事をし、バランスを崩しそうになっても直ぐに体勢を立て直すことが出来た。

 そのおかげで最初の一度以外は落馬をしていない。

 リデルは鐙が無くてもしっかりと馬の腹をホールドし、問題なく乗りこなしているが、俺がその域に達するのはまだしばらく先のことだろう。

 まぁ、鐙を使わない理由も特に無いが。


 俺の懐にはモモが乗り、普段とは違う高い視点での景色に夢中だ。

 時折見掛ける小動物を追い掛けて走り出そうとするのを止めると、寂しそうにするのがちょっと心痛む。


 朝に王都を出てから午前中いっぱいは馬任せに歩き、午後に入ってからは小走り程度にスピードを上げる。

 それにも慣れて来た頃、最初の宿場町に着いた。


 ここは王都に近い為、多くの人はスルーするのか、それほど流行っている感じはしない。

 それでも宿の一階を利用した食堂には、俺達の他に一〇人ほどの先客がいた。


 肉と野菜をバランス良く注文し、先に出て来たお酒で軽く乾杯をする。

 お酒の味は未だに慣れないけれど、酔った気分はそれなりに良い物だった。


「そう言えばアキトと二人――モモを合わせて三人で出掛けるのは、出会った頃以来だね」

「そうだな。グリモアの町を出る時にはルイーゼがいたから、あの町で狩りに行っていた頃だし……一年以上経つのか」


「あの頃の僕は、アキトとここまで深い付き合いになるとは思っていなかったよ」

「それは俺も同じだな」


 リデルに出会わなければ、俺は一人でリゼットを探し、そして元の世界に戻れただろうか。

 出来たとしても、それは凄く時間の掛かる困難な旅になっていたと思う。

 もしリデルと出会えなかったとしたらと考えると怖くなる。


 一期一会では無いが、今もこうして俺の周りにいる人達と関わることで、未来が変わっていくのかもしれないと考えると、もう少し無頓着な性格を直さないといけないと思う。


「ルイーゼは良かったのかい」

「本心を言えば、今ここにいないのは寂しいな。

 でもこれから先も何かの度に離れることは出てくると思う。

 俺が側にいない間に何かがあったらと思うと不安だが、ちょっとした問題なら退けるくらいルイーゼは強くなったよ。

 だから良かったと思うことにする」


「確かにルイーゼの成長は目を見張るものがあるね。

 王国騎士団で日々鍛錬を続けていた僕でも彼女を崩すのは容易でないよ。

 魔物戦での実戦経験では負けているくらいだね」

「それも同じ感想だな。

 身体強化(ストレングス・ボディ)魔法に限ればルイーゼの方が圧倒的に使いこなしているのも驚いたよ」


 今の俺でも身体強化魔法を無意識下で常時展開する事は出来ない。

 でもルイーゼは寝ている時でさえ発動している。

 息を吸うように自然に使えるようになれと言ったのは俺だが、見事にそれを実践するルイーゼは呆れるばかりの適応能力だ。


「僕達も負けていられないね」

「どちらかと言えば追い掛ける立場になってきた気分だ」

「それじゃ明日からはあれをやらないとね」

「そうだな、あれをやらないとな」


 俺とリデルはもう一度お酒の入った器を合わせ、他愛も無い話をして初日の夜を過ごした。


 ◇


 翌朝。定例となった朝の鍛錬を行う。

 その相手はリデルだ。

 リデルとの鍛錬は久しぶりだった。


「相変わらず守りが硬い!」


 リデルのスタイルはしっかりと待ち、隙を突いての攻撃だ。

 盾の使い方が上手く、要所で魔法障壁(マジック・バリア)多重障壁(マルチプル・バリア)を挟み俺の攻撃を寄せ付けない。

 それらを抜いても、威力の衰えた攻撃では重板金鎧を通してダメージを与えられず、なんとかダメージを与えたとしても回復魔法(ヒーリング)で回復されてしまう。


 正直、攻略法が見つからない。


 全力を尽くした戦いであれば救出作戦の時に行っているが、対するリデルの方は隷属魔法の支配下にあり万全の状態では無かった。

 あの時の俺は武器の性能頼りに全力でもって戦い、何とかリデルを押さえ込んだが、隷属魔法から解放され、本来の実力を発揮しているリデルには鍛錬用の剣ではまるで刃が立たなかった。


「アキト、まだ技術では僕の方が上のようだね」


 正統派剣術では確かにリデルに及ばない。

 俺は基本型以外は全部我流だ。

 それはきっと無駄が多いことだろう。

 バルカスに矯正されて大分ましになったとは思っていたが、まだまだ昔の癖が残っているようだ。


 俺の戦い方は身体強化魔法による力押しと魔弾(マジック・ブリット)を始めとした無属性魔法だ。

 身体強化には身体強化で対応され、各種魔法は多重障壁に阻まれる。

 今のところ打つ手が無い。


 おかしい、こちらに戻ってきてからの俺は、魔弾の威力や身体強化の効率が格段に上がっているのだが……鍛錬を続けていたのは俺だけじゃ無いというわけか。


 リデルの使う多重障壁は魔法障壁のアレンジ魔法かと思ったが、実際の運用は俺の魔盾(マジック・シールド)に近いもののようだ。

 全方位を覆うものではなく、要所を守るのが本来の使い方で、リデルは左手に持つ物理盾の他に、もう一つ見えない魔法盾を持っているようなものだった。

 なんか思いっきり反則じゃ無いか。


「アキトのおかげで魔力制御が楽になり、詠唱短縮も出来る様になったおかげだね。

 感謝の気持ちは鍛錬の中で返していくよ」


 詠唱短縮か。

 戦闘中に呪文の詠唱を行うのは困難なことだ。

 それでも精霊魔法ならば身体強化魔法のように直接魔力を制御するよりは、呪文のサポートを受けるだけ楽になる。

 逆に言うと、呪文のサポートが無くても直接魔力を制御出来るなら無詠唱で多重障壁を張れると言うことだ。

 身体強化魔法を使うリデルならいずれは無詠唱で使用出来るようになるだろう。

 今のところ、リデルに隙があるとすれば身体強化魔法と精霊魔法を同時に使えないことか。


「アキト、魔法を打つ際に出る癖を消さないかぎり、僕に魔法は当たらない。

 癖は幾つかあるが、一番大きいのは打つ瞬間に意識が固定することだね。

 その際、体の動きも止まっているよ」


 魔法障壁を身体強化からの突きで打ち砕き、直後に放った魔弾を躱された。


 無属性魔法で、特に放出系を使う時はどうしても集中する必要がある。

 その集中の瞬間を読まれると躱されてしまう。

 リデルに指摘された事だが、無意識に魔法を打つというのは難しい。


 リデルは強い。

 俺は攻守の技術で劣り、速さで互角、力ではいくらか上回っているか。

 この中で何か一つは飛び抜けていないと手詰まり感が半端ない。

 魔物は高度な防御手段を持たないため、どうしても攻め崩すという点での経験が不足しているようだ。


 総合格闘技の中で色々と習ったフェイントは、ほとんど無手での格闘戦に特化しているため、それを剣技に活かしきれていない。

 習うものを間違ったか?

 まぁ、それは今更か。

 どちらにしても元の世界では剣技を習うのは難しいのだから。

 ポイントは同じだろうから、剣技にアレンジしていくしか無い。


 後は多彩な攻め手を身に付けるか……やはり道中は二刀流の練習も積み重ねた方が良いな。


「アキトの良いところは状況に合わせて戦い方を変えられる柔軟性だよ。

 現状を打破する為に打つ手が見付からないなら、力で圧倒するのも一つの手だと思うね」


 強化魔法を使えばいくらでも力が出る――という訳では無い。

 結局の所、動くのが体である以上は体が耐えられる所までだ。

 これも強化魔法が研究されなくなった原因の一つでもある。


 魔法の能力を鍛えつつも体も鍛えなくては一定以上の能力を出せないとなれば、それぞれを専門に鍛えた者達に比べ、習得に時間が掛かるのは目に見えていた。

 その上、魔力制御を行いつつ近接戦闘を行うという器用な真似まで必要となれば、身に付けられる者も少なく、廃れていくのも仕方が無いと言えるだろう。


 だけど、身体強化魔法が熟練の域に達すると――


「なら力で上回ってみせるさ」


 俺の体が淡く光りだす。


 身体強化魔法を使い続けると無意識下で魔力で肉体が変異し、その肉体強度が上がる。

 これは魔物が動物に比べて異様に固いのと同じだ。


 俺はそれを意図的にコントロールし、肉体強度を上げたうえで身体強化を行う。

 受け皿となる肉体の強度が増すことで、より多くの力を発揮することが出来る状態だ。


 俺が都合上、身体強化魔法と名付けたこの魔法は、魔人族が纏う魔闘気の劣化版だと予想を付けている。

 ただ力を強化するだけの身体強化魔法、その発展系で物理攻撃への耐性、最後に魔法攻撃への耐性、それらが合わさって魔闘気になると考えていた。

 残念ながら対魔法耐性については、まだどうしたら良いか分かっていない。


 それでも力で上回れというなら――


「試させてもらう!」


 リデルの多重障壁を打ち破り、盾を打ち払い、重板金鎧を通してダメージを与える俺の必殺技だ!!


 俺の剣が多重障壁にあたり弾かれる。

 体が泳いだ所にリデルの盾が打ち込まれ、いつも以上の衝撃に目を回す。

 おもいっきり隙の出来た俺の腹に剣の柄が叩きこまれ、軽板金鎧越しに吐きそうなほどの衝撃を受け、蹲って唸る。


「アキト……」


 リデルの憐れむような目が痛い。


「力は無いし、盾を避けられずにまともに受け、いつもなら耐え切れるパンチで崩れ落ちているよ」


 あれぇえ?

 理論的にはあっているはずなのに、全ての能力が下がった?


「お、おかしいな……何か間違ったらしい」

「僕達が間違えるのはいつものことだけど、今のは酷いね」


 ほんと、何が悪かったんだ。

 まぁ、ぶっつけ本番だったからもう少し練習が必要か。


「結局何がしたかったんだい?」


 俺はリデルに、思いついた理論を話す。


「そんな事に挑戦する発想がアキトの力の根源なんだろうけれど、最初に失敗するのはアキトらしいね。

 普通、身体を強化して動くだけでも厄介と言われているのに、肉体の強度を上げてその上で身体強化を行うとか、どれほど魔力制御に自信があっても出来ないのが普通だよ」


 実はちょっと無茶かとも思ったが。


「ただ僕が知る限り、魔力制御能力に関してアキト以上の逸材はいないよ。

 アキトに出来ないなら、現時点で誰にも出来ないだろうね。

 例外は上位魔人かな。

 おそらくだけれど、アキトがその域に達した時は上位魔人と同程度の魔力制御能力だと思ってい良いね」

「それはまた……敵も増えそうな話だな」


 まさかとは思うが、俺が上位魔人だと思われると、勇者が現れて退治しにやってくるんじゃ無いだろうな。


 まぁ、効果は低いとしても、無意識下では出来るのだから意識して出来ないことはないと思うが、その為には練習だな。


 あぁ、そうか。

 俺が普段、身体強化魔法を常時展開しにくいのは戦いの中で魔弾や魔刃を使うからじゃ無いか。

 常にそれを使う意識があるから常時展開していられないんだ。

 身体強化と放射魔法の二つを同時に使うのも難しい中で、更に肉体の強度も上げようとするとか、根本から駄目だな。


 そうなってくると、発動してしまえば精霊がサポートしてくれる精霊魔法は良いな。

 でも、ルイーゼがいないところで魔封印の解呪を、もう一度試すのはちょっと怖い気がする。

 それに結果はどうあれ悲しむだろうしな。


 自力をあげる必要もあると思って普段は身体強化をしていなかったが、俺もルイーゼのように水汲みから料理の時まで使うようにした方が良いのかもしれない。


 結局、本気で守りに入ったリデルを崩す方法はお預けになった。


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