表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
16/225

初めてのパーティー・前

「坊主、だんだん獲物が大きくなってきたな、よく凶牛を倒せたもんだ」


 換金をしに寄った冒険者ギルドで声を掛けてきたのは熊髭だ。


「慣れてきたみたいだし明日は俺たちのパーティーに付き合わないか。

 ちょっと大きい獲物を狩るんだが持ち帰るのに人手が必要なんだ」


 この場合の人手というのは本当に俺の手という事では無くモモの収納能力の事だ。

 流石にこれだけ同じ場所で狩りをしていれば二人で持ち帰れないような獲物を狩っている事もバレる。そこから想像するに空間魔法か魔法鞄に行き着くのは簡単だ。

 流石にブラウニーは珍しすぎて候補に入らないとしても、貴族のリデルなら魔法鞄当たりを持っている可能性も高いと考えているのだろう。

 最近の俺は一角猪や凶牛に飽きていたので新たな魔物にちょっぴり興味があった。


「いいの?」

「まぁ、荷物持ちくらいしか頼むつもりは無いが、そうだな……四,五日の予定で銅貨一,二〇〇枚はどうだ」


 今の俺ならもっと稼げるが、経験も必要だというのは言い訳か。


「行く、行くよ!

 それに一緒に戦うさ、まかせてくれ!」

「いや、戦うのは俺たちだけで良いんだが。金髪の相棒も連れてこいよ」


 熊髭の声はすでに届いてなかった。

 こうして冒険者になって初めての本格パーティーを組む事になった。


 ◇


 朝日の出る頃、町の西側に大柄な人影が二つ、普通が三つ、低い日差しに長い影を作っていた。どうやら俺が最後のようだ。これでも早めに出て来たのだけれどな。


 大柄な人影が熊髭ことベルモンド。武器は片手剣で盾を背負っている。雰囲気的に斧でも振り回していそうだが、意外と器用なのかもしれない。革製の鎧の下には鎖帷子を着込んでいる。立ち回りはリデルと同じで前衛で盾役のようだ。


 もう一人の大柄はマーカス。こちらは痩せすぎない程度にスマートで身軽そうだ。武器は身長ほどの槍で防具は同じように革製の鎧と鎖帷子を着込んでいる。二人が前衛になるのだろう。


 その隣が身長も体格も見た目もこれぞ平凡といった感じのクロイド。布製の服にローブを着込み、手にはいかにも魔術師という感じの杖を持っていた。


 さらに隣が優男風のニコラス。弓と矢を背負い、腰には短剣。動きやすさを重視した革製の服を着ている。


 俺の近くにはリデルがいる。いつもの装備に軽めの背負い袋をもっている。

 今回はいつもの日帰りとは違って野営がある為、ちょっとした荷物があるのは俺も同じだ。まぁ、内容は携帯食と水くらいだが。


「んじゃ、目的地は隣のトムリナ村手前にある森林地帯だ。そこに現れた流れ魔物の巨大熊をやる。街道沿いを通る商隊が二度ほど襲われているらしい。

 魔物は元々凶暴だが、此奴はそれに輪を掛けて凶暴だ。出くわしたら逃げられると思うな、見た目以上に足が速いからな」


 俺とリデルは道中で今回の獲物となる魔物の情報を熊髭から聞いていた。

 流れ魔物は魔巣から魔巣に移動する魔物で、通常は魔巣から遠く離れる事が無いはずの魔物が例外的に魔巣から出てくる。

 何故別の魔巣に移動するのかはわかっていないが、突発的に起こる移動を警戒しているのはなかなか難しい。


 そして、魔巣から出てくると比較的ゆっくりと移動する事から、その道中に町や街道があると被害が大きい。よって流れの魔物は発見され次第直ぐにギルドから討伐依頼が出る事になっていた。

 今回はその討伐に熊髭のパーティーが名乗りを上げたようだ。


 ◇


「はっ!」


 草むらから襲ってきた猪を一撃で仕留める。


「ほう、坊主にしちゃ見事なものだな」


 熊髭は本気で感心しているようだ。


「まかせてよ!」


 満面の笑みで答えながら、腰のナイフを引き抜くと仕留めた猪の皮を剥ぎ始める。

 最初は苦手だったが、この三週間ほど狩りを続けたので自分で皮を剥ぐ事が出来るようになっていた。


「しかし、坊主はなんで盾を持たないんだ。別に二刀流でも無いだろう。盾が買えない訳じゃあるまいし」

「うーん、前に一度貸してもらった事があるんだけれど、重くて上手く使いこなせないんだ。体の重心が手先に寄って動きづらいと言えばいいのかな」

「そりゃあ、それなりに丈夫に作らないと役に立たないからな。それでも慣れておかないといざという時に体を守れないぞ」

「基本は躱すようにして、どうしても躱せそうに無い時はこうやって……」


 俺は魔弾(マジック・アロー)を近くに木に撃ち込んだ。外れる事無く魔弾(マジック・アロー)を受けた木が衝撃で枝を揺らし、木の葉が落ちてくる。


「なっ、なんだそれりゃ」

「一応、魔法のつもりなんだけど」

「アキトは躱せない時にその魔法を衝撃波として敵の攻撃を反らすからね。

 初めて見た時は出鱈目だなぁと思ったよ。

 それに慣れてしまった自分もどうかと思うけれど」


 俺の成長を最初から見ているリデルでも出鱈目だと思っていたのは心外だ。確かに思いつきでやっているから見る人が見たら出鱈目なんだとは思うけれど。


「クロイド、こんな魔法あったか?」


 ローブを着込んだ魔術師のクロイドは少し考えてから答えた。


「たぶん……魔法の失敗?」

「失敗かよ!」


 熊髭と槍のマーカスが声を上げて笑いだす。


「仕方ないじゃ無いか。いつかきちんと魔法を習う事が出来たら使えるようになるはずだ」

「失敗と言っておいてなんだけれど、普通は魔法の具現化に失敗した時は何も起こらないはずなんだ。

 それでも、魔力その物は失われる。失われた魔力がどうなるかというと霧散する。

 ただ魔力その物は力だからね、今のように霧散する魔力を力として作用させる事は出来る。

 普通はそこまで魔力を制御出来たら、何かしらの属性魔法を具現化する方が簡単なはずなんだ。だから只の衝撃波として使う魔術師はいないよ」

「坊主は凄いんだか凄くないんだか分からんな」

「無詠唱で魔力を具現化しただけでも素晴らしい才能と言えるよ」


 俺の場合は魔道具が買えないし魔声門による呪文の詠唱が上手く出来ないので、苦肉の策として無詠唱になっただけだが。

 魔法の超初心者がいきなり上級クラスの方法で魔法を使おうとしていたって事だから、あるいみ素直に出来なくても不思議では無い。


「クロイドが基本くらい教えてくれるさ」


 弓のニコラスが、気落ちした俺を慰める。


「まぁ、実は私も詳しい事はよく分からないんだ。実際に目にするのは初めてだしね。

 それに無詠唱は便利だけれど、上級魔法になるにつれて難しくなっていくから、早い内に魔声門でも魔法が使えるようになった方が良いだろう」

「魔法具を買うお金が無いからまともな魔法が使えるようになるのはまだ先だなぁ。

 でも、ま、これはこれで使い道もあるし、今は魔法が使えるだけでも助かっているから」

「というか坊主は魔術師になりたいのか?

 俺はてっきり剣士になりたいんだと思っていたが」

「えっと……どっちもかな」

「どっちもって、どっちも半端になるだろ」

「えっ……なんかこう、物理と魔法が合わさって最強みたいな?」


 みんなに呆れられた。そんなにひどい考えだったのだろうか。


「アキトは意外と器用に立ち回っているから、珍しいけれどそのスタイルが合っているのかもね」


 リデルのフォローに胸が熱くなるぜ。


「まぁ、坊主は冒険者として優秀だから、その内買えるさ」

「え、俺優秀なの?」

「そりゃ優秀だろう。冒険者なんかその日食べていければ合格ラインだ。

 坊主は多少蓄えもあるだろ。蓄えが出来る様になれば優秀で良いだろう」


 確かに最初の頃の苦労に比べるとここ最近の安定した稼ぎは自分でも驚きだが。


「リデルのおかげで助かっているよ」

「それは僕の言葉でもあるんだけれどね。おかげで僕も旅の支度金が出来たよ」


 リデルは俺と違って買い物に使っていないから銅貨一〇,〇〇〇枚くらいは貯めているだろう。日本円感覚で言うと一〇〇万円くらいに当たると思う。


「貴族の坊ちゃんは仕官先を探しに王都にでも行くのか」

「そうですね。僕は貴族といっても五男ですから爵位を継げる可能性はありませんので。

 どうせなら一度くらいは王都の騎士登用試験に参加してみようかと思っています」

「そのまま冒険者でも上手くやっていけそうだがな」

「悪くは無いですね。でも、やっぱり僕は貴族として生きたいと思っています」


 リデルの望みは王国の剣でありそして盾である王国騎士団に入る事だ。その為の実戦訓練として冒険者をしているだけで目的では無い。


 リデルに聞いた話では王国騎士団に入るには冒険者ランクC以上かそれに見合う実績を残すのが早道らしい。それ以外の方法としては王国軍団に入り国境警備や治安維持、流れの魔物討伐などをこなして地道に昇進していくのが正攻法らしい。


 ただ戦争らしい戦争が無い時代に入り、王国騎士団や王国軍団でも実戦経験の不足から練度の低下があり、希に出現するランクAクラスの魔物に後れを取る事があった。

 そこで、若く優秀な人材を集めて教育する騎士学校が設立された。

 リデルが狙っているのもこの騎士学校で、そこを卒業し、騎士登用試験に合格する事が当面の目標だった。


 騎士登用試験は実技と筆記がある。実技は個人戦と団体戦での動きを評価され、筆記では戦術論と魔物の特性などが中心になる。

 ちなみに騎士登用試験は一五歳以上で受けられるようだ。年齢以外に騎士登用試験を受けられる条件は貴族である事。だから俺は受けられない。今のところ王国騎士になりたい気持ちは無いけど。


 ◇


 初日は元々移動だけの予定だったので、アクシデントも無く野営に入る事が出来た。


 何故かこの世界はテントが主流では無かった。

 だから野営といっても夜露が凌げそうな木や大岩の下で毛布に包まって寝るだけだ。

 テントが使われないのは荷物として嵩張ってしまうのと、夜露を通さないような布は非常に高価で、当然テントも高価になってしまうからだ。

 それに高価なテントを使っていては盗賊に襲ってくださいといっているような物らしい。


 食事は携帯食が普通だ。

 俺がこの世界に来た時は携帯食すら持っていなかったので、大足兎を追い回して何とか食事にありつけたのも今となっては懐かしい。

 たまたま道中で獲物を捕らえる事が出来たら調理して食べる事もあるらしいが、寄り道をしてまでは狩りを行わず携帯食で済ますようだ。

 だから今夜が携帯食では無く調理された食事なのはたまたまだ。


 槍のマーカスは意外にも料理がうまかった。味気ない携帯食では無くきちんとした食事を取る事が出来た。

 こっちに来て三週間が過ぎ、思い出したように元の世界の料理が食べたくなる。

 グリモアの町では米を見た事が無かった。麦もライ麦だ。この世界の主食は肉かライ麦パンで、御飯どころか麺類も見掛けなかった。


 熊髭のベルモンドをグリモアで見掛ける時はいつも酒を飲んでいる印象だったが、流石に仕事中は飲まないようだ。明日遭遇するであろう魔物を相手とした戦術の確認と、装備の確認を行っている。

 戦術の中に俺とリデルは含まれていない為、若干手持ちぶさただ。

 結局そのまま俺とリデルが最初の見張り番をする事になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ