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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第二章 マリオン編
176/225

はじめての任務

 竜よ、その首を洗って待っていろと言ったな、あれは嘘だ。


 ◇


 竜族。

 始祖と呼ばれる三種族の一種であり、世界を構成する力の一つ、竜脈を操る。

 その寿命は世界の歴史と共にあると言われるほどで、現在の年齢は推定で一万歳を越える。

 体長は優に五〇〇メートルを超え、存在するだけで世界のありようが変わると言われていた。

 その咆哮は月をも砕くと言われ、この世界で見える月が真円ではなく三日月のようであるのは竜によって砕かれたからだと言われている。

 現在は休眠期に入っていると考えられ、次の活動期は不明。


 ◇


 その竜を相手にするのが今回の旅だ。


 これは無理。

 人の行いでどうのこうのという世界の話じゃない。


「アキト、一言で竜族と言っても探すのはその眷属で良いのです。

 竜族の中で最も下級とされるのが、固有名詞を持たないドラゴンですね」


 やる気が出てきた。


「成体で体長はおよそ一〇メートル、両翼を広げた姿で五〇メートルと言われています。

 皮膚は硬いウロコで覆われ、並大抵の武器では刃が通りません。

 その上、強力な魔闘気により魔法への耐性も強く、上級精霊魔法でなければダメージを与えられないでしょう」


 やる気が減ってきた。


「注意すべき攻撃は超高温の炎による広範囲ブレス、強靭な顎による噛み砕き、岩をも裂くと言われる爪の攻撃、その質量で持って振るわれる尻尾も油断できません。振るう翼にも気を付ける必要がありますね。

 その他、空を飛ぶこともありますので、上空からの一方的な攻撃に備える必要もあります」


 無理だな。

 俺の知っているアニメやマンガでは、弱いドラゴンくらいならさくっと倒しているというのに。

 俺には倒せる想像がつかない。


「アキト、僕達の役割はドラゴンを倒すことではないよ。

 発見されているドラゴンの内、討伐対象として適当なドラゴンを探すことだからね」


 俺は何も発言をしていないのに、次々と補足が入ってくるのはなぜか?


「そうだな、討伐は王国騎士団の副将軍に任せれば良い」


 何も全てを自分でこなす必要はない。

 出来ないことは出来る人に任せればいいんだ。

 そう考えると、すごく気が楽になってきた。


「それで、正式な指示を受けるために一度王城に出向く必要がある」

「俺もか? 王国騎士でもないのに首を突っ込むのもどうかと思って、コソコソとしているつもりだったけど」

「忘れたのかい。アキトは王国栄誉騎士だよ。

 この勲章が発行されるのは一〇年前のボールデン男爵以来だというのに、興味がないにも程が有るよ」


 あぁ、すぐに忘れるそれか。

 ボールデン男爵の活躍を聞いた限り、俺がそれに値するほどの活躍をしたとは思えないのだが。


「大きな街に入るとき、貴族特権が使えて便利だよな」

「確かに便利ではあるけれどね。

 僕達以外にはそんな感想を言っては駄目だよ」


「それに、これは国王陛下からの勅命でもあるんだ。

 アキトにとっては面倒な事かもしれないけれど、前回の件でいくつか聞かれることもあるだろうから、心の準備だけはしておいて欲しい」

「まぁ、仕方がない。結構派手にやったからな」

「悪いね」

「構わないさ、そんな事よりリデルの方が大事だ」


 よし、気を引き締めて行こう。


 ◇


 久しぶりに気合いを入れて選んだ正装に身を包む。

 それをリゼット、ルイーゼ、レティに引剥されて、改めて違う正装を着直す。

 毎回二度も着ることになるのは面倒だ。


 王城へはリデルの馬車で向かう。

 だんだん慣れてきた入場手続きを経て、謁見の間の横にある待合室に入る。

 今日この場に来ているのは俺とリデルの二人だ。


 待つこと約一時間。

 だんだんと待たされることにも慣れてきたな。

 扉を開けて入ってきた文官に案内され謁見の間へと入る。


 中央を王座まで伸びるのは金で縁取られた赤い絨毯で、その両脇に並ぶのは近衛騎士二〇人。

 形式美なんだろうけれど、それはそれで大切なものと思えてくるから不思議だ。


 絨毯の続く先には王座があり、その両脇後方にはダルド将軍やら宰相らしき人が並んでいた。

 意識してみれば先の副将軍や、ダルド将軍を補佐していた文官の姿もあった。

 今まで気が付かなかったのは、自分には関係ない世界と思って大して興味を持っていなかったからか。


 それらの人々に囲まれ、王座に座るのはエルドリア王国現国王ヴァンスラード一四世。

 偉丈夫とまでは言わないが、昔は武術でならしただけありしっかりとした体付きの国王陛下だ。

 ただ座っているだけなのに威圧される感じを受け、自分の小市民っぷりが際立つ。


 国王陛下の両脇の席は空いており、今日もお妃様と王子様はいなかった。

 更に右端の席も空いている。

 メルティーナ王女様がいないのは初めてか。


 俺は一段高くなっている王座の前で膝を突き、頭を垂れる。

 同じ事をしているのに、隣にいるリデルの方が様になっているのは何故か?

 この世界には不思議なことが多い。


「よい。二人とも面を上げよ」

「はっ」

「はっ」


「久しいなアキトよ。

 些か学業の方には実が入っておらぬようだが、それをもって埋めるだけの活躍、儂の耳にも届いておる」


 どこからバレた?!


 国王陛下がいちいち俺ごときの出席率を気にしている訳が無い。

 つまり身近なところで聞いたと言うことだろう。

 国王陛下の身近にいて俺と接点がある人物?

 お姫様にしたってわざわ――生徒会長か。


 マリアベル・ロマンチェスタ、さて、どうしてくれよう。

 大量のチョコレート攻撃で、ぷよぷよの刑か。


 それはさておき、以前お姫様に説明を求められた隷属魔法について、改めて国王陛下に説明をする。

 正確には近くに控える宮廷魔術師の方々にだが。


「ご苦労であった。

 やはり竜を倒さねばならぬか」


 一人や二人の隷属魔法を強制解除するくらいなら、戦闘中に竜の目を盗んで剥がれ落ちたウロコなりを手に逃げ出せば良い。

 でも、七三人となるとそうも行かないのだろう。結局倒すことになるのか。

 まぁ、それは俺の仕事ではない。リデルが願い出たのはあくまでも討伐可能そうな竜の調査なのだから。


「ついで、ヴァルディス卿よ。

 先の討伐戦の折り、補給部隊の撤退戦において部隊を率い、殿の戦いを見事にこなしたと聞く。

 それにより多くの騎士の命が救われたこと、評価に値する。

 よって、保留となっておった男爵への陞爵を認めよう」


 リデルは名誉男爵だった。

 名誉付きのうちは爵位の継承が出来ず一代限りのものだったが、これで正式にヴァルディス家としての地位を得たことになる。


「恐れながら申し上げたいことがございます」

「言うが良い」

「私は今回の作戦において、捕虜となり、多くの騎士の犠牲のもとに救われました。

 その様な私には爵位の返上こそあれ、陞爵となるようなことは何も行っておりません」


 リデルの言い分は分からなくもない。

 多くの騎士の犠牲の中には、自分が殺したという仲間のことも入っているのだろう。

 だが、国王陛下はそれを不問にすると公言している。

 だから直接的にそれを指摘する事は出来ない。

 それでも、そうした犠牲の上で陞爵となる自分を許せないのだろう。


「構わぬ。

 此度の陞爵については本来決まっていたものだ。

 若すぎるがゆえに保留となっていたところを、その将来性を示すことで確実なものとしたに過ぎぬ」

「しかし――」

「そこまでだ。

 無論、異論を唱える者もいよう。

 だが、それらを乗り越え、武官としてだけではなく文官としても生き抜く知恵を身につけよ」


 思ってはいたことだが、リデルは綺麗過ぎる。

 魑魅魍魎が跋扈する貴族社会において、それは綺麗な毒に見えるだろう。

 国王陛下はそれに負けぬ知恵を身に付けろと言っている。

 まぁ、本音と建前を上手く使い分けるのはリデルには難しい事の気がするが。


「ヴァルディス卿よ、改めて申す。

 この日よりヴァルディス男爵として国の為に励むがよい。

 とは言っても、しばらくは政務に就くためにアルディス卿の元で学ぶがよい」

「はっ、仰せの通りに」


 本来なら貴族としてのリデルを俺が支えられれば良いのだが、それは難しい事だ。

 まぁ、黙っていても本家のアルディス家がなんとかするだろう。


 あれ、でも親元で学べってことは王国騎士団はどうなるんだ。

 それに王国騎士団に当主は入れるのか。


「さて、問題はアキトよ、そなたへの褒美についてだ。

 以前、儂の言った言葉を覚えておるか」

「はっ」

「ならば言ってみるが良い」


 あぁ、どうすれば。

 今回は任務の件と思っていたし、褒美の話が出るようなことも無いと思っていたから油断した。

 前回は魔封印解呪の魔法具とミスリルの剣を頂いた。

 でも、それでは役不足とばかりに忠告された覚えがある。


「その様なお言葉を頂けるだけで身に余る光栄であります」

「アキトよ。

 儂はこのような謁見を日に一〇を数える程はこなしている。

 多少のことでは驚かぬ、言ってみよ」


 物語では「好きな望みを言うが良い」とか良く聞かれているが、いざ自分が聞かれるとなるとこれほど困ることはない。


 欲しいもの、欲しいもの、欲しいもの……。

 俺が欲しい物か――


「今借りている家を手にしたいと思っております」


 みんなが帰る場所を手に入れたかった。

 借りるのではなく、確かな場所として。

 かつての仲間が揃っていた場所であり、マリオンの帰るところだ。


 以前購入を試みたことがあるけれど、元は貴族の持ち物で、良い返事をもらえなかった。

 それどころか期間満了ですぐに出て行けと言われている。

 ウォーレンが言うには、今の店が良い売上げを上げるようになって色気が出たのだろうと。


「望むなら中央区に用意しても良いのだが、そこが良いのだな」

「我が家と思っております」


 中央区といえば、上級貴族街じゃないか。

 俺がそんなところを望まないというのは察していると思うが、国王陛下もサドなんだろうか。


「良いだろう。

 直ぐに返事は出来ぬが、手配させよう」


 おお、言ってみるものだ。

 お姫様がいないから逆にスムーズに事が運んでいるんじゃないだろうか。


「して、他には何を望む?」


 え? 他に?


「思いつかぬというのなら、次の機会までに考えておくことだ。

 これは借りとしておこう」


 え? 次の機会? 国王陛下への貸し?


「では、本題に入るとしよう。

 ヴァルディス卿、そなたに与える任務地――」


 俺の困惑は余所に話は進んでいく。

 そして、それは意外なところで俺にも関係してきた。


 本来なら国王陛下が任務の指示を出すことなど無いだろう。

 そんな事は内容を吟味し、許可を出すくらいのはずだ。

 だから、俺を一緒に呼んだのは褒美の件より、こちらが本命と思われた。


「ザインバッハ帝国領ヴィルヘルム。

 そこに住まう竜の調査を任せる」


 ザインバッハ領ヴィルヘルム、そこはマリオンがいる場所だった。


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