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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第一章 リデル編
166/225

決着

 捕虜の救出作戦において、俺の最大目標であるリデルの救出は達成された。


 どういう魔法の原理なのかは分からなかったが、リデルは隷属魔法の支配下から逃れることが出来たようだ。

 隷属魔法には、知られていない第三の解除方法があるのか?

 リデルの様子からは、隷属魔法の支配下にある特徴が全く見られなかった。

 それがリデル自身の力によるものなのか、俺が干渉した事によるものなのかは分からない。

 でも、今はそれでも良い。リデルを救えたのだから。


 ?!


 後方、少し離れたところで聞き慣れた火球(ファイア・ボール)の炸裂音が鳴り響く。

 レティには水属性魔法での牽制が指示されていたはずだ。

 その上で火球が放たれたとなれば状況が変わったと言うことだろう。


「リデル、立てるか?」

「立つさ、寝てはいられない」


 俺はリデルの手を引き、立つのを助ける。

 若干足元はおぼつかないが、気はしっかりしているようだ。


 リデルの剣と盾は俺が破壊してしまった。

 まだ救出作戦は終わっていない中で、流石に無手では心許(こころもと)ない。


「ちょっと切れ味が良すぎて使い勝手が悪いけど、今はこれを使ってくれ」


 俺は星月剣(ガラティーン)を手渡す。

 リデルが剣以外を使っているのを見たことが無いので、慣れている武器の方が良いだろう。


「覚えているよ。恐ろしい剣だね」


 隷属魔法は掛かっている間の記憶を失うはずだ。

 それを覚えていると言うことは、他の捕虜に掛かっている隷属魔法とは何か違ったのだろう。

 リデルを発見した時の違和感は正しかったようだ。


 その使い心地を確認するように、星月剣を軽く振るう様がリデルによく似合っていて、まるで持つべき者の元に落ち着いた様子を見せる。

 リデルには青がよく似合うな。


 俺は代わりにモモから弓を受け取る。

 オーガ族の集落を旅立つ時にもらった強弓だ。

 引けるなら持っていくが良いと言われたので引いてやった。

 そしたら、もっと凄いのを持って来て同じ事を言うから、もう一度引いてやった。

 そして貰ってきたのがこれだ。


 今まで使っていた普通の弓と比べると、弦を引き絞るのに身体強化(ストレングス・ボディ)まで行う必要があるけど、強力なその矢はほとんど弧を描くこと無く一〇〇メートルほど飛んでいく。

 素直な軌跡は俺にとって当てやすいので、普通の弓より命中率が高かった。


 ミスリル製ではないが、柔軟性が必要な弓には鍛えた鉄の方が良いのかもしれない。

 むしろ矢の方をミスリルにすれば、生半可な魔法障壁や魔闘気では耐え切れないのではないだろうか。

 まぁ、懐の方も耐えきれそうにないが、予備に幾つか用意しておくのも良さそうだ。


 ◇


 俺とリデルが火球の炸裂音が聞こえた方に駆けていくと、見えてきたのは片翼を炎に包まれている王鷲(グリフォン)だった。

 周りには救出隊だけでは無く、捕虜にオーガまでが傷つき倒れ込んでいた。


 王鷲は操られてこの場に現れたと思ったが違うのか。

 操られていたのならばオーガまで襲うとは思えない。

 オーガ族を引きつけるように逃げていた救出隊を襲ったのは、そこが流れの先頭だったからか。

 だとすれば知能は高そうだ。


 いずれにせよ、今戦況を支えているのはバルカス、ルイーゼ、レティ。

 それにパトリック、クレスタ、そして宮廷魔術師の六人だ。


「ルイーゼ、下がれ!」

「アキト様?!」


 状況を見て下がってくるルイーゼに、続けて指示を出す。

 本来ならバルカスの役目だが、今のバルカスは王鷲の相手を離れられない。


「悪いが盾をリデルに貸してやってくれ、それからオーガ族を巻き込んでも良いから神聖魔法(アルテアの奇跡)を頼む」


 一人一人運んでからの回復魔法では命の持たなそうな怪我をしている者が多すぎた。

 ただ、一緒に回復したオーガ族が再び襲ってくるかどうかは分からない。

 指揮官がいるなら立て直しのためにいったん引くと思うが、それに掛けるのも不安だ。


「オーガ族は僕がなんとかしよう」


 それが何を示すのか、聞くまでもないだろう。


「わかりました。

 リデル様、これをお使いください」

「ルイーゼ、助かるよ」


 リデルはルイーゼから受け取った盾の重さに驚きを見せるが、直ぐに身体強化を使い体に慣す。


「リデル、しばらくルイーゼの護衛を頼む。

 救出隊が回復したらこの場は任せる」

「わかった。

 アキトは良いのかい、結構口の中を切っているし、胸の傷も浅くはないと思うけど」

「却って目が覚めるね」


 後を二人に任せ、王鷲の元に向かう。

 その先、後方に下がっているレティと宮廷魔術師の背後にオーガが迫っているのが見えた。

 二人はまだ気付いていない。

 混戦の中、王鷲に気が行っている状態では声も届かないか?

 ここからでは一〇〇メートル近く、魔弾(マジック・ブリット)の有効範囲にもまだ遠い。


 俺は立ち止まり、身体強化状態から弓を引き絞る。

 それでも引き戻されるような強力な応力を押さえ込み、狙う。

 初撃を当てるのは苦手だし、駆けているオーガに当てるのはまだ無理だろう。

 だからそのオーガの走り込む前方、地面に向けて矢を――放つ!


 弦の鳴る音に続いて魔法よりも速い速度で放たれた矢は、オーガ族の走り込む前の地面に突き刺さり、小さな爆煙を上げる。

 その突然の出来事に足を止めたオーガ。

 そして、その音に振り返ったレティと宮廷魔術師。


 レティは背後に迫られた驚きで動きが止まり、宮廷魔術師はすぐさま詠唱の速い土弾(アース・ブリット)を牽制に放つ。

 それは本当に牽制にしかなっていなかったが、俺が近付くだけの時間を稼いでくれた。


 距離は三〇メートル、当てられる!


 腕で顔を覆い、再び前進を始めたオーガ。

 そのオーガの足を払うように魔弾が命中する。

 突然の事に足の泳いだオーガはその場に転倒した。


 近距離では魔弾の方が使い勝手が良く、長距離では弓が当たらない。

 弓も、もっとしっかりと教わっておけば良かったな。


「アキトさん?!」


 俺はレティとオーガの間に割って入る。

 同時に起き上がるオーガの眉間に矢を放つ。


 それに気付いたオーガは防御のために腕を上げるが、放たれた矢はその腕を貫通し、さらに眉間をも貫通して、その先まで飛び去っていく。

 当たれば強力な威力だ。

 魔闘気や魔法障壁と言った魔法防御は突属性に弱いとはいえ、逆の立場になる事も考えると対策が必要だな。


 オーガはそのまま仰向けに倒れる。

 当たり前だが即死だ。

 他にも生きているオーガ族はいるようだが、五体満足で動けるような様子はない。

 魔力感知で調べても、近づいてくるオーガ族の反応は無かった。


 その魔力感知に膨大な魔力の反応が現れる。

 場所はリデルとルイーゼを残して来た方角だ。


 その方向には淡く青い光の柱が立ち上がっていた。

 その中心にルイーゼがいるのが見て取れる。

 優しく辺りを照らす魔力の光には悪意を感じない……と言っても、そんな事は分からないけど、なんとなく大丈夫な気がした。

 何が起きているかは分からないが、悪いことでは無いと思う。

 側に控えるリデルも緊張した様子が無かった。

 ならば大丈夫だろう。


「あれはお兄様ですか?!」

「あぁ、もう大丈夫だ。リデルは救い出した!」

「お兄様……」

「悪いが、今はこいつを倒すのが先だ」

「わかりました!」


 レティの気力が溢れ出す。

 俺の魔力感知(センス・マジック)では気力まで見ることは出来ないが、何か言葉にするならそういう感覚をレティから受けた。


 片翼を火球で焼かれた王鷲は、狂ったようにその巨大な嘴と前足でバルカスとパトリックを攻め立てていた。

 リーチのある攻撃に攻めあぐねている二人は、それでも注意を引きつける為に、ただ躱すだけで無く突き出される嘴や前足に斬り付けている。


身体拘束(ホールディング)!」


 クレスタの古代魔法が発動し、王鷲を魔力の鎖が包み込んでいく。

 しかし王鷲の動きが弱まることは無かった。

 ある程度の質量があると抑えきれないのか?


 王鷲の振るう翼が起こす突風で、舞い上がる土埃が視界を妨げる。

 そこを横殴りの前足が通り過ぎ、バルカスとパトリックが吹っ飛んでいく。

 転倒しながらも、瞬時に体勢を立て直す二人をみてホッとする。


「レティ、丁度二人が離れた、もう一度火球(ファイア・ボール)を頼む!」

「はい!」


「バルカス! 火球を使う!」

「アキトか?!」


 バルカスがパトリックを伴って間合いを空ける。


 俺は呪文の詠唱を始めたレティの背中に手を当て、レティの描く魔法陣とそこに流し込まれる魔力の淀みを取り払っていく。

 そしてオマケとばかりに俺の魔力も乗せていく。

 淀みの無くなった魔力制御は、それで一つの完成形のような美しい流れを作り、ついには巨大な火球となってレティの頭上に姿を現す。


 隣にいた宮廷魔術師が、その巨大な火球に言葉無く驚きの表情を見せていた。

 彼がいることをすっかり忘れていたが、見ただけでは俺が何をしたとも分からないだろう。


 直径二メートル近い火球の作り出す熱風に肌が焼かれそうだ。

 やり過ぎ感が半端ない。

 レティ自身も動揺しているが、魔法は既に発動している。


 空気を焼き上げるような音を立てる火球が、初速はゆっくりと。

 次いで徐々に加速を始め、軌道を修正しつつ王鷲を目指して行く。


 動物的直感かあるいは単に炎に対する忌避感か、王鷲はその翼を激しく振り空へ逃げようとする。

 しかしスピードの乗ってきた火球が、飛び上がる王鷲に食らい付くようにホップし、その胸元辺りに着弾した。


 圧縮された炎の塊が爆散し、巨大な王鷲を炎が包み込む。

 膨大な熱量が自らの体を焼き上げる苦痛に、王鷲は羽ばたくこともままならず墜落する。


 だが、それでも仕留めきれない。

 全身のほとんどを焼かれてなお立ち上がろうとする王鷲は、恐ろしく強靱な体力だった。

 その王鷲は、天空を睨むかのように頭を上げると、耳障りで甲高い咆哮を上げる。

 断末魔の叫び声とは思えない。

 もしかして仲間を呼んだか?


 空に突き上げるその頭部を、俺の放った矢が貫いていく。

 咆哮については今更かもしれないが、いずれにせよ無駄に苦しませる気も無い。

 力なく倒れ込む王鷲をみて、やっと一息を付けると思ったのもつかの間だった。

 そう遠くも無い位置で、似たような咆哮が上がり始めた。

 想像以上の数にびっくりした。

 俺達以外の救出部隊にも、襲いかかった王鷲がいたのだろう。


 まさか全部ここに来たりしないよな?


「大丈夫だアキト。

 彼奴らはずる賢く、手痛い反撃を受けた場合は今のように仲間に知らせる。

 今のは撤退を伝える声だ」

「王鷲の言葉が分かるのか?」

「まさか。ただ、幾つかのパターンを知っているだけだ」


 そう言えばバルカスは冒険者時代にこっち方面で活動したいたんだったな。

 あんなのが突然襲ってくる場所だ。

 王鷲の特性にも詳しくなるか。


 そのバルカスの言葉を証明するかのように、あちらこちらから王鷲が飛び立っていく。

 堂々と北の山脈を目指して飛び去っていく王鷲を見て、集団で襲われた時のことを考えるが、もちろんそれは最悪の結果しか思い描けなかった。


 ◇


「お兄様!」


 レティが歩いてきたリデルの胸に飛び込んでいく。

 リデルは慈しむようにレティの背中と頭に手を回し、優しく抱擁を返す。


「心配かけたね」


 頭を振るうレティに言葉はない。

 ただ強く抱きしめる腕に力がこもる。


 リデルに続いて救出隊のリーダーが歩み寄ってくる。先ほど倒れていた騎士の中にその姿があったのを覚えている。

 大きく損壊している鎧までは回復魔法では治らない。ひどい怪我をしていたことは確実だが、今はその様子すら見せていない。

 こうして動けるようになったのもルイーゼの回復魔法を受けた結果だろう。


「リデル、ここに囚われていたのは八人か」

残っている(・・・・・)のは八人です……後の五人は僕が殺した」


 僕が?


「お兄様!」


「どういうことだ、同じ騎士団の者を殺したというのか?」

「知っていることは全てお話いたします」


 救出隊のリーダーは思案し、決める。


「リデル、君の身を拘束させてもらう」

「わかりました」


「お兄様っ!」

「レティ、僕は生きている。今はまず、それで良しとして欲しい。

 アキト、すまないがレティを頼む」

「まかせてくれ。

 俺は心配していないから」

「心強いよ」


 流石に拘束といっても手枷のような物を付けられたりする訳ではないようだ。

 あくまでも容疑の段階ということだろう。

 この国の法制度を知っているわけじゃないが、リデルは正真正銘の貴族だ、きちんと話を聞いてくれると思いたい。


「それで、他の捕虜はまだ暴れているのか?」

「バルカス、学園の講師をやめても子守は変わらずか。

 捕虜となっていた者はしばらく抵抗を示していたが、先ほどその動きも止まった。

 それからは、逆に不気味なほどなんの意思も見せようとはしない」


 隷属状態が解除されたのであれば良いと思ったが、隷属状態のまま命令だけが破棄されたのか。

 それとも、命令を下した者が死ぬと勝手に破棄されるとか。


「それは指示者が倒されたとみていいでしょう。

 隷属魔法の効力は残したまま待機状態になるといえます」


 宮廷魔術師の言葉だった。


「いずれにせよここでの戦いは終わった。

 俺達を癒やしてくれた回復魔法に丸焼けの王鷲と、色々聞きたいこともあるがそれは戻ってからにしよう。

 これより作戦に従い、助けだした仲間を守りつつ合流地点まで下がる」


 無論俺達も一緒に移動する。その後は頃合いを見て離脱だ。追求されるにしても後回しでいいだろう。

 リデルのことは心配していない。理由もなく仲間を手に掛けるはずがない。

 それに隷属魔法の支配下にある状況だとすれば責任能力を問うのは難しいだろう。


 正直疲れた、しばらくはゆっくりと休みたかった。


 ◇


 あれから五日。

 俺達は作戦本部の置かれる村に来ていた。


 良く言えば救出作戦は成功に終わった。

 救出隊の人的被害も少なくはないが、王鷲の乱入を考えれば成功と言っても良いのだろう。

 助けだした捕虜は七八人。混戦の中で命を落とした捕虜もいた。

 この一ヶ月で、捕虜となった王国騎士の半数が命を落としたことになる。


 オーガ族の残党を率いていたジェネラル・オーガは王国騎士団を率いた副将軍が討ち取ったらしい。

 残ったオーガ族残党や周辺に散っていたオーガ族残党も、ギデス率いる西のオーガ族による報復戦で、その多くは姿を消すだろう。


 ただ、最後まで上位魔人は現れなかったと聞いた。

 その置き土産としての隷属魔法は未だその効力を保ったままだった。

 元々解除の魔法や解除指令を出させることは難しいと思っていた。だから王国騎士団は隷属魔法を正攻法で解除することは諦めていた可能性もある。

 救出作戦自体は終わったが、すべてが終わったとは言えないな。


 リデル以外の捕虜は全員が意思の失われた状態だった。

 そのうちの何人かはリデルがそうであったように、隷属魔法に抵抗し続けるように魔力が胎動していた。

 リデルほど強くはなかったため見逃していたけれど、彼らであれば俺にも救い出せるかもしれない。

 一人だけ隷属魔法から助かったでは在らぬ疑いを掛けられるかもしれない。

 でも何人か同じように回復したならば状況も変わると思われた。


 あれ以来リデルとは会えていない。

 一度は元気の戻ったレティだったが、再び落ち込んで行く姿を見るのも不本意だ。


 俺はバルカスのツテを頼り、捕虜となっていた騎士の一人に会う手筈(てはず)を取ってもらう。


「出来るのか?」

「自信があるわけじゃない。

 でもリデルは救い出せた。なら、試してみる価値も有るだろう」


 バルカスの心配はもっともだったが、多分失敗しても悪いことにはならないだろう。

 リデルの隷属魔法を取り払った時、それに抵抗して効力を上げるといった感じは受けなかった。


 俺はあるテントの一室を借り、人払いを頼む。

 ここにいるのはバルカスとルイーゼ、レティ、それにリゼットだけとなる。


「アキト。

 暗黒魔法とは、それ自体を構成するための核となる部分、いわば魔法陣のようなものを持っています。

 それが完成する前であればアキトの力で取り除くことも可能でしょう。

 探してください、隷属魔法の核たる部分を」

「やってみる」


 リゼットの言う魔法の核たる部分、まずはそれを探る。

 魔力感知で、無気力な騎士を蝕む隷属魔法の魔力を感じ取っていく。

 リデルほど明確ではないが、その魔力の中に幾つかの(くさび)のように騎士の魔力に影響を与えている部分を感じ取る。


 俺は騎士の胸に手を当て、その楔を分解するように吸収を試みる。

 その楔は深く、リデルの時とは違って簡単には俺の魔力制御を受け入れてはくれなかった。

 魔力への抵抗力がリデルほど高くないのだろう。

 それでも、時間を掛ければなんとかなりそうだ。


 数分を掛けてなんとか最初の核を取り除く。

 その一つを失った隷属魔法はその時点で魔法としての効力を失うのか、騎士の瞳に生気が宿っていった。

 念のため残りの楔も分解し、隷属魔法を構成していた魔力を抜き去る。


 力なく崩れ落ちる騎士を支えるのはバルカスだった。


「……老け、たな、バルカ、ス」

「ほざけ」


 いけそうだな。

 疲労までは消えないが、それでも人形としか思えなかった様子が一変し、今は人間らしい表情を浮かべていた。


「アキト、お見事です」

「リゼットのアドバイスのおかげさ」


 リデルの時よりも具体的に目的が分かっていた分簡単だった。

 やはり知識というのは大切だな。


 ◇


 最終的に、その後何人かの騎士の隷属魔法を解除し、何人かの騎士の隷属魔法を解除できなかった。


 違いは一点。

 隷属魔法に抵抗し続けたことで、魔法が効力を完全に発揮しきれなかった事だろう。

 完全に発動してしまった隷属魔法に関しては、どう頑張っても解除することは出来なかった。


 解除できた騎士たちは大小の違いはあれ、隷属魔法支配下での記憶を持っていた。

 そして俺達はリデルの身に何が起こったのかを知る。

 本人の意志が及ばないところで起きた事だ。そこにリデルの責任は無いと思えた。

 でなければリデル以外にも処罰を受ける騎士は多かった。

 リデルがどう思うかは別として、真相が明らかになればリデルも開放されるだろう。


 残りは後始末だ。

 隷属魔法を解除できなかった騎士については、もう俺の方で出来ることはない。

 後は国の方でどうにかしてもらうしかない。


 それよりも何処で嗅ぎつけたのか、隷属魔法を解除できるという噂が広がり、各々の貴族が募った捜索隊から、その解除の申込が殺到していた。

 相手は貴族に連なる人々のため無下にも出来ない。

 かと言って解除できる条件を満たしている元捕虜は残っていなかった。

 それを素直に説明しても、藁にもすがる思いでこの場に来た人々が納得してくれるとも思えない。


 窓口となっていたバルカスが音を上げる。


「アキト、どうにかしてくれ!」

「俺にどうにか出来るレベルの話じゃなくなっているんだが」


 悩んでいるところで外の騒動が収まったことに気付く。

 人の気配はあるので諦めてくれたというわけでもなさそうが。


「アキト、俺はもうだめだ。

 後は任せる、くれぐれも失礼のないようにな」


 バルカスが仕事を放棄した。

 何が失礼の無いようになのか。


 続けて入ってくるのは二人の騎士だった。

 王国騎士の装備より、より形式美的な装いで身を包んだ騎士だ。

 過去にも何度か見たことの有るその顔は、近衛騎士の二人だった。

 そして、近衛騎士に続いて一人の少女が入ってくる。


「久し振りですね、アキト」


 ここで会うとは思っていなかったが、本当に久しぶりだ。

 少女の愛くるしい笑顔は、何処か悪戯好きな雰囲気を漂わせていた。


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