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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第一章 リデル編
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リデルの決意

第二部第一章最終話になります。

 捕虜となった騎士の救出作戦は一先ずの成功を収めた。

 そして、ここ作戦本部の置かれた村には、直ぐにでもその安否を確認しようと元捕虜の親類が押し寄せていた。


 そんな中、俺達の前に現れたのは笑顔が少し怖いメルティーナ王女様だった。

 いや別に怖くはないか。ただ、俺は過去に何度か手のひらで踊らされているため、苦手としていた。


 そしてお姫様に続いてもう一人、意外な人物が姿を表した。

 当たり前だが、こちらも久しぶりの再開だった。


「ご無沙汰しておりますわ。

 大病を患ったと聞いておりましたが、お元気そうで何よりです」


 王都学園生徒会長がなぜここに?

 それを言うなら二人ともなぜここにという話だが、お姫様の方は何となく分かる。

 捕虜となった騎士団が解放されたことで、王族として迎えに来たのだろう。

 でも生徒会長は?


「まぁ、アキト。

 何故そんな大事を知らせてくれなかったのかしら。もう快調なのですね?」

「はい、問題ありません。ご心配をお掛け致しまして、痛み入ります」


 むしろお姫様に知らせるという発想の方がなぜだと思う俺がおかしいのか?


 そんなことを疑問に思っていた俺の手をルイーゼが引く。

 気がつけばルイーゼ、レティ、リゼットの三人が膝を突き、頭を下げていた。

 久しぶりのことにウッカリしていた。どおりで近衛騎士の視線が痛いわけだ。


「し、失礼いたしました」


 俺も三人に習い、片膝を突いて頭を下げる。

 確か片膝でいいと言われた気がする。


「構いません。みなさん面を上げてください。

 此度もアキトには助けられたようですね」

「そのような事は何も――」

「アキト、ウーベルト卿はマリアの実兄なのです」


 ウーベルト……ウーベルト……隷属魔法を解除した三人目のイケメンがそんな名前だったな。

 それからマリア……は、マリアベル・ロマンチェスタ。生徒会長の名前だな。

 そう言う関係だったか。

 救出の知らせを受けて、急ぎ駆けつけたということか。


 ウーベルトはリデルと一緒に助けた一人で、王鷲の爪による攻撃を受けたのか酷い怪我と出血をしていた。

 それを助けたのは俺ではなく、ルイーゼの魔法だ。


「兄を助けて頂いてありがとうございます」

「生徒会長。実際に命を救ったのは俺ではなく、ルイーゼになります」

「そうでしたか。

 ルイーゼさん、兄の命を救っていただきまして、ありがとうございます。 生涯感謝いたします」

「身に余るお言葉、恐縮でございます」

「落ち着きましたら兄と共にご挨拶させて頂きますね」


 生徒会長は確か公爵家御令嬢様だったはずだ。

 俺の知っている限り、彼女がその身分を(かさ)にかけて人と接することはない。

 もちろん立場上は頭を下げることが難しいだろうし、俺もそんなことも望んでいない。

 貴族によっては平民に対して感謝の言葉を掛けることも嫌うくらいだ。

 だから、そこに気持ちがあるなら感謝の言葉だけでも十分だった。


「アキト、マリアは私の親友なの。その兄は私にとっても大切な人よ。

 私からも感謝するわ」

「それこそ恐れ多いことです。

 私一人が何かをしたということではありません。多くは王国騎士団の方々の力であり、私はそのお零れを受けたに過ぎません」

「アキトならそう言うでしょうね」


 過剰に感謝されるのも居た堪れない。

 というか、この空気がもう既に居た堪れない。近衛騎士の視線が痛すぎて刺さっております。

 平民がお姫様直々に感謝のお言葉を頂くとか、我慢ならないといった感じだ。


「まぁ、いいわ。

 お礼に、外の騒ぎは私の方で預かりましょう」


 それは助かる。

 バルカスに逃げられた今、とてもありがたい申し出だ。


「アキトの顔を見ていると、不思議とその心がよく分かりますね。

 変わらぬ様子に、私も安心しました」


 なんとでも言ってくれ。

 俺としては懸念事項が晴れただけで、もう十分だ。


「まずは疲れを癒やしてください。

 詳しいことをお聞きすることも有ると思いますので、しばらくは連絡を取れるようにしておいてくださいね」

「かしこまりました」


 テントを出る時にチラリと目に入った侍女のリリスさんは、相変わらず可愛らしかった。微笑みながら会釈をしてくるので、軽くそれに答えてその場を後にする。

 リリスさんの隣に立つ目付きの鋭い侍女も、今日は何故かいつもと違って優しい感じを受けた。印象が変わると、その目の鋭さも逆に美人度を上げている。女の子は不思議生物だな。


 リデルに会えるのはもうしばらく掛かりそうだが、大きな山は超えた。

 状況説明は残っているが、後は国のお偉方にまるなげして、俺達は日常に戻らせてもらうことにしよう。


 ◇


 改めてお姫様から呼び出しを受けたのは翌日だった。


 ダルド将軍用の豪奢なテントは、既にテントというより簡易的な屋敷の様子を見せていた。

 そんな物が何故必要なのかと思うような調度品までが置かれている。

 質実剛健な雰囲気を持つダルド将軍がそんな無駄なことをするのかと思ったが、どうやらそれらは自分の為ではないようだ。

 お姫様が現れたことで、それらの調度品が自然なほどに必要な物と思えてきた。


 豪奢なテントの一室に集まっているのは、お姫様と護衛の近衛騎士が二人。ダルド将軍とその補佐をする文官、副将軍とリデル救出隊で一緒になった宮廷魔術師の七人だった。


 お偉い方々に対して、こちらはバルカスを筆頭にルイーゼとレティの四人だ。

 今回は長テーブルに席を用意され、そこに座ることになる。

 小心者のせいか、どうも居心地が悪い。

 いつもの様に膝を突いて頭を下げている方が楽に思えるな。


 軽い挨拶の後、お姫様が本題に入る。


「バルカス・アースランド。

 此度は捕虜となった王国騎士の救出作戦において、貴重な情報を届けてくださったことに感謝します。

 また、捕虜救出の際に乱入してきた王鷲との戦いにおいて、率先して戦い、見事に退けたことは評価に値します。

 おかげさまで多くの人命が救われました」

「王女殿下のお言葉、身に余る光栄でございます」


 バルカスの意外と堂に入った受け答えに意外性を感じる。

 普段は結構ちゃらんぽらんなのにな。


「さて、今日来て頂いたのは救出作戦の際に使われました神聖魔法(アルテアの奇跡)と、昨日、何人かの隷属魔法が解除されたことについてになります。

 教えて頂けますか?」


 以前、ルイーゼの天恵についてバレた時、俺はバルカスにこういう事態が起きた時の事を頼んでおいた。

 誤魔化しきれると思えば誤魔化す、無理と思えば正直に話す。


「魔法については私と共に救出作戦に参加した、ルイーゼが賜る天恵によるものです。

 隷属魔法の解除については同じく救出作戦に参加したアキトによるものです」


 まぁ、ここで嘘はつけないし、誤魔化しようもないか。

 バルカスが取った判断は間違っていないだろう。なにせ証人が多すぎる。


「そうでしたか。

 ルイーゼさん。あなたは聖女としての洗礼を受けていますか?」

「いえ、受けておりません」

「洗礼を受ける予定はありますか?」

「いえ、ありません」

「わかりました。

 この件につきましては口外しないことを約束しましょう」

「ありがとうございます」


 お姫様はルイーゼの気持ちを優先してくれるようだ。

 もしルイーゼが天恵持ちと知られれば教会関係者からの勧誘が始まるだろう。でもルイーゼはそうなることを望んでいない。

 人を救える力がありながら人を救おうとしない、人はそう判断する。


 誰をも救おうとする行為が間違っているとはいえない。

 ただ、それは視点の違いだ。

 誰をも救おうとして救えない人がいるか、救える人は救おうとするか、その違いだけだ。


 ルイーゼは自分の手の届く範囲で救うべき人を救うだろう。

 見も知らぬ俺が瀕死の重傷を負っていた時にそうしてくれたように。


 俺だって誰もが救えるとは思っていない。その中で選ぶなら仲間が最優先だ。

 そして、ルイーゼが俺達にそう思ってくれていることに感謝している。

 だから俺はルイーゼの考えを支持する。


「それで、アキト。

 隷属魔法はどのように解除したのですか?」

「俺――私には魔法のことが詳しく分かりません。

 ですから少し感覚的なことが入ってしまいますが、知っていることをお話いたします」


 一通り、隷属魔法を解除する方法について説明をする。


「どうですか、ブラード」

「それが可能であるならば、恐ろしいまでの魔法制御能力と言うのが正直な感想です。

 私どころか、今の宮廷魔術師にそこまでの技量を持つ者がいるとは思えません」

「そうですか。ありがとうブラード。

 アキトはその力をどのようにして手に入れたのですか?」

「気が付いた時にはというくらいで、特に何をしたからという覚えがありません。

 気付いてからは、ひたすら魔力制御に関する鍛錬を続けています」


 嘘をついても、俺の場合はバレる。

 だから嘘はつかない、言わないことがあるだけだ。


「人にはそれぞれ得意不得意があり、それに合わせて魔法への適性もそれぞれです。

 彼に魔力制御に関する特別な才能があったということでしょう」


 ブラードのフォローに感謝する。


「わかりました。

 アキトはその能力を持って、五人の騎士を隷属魔法から開放しました。

 残りの七三人については国が責任を負いましょう」


 お姫様は以前のサハギン族の騒動の時もそうだったが、責任逃れをしようとはせず、きちんと責任を取ると明言する。

 同じような歳でありながら、自分が起こした問題でもないのに責任を取ると言い切る心構えには誠意を感じる。

 前は感じなかったが、俺の中にもこのお姫様の為にならという気持ちが出来てきたことに気付かされた。


「私の方からは以上ですが、ダルド将軍の方から何かありますか?」

「まぁ、これは個人的な興味だが。

 アキトと言ったな。お前の戦いを見ていたブラードから、かなり特殊な戦い方をすると聞いている。

 是非一度見てみたいものだな」

「それは興味があります、アキト。

 あなたがどうやって今まで戦ってきたのか、私も一度見てみたいですね」

「その様な大それた物では……」

「謙遜はいらん」


 ぐぅ。

 取り敢えず、適当に社交辞令として話を流しておこう。


「それでは、そのような機会がありました折にでも、僭越ながら披露させて頂きたいと思います」

「では作りましょう」


 すごく目一杯の笑顔で言われた。

 まるでその言葉尻を捕らえ、してやったとばかりに。

 お姫様には社交辞令というものを少し教えてあげた方が良いのではないだろうか。

 まぁ、お姫様のわがままに付き合う人もいないだろう。


「わたし、意外と顔は広いのですよ」


 それはお姫様だしな……。


「さて、アキトをからかうのはこの辺にしておきましょう」


 俺をからかって遊ぶのはやめて欲しいと何度思えば……。


「最後になりますが、レティシア・ブラウディ」

「は、はいっ」


 突然の名指しに、恐縮していたレティが身を反らさんばかりに伸ばす。


「ヴァルディス男爵の件ですが、今しばらく預からせてください。

 事は慎重を要することですので、十分に事実を確認したいと思います。

 ですが、安心してください。

 私の知るかぎり、悪いようには致しません」

「有り難うございます。感謝の言葉もありません」

「良いのです。

 それで、お返しすべきものがあります。

 ヴァルディス男爵より預かった物ですが、アキトの物を拝借していたということですので」


 ん? リデルに貸していた物とは――あれか?!


 近衛騎士の一人が、俺の前に一本の鞘に入った剣を置く。

 見慣れた剣――は当たり前か星月剣(ガラティーン )なのだから。


「アキト、抜いてください」

「メルティーナ王女、その様な――」

「構いません、アキト」


 近衛騎士の一人の制止を物ともせず、剣を抜けという。

 前に、王族の前で剣を抜いたら反逆罪と教えられた気がするんだけれど、王族の命令を聞かないのも反逆罪なのか?

 もうわからん。

 構わないと言われている以上、命令を聞かないほうが分が悪い気がする。


 俺は鞘から星月剣を抜き放つ。

 その透明かと思えるような青く深い輝きを持つ星月剣。

 それを初めて目にする近衛騎士は声こそ出していないものの驚愕の表情を浮かべ、宮廷魔術師のブラードは感嘆の声を上げる。

 ダルド将軍や副将軍に反応が見られないのは、既に知っていたのか、あるいはその身分にもなると見慣れる程度の物ではあるのか。


私が贈った剣(・・・・・・)は役に立ちましたか?」


 お姫様が贈ったという言葉を口にした時、近衛騎士の俺を見る目には殺気まで窺えるほどの物だった。

 近衛騎士というより、親衛隊じゃないかと勘違いしそうになる。


 確かに見た目は変わっているが、これはお姫様から贈られた剣だ。

 しかし、ここで肯定すれば次にあるのはどうして魔剣になったかということだろう。

 かと言って否定すれば、贈った剣はどうしたとなる。


「私の命を救い、友を助け出すことが出来ました」


 とりあえず、役に立ったということをアピールし、お茶を濁す。


「今はそれで良いでしょう。

 アキト、楽しみ(・・・)が増えていきますね。

 人生が彩られていくのはとても嬉しいことです。

 これからも期待していますよ」

「はっ、尽力させて頂きます」


 このお姫様は絶対サドだと思う。


 お姫様が退出した後、ダルド将軍に続いて副将軍が部屋を出て行く。

 その直前、バルカスとすれ違い際に声を掛けてきた。


「バルカス。

 お前はいつまで遊んでいるんだ。さっさと王国騎士団に戻ってこい」


 それに対して俺は二つの意味で驚く。


 一つは気難しそうな副将軍が、バルカスに対して親しそうに話しかけてきたこと。

 もう一つは王国騎士団に戻って来い(・・・・・)という一言。

 騎士団には古い友人がいると言っていた。なぜ俺はその時、バルカスが元は王国騎士だった可能性について思いつかなかったのか。


「女房と別れる気はないぞ」

「ふんっ。今は実力主義の機運が高まっている。

 正妻の身分などどうにでもしてやる。戻ってこい」


 副将軍はそう告げると、退出していく。

 当たり前だが、バルカスはバルカスでいろいろ考えながら生きているんだな。


 ◇


 それから七日後の夕暮れ。

 王都に戻った俺とリゼット、ルイーゼ、レティの三人は久しぶりの『カフェテリア』でゆったりと進む時間を満喫していた。


 リゼットは調べ物に篭もり、ルイーゼはメルとリルと一緒に『カフェテリア』の給仕に回っている。

 ちなみに俺が会長でルイーゼが社長、そして社員は二名の零細企業だ。


 まだしばらくは王都学園も夏の休校が続くため、店内は夕暮れと言ってもそれ程混雑はしていない。

 その店内は、以前ウォーレンから忠告を受けて銀細工のランプを普通の物に変え、それに合わせて店内の改装を頼んでおいた。今はシックモダンの落ち着いた雰囲気の店に変わっている。

 綺羅びやかな店も良いなと思っていたが『カフェテリア』にはこっちの方が合っているかもしれない。


 ◇


 オープンテラスにあるテーブルの一つにはレティがいて、西の方角を見続けていた。

 王城に沈む夕日を見ているわけではないだろう。


「レティ、帰らなくて良いのか。

 リデルが戻ってくるのを一番に出迎えるんだろ」

「アキトさん。

 わたし、兄はあの家に帰ってこない気がするんです。

 だとしたら、最初に来るのはここかなと思って」


 レティは椅子の上で膝を抱え、ここを動かないという意思表示をする。

 子供らしい抵抗に、少しだけほっとした。

 最近はみんなの成長が早くて、置いて行かれる気分にもなったが、こうして変わらない部分も残している。


 レティがどうしてそう思ったのか。

 俺とリデルとは空白期間を除けば半年くらいの付き合いだ。

 色々と知っているとは思うが、それでもレティが知っていることに比べれば少ないだろう。

 そのレティがリデルは帰ってこない気がするという。


 思いつくのは仲間を殺したという事か。

 まるで自分への怒りを押し殺すように、そう言ったリデル。

 結局、リデルに隷属魔法を掛けた上位魔人は姿を表していない。

 それは怒りのやり場を失ったとも言えるだろう。


 正義感や責任感は強いほうだと思う。それでいて優しさもあった。

 そのリデルが私念を晴らすために今の立場を捨てるだろうか。


 ただ、いずれリデルが行った行為は同じ王国騎士団の中で知られるはずだ。

 それが隷属魔法の支配下にあったからだとしても、悲しみに暮れる者の耳には届かないかもしれない。

 行き場を失った怒りや憎しみがリデルに向かうのは避けられないだろう。


 もちろんリデルと同じように仲間内での戦いを強制させられた騎士は他にも多い。生徒会長の兄もそうした中の一人だ。

 そしてリデルがそうであったように、仲間を手に掛けるしか無かった騎士達にも多くの苦悩が残っている。


 結局、全てが過ぎる時の中で癒やされていくのを待つしか無い。

 いつかは仲間に向けた怒りや憎しみも理不尽なものだと気付くはずだ。


「レティ、リデルは戻るよ。

 俺の知っているリデルはそんなことから逃げ出す様な男じゃなかった。

 レティの知っているリデルはそんなに弱かったか?」


 レティは少し考えて、頭を振るう。

 だから俺はその手を取り、立たせる。


「送るよ。リデルが戻ってきた時、レティがいなかったら悲しむだろう」


 ◇


 リデルの屋敷がある通りをレティの手を引いて進む。

 待つことの寂しさがわからない訳じゃない。しばらく一緒にいてやるべきか?

 でも、いまレティが求めているのは俺じゃない。


 リデル、もう十分待っただろ、早く戻って来い。


 屋敷の門が見えてきた時、門番以外の人影を見止めた。

 レティが俺の手を引いたまま駆け出す。

 釣られて俺も駆け寄る。十日ぶりの再開だった。


「おかえり、レティ」

「おかえりなさい、お兄様」


 二人でお帰りなさいか。それが二人の気持ちなのだろう。

 レティにとっても長い出来事だったが、それもようやく終わりだ。


 ◇


 そのままリデルに頼まれ、いまは執務室に二人でいた。


「こうしてアキトと二人、向い合って話すのも久し振りだね」

「半年以上になるか。俺もリデルも色々あったからな」

「アキトの件については力になれなくてすまない」

「俺も事情を全て話しているわけじゃないから、気にしないでくれ」

「いつか話してくれるのかい」

「今でも良いけれど、今日のところはリデルの方の話を聞こう」


 リデルから聞く話の半分は想像していたもので、残りの半分は思いもよらない事だった。


 想像していたのは、リデルを始めとして隷属支配下にあった時の行為を不問にすると国王の名のもとに宣言されたこと。

 エルドリア王国は法治国家だ。その法による決定よりも、国王の名の下に発せられた一言が大きな影響力を与える。

 俺が生まれた国ではありえないことだが、なぜか違和感がないのは民主主義じゃないからだろうか。

 もっとも、いかに国王とはいえ法を捻じ曲げてまで己の我を通す事はないだろう。

 今回の件は、法的に問題がないことに対して国王がお墨付きを与えたと考えるべきだ。


 そして思いもよらない半分は――


「隷属魔法を打ち破る可能性の一つを調査する事になった。

 これは、その危険性を承知のうえで僕から進んで願い出たことだ」


 可能性の一つ。

 それは竜の素材を触媒とした魔法具の作成ということだ。

 リデルを助けるためなら、たとえ竜でも相手にしてやると思ったこともあるが、あれはそんなことになる前に助けだすという背水の陣的な意味だったのだが。


「その間、アキトにはレティのことを頼みたい。

 またしばらく家を空けるとなると、寂しい思いをさせるからね」


 あれ。なんか俺は今、少しだけ落胆した気がするな。

 てっきり俺はリデルが頼ってくるものだと思っていたが、それは力を借りるという意味でだ。後を任されるという意味ではない。


「……」

「引き受けてはくれないのかい」


「リデル、本心で話そうぜ」

「アキトを信頼している。誰よりもだ」

「俺もリデルを信頼している。誰よりもだ」


 流石に俺もそこまで子供じゃない。

 ここでいう誰よりも(・・・・)が一人を指しているわけじゃないことくらい分かる。


 長考するリデルが、少しだけ気の晴れたような顔で続ける。


「アキト、力を貸して欲しい」

「その言葉を待っていた」


 次も楽な旅にはならないだろうが、未だ隷属魔法の支配下にある騎士達を救い出すまでは、きっとリデルの憂いも晴れないだろう。

 ならば俺は力を貸す、それに迷いはない。

 仲間と共にこの世界で生きていく、それは俺が決めたことだ。


 いいだろう。竜よ、その首を洗って待っていろ!!


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