閑話:とある侍女の話・2
プロット作成中ですが、行き詰まったので気分転換に。
「テドラ、調子はどう?」
細く、軽く、真っ直ぐに伸びた黄金色の髪にみとれながら梳いていた私に、メルティーナ王女様が振り返って声を掛けてくる。
「とても素晴らしい贈り物です。
世界がこれほど精密で多様な姿であった事を、私は長く忘れていました」
私の視力が落ち始めたのは一二歳の頃だった。
少しずつ、少しずつ、世界のありようが失われていく事が怖かった。
それが何とか落ち着いたのは成人する頃だったと思う。
視力が落ちる人は私だけでは無い。
年配の方には多いと聞くし、生まれながらに目の不自由な人もいると聞く。
見えない事に比べれば、普通の生活を送れるだけ良かったと思う事で、ストレスを持たないようにしていた。
「そう、素敵な贈り物ね。
本当なら私がどうにかして上げられれば良かったのですが」
「もったいないお心遣いです」
メルティーナ王女様は過去に何度か眼鏡を作成をしてくださいました。
眼鏡はとても高価な物で、私のお給金ではとても購入出来る物ではありませんでしたが、それ以前に目に合った物でなければ頭痛や吐き気、それに気分が悪くなったりといった副作用が大きく、使い続ける事が出来ませんでした。
私の視力の悪化が止まった時には合う物が見付からず、これも天命と受け入れていました。
「アキトには何時も美味しいところを持って行かれるわ」
アキト。
以前、メルティーナ王女様がサハギン族に襲われた時に助けてくれた冒険者の一人だった。
そして私の親友リリスが密かに慕っている少年でもあった。
そのアキトからとリリスを通して贈られてきた物は、それはもう大量の眼鏡の素材でした。
なんでも、熟練の冒険者でも強いと噂される魔物の目を覆っているガラスらしく、多くの眼鏡は魔物の目を素材として作られているそうです。
それが大量に送られてきたのは一つ一つが微妙に違う見え方をする為、もっとも私に馴染む物を選ぶようにと言う事でしょう。
冒険者は素材を売ってその日の糧とする物です。
私は大量に送られてきた素材に手を付ける事を憚り、そのまま返そうと思いました。
ですがメルティーナ王女様とリリスの勧めもあり、今一度眼鏡を作る事にしました。
今まで何度か合わせても私に合うガラスは見付かりませんでした。
ですから今回も駄目であれば返却する理由も出来ると思ったのですが、その中の一つを通して世界を見た時、私は知らずに涙していました。
私が少しずつ失っていた世界は、こんなにも素晴らしい世界だったのかと。
メルティーナ王女様が友達のように語り、親友のリリスが恥ずかしそうに語る少年。
私はそうですね、感謝の気持ちで語りましょう。