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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第一章 リデル編
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ありふれた日常・前

 あれからルイーゼとは半日ほど鍛錬を繰り返し、久しぶりの戦いの感覚にも慣れて来た。

 攻撃魔法を取り入れての鍛錬はルイーゼにとっても新鮮だったらしく、また、俺がルイーゼに対して攻撃魔法を使うようになったことを、とても喜んでいた。


 その喜び方はどうかと思うが、ルイーゼにとっては俺が攻撃の手段を増やすことは、その実力を認められたことになるのだろう。

 確かに俺はルイーゼの実力を認めている。

 以前の俺だったら、戦闘面においてルイーゼに勝る部分は無かったかもしれない。

 そういう意味では何とか面目を保てたようで良かった。


 ただ、ルイーゼは一つだけ勘違いをしている。

 俺は以前(・・)からルイーゼの戦闘能力を認めている。

 敵愾向上アナマーサティ・アップ魔法障壁(マジック・シールド)と言った盾役としての魔法は使えないが、安心して前線を任せられるという点では信頼している。

 そのおかげで俺が遊撃的に動けるのだから、本人が思っている以上に俺は助かっていた。


 鍛錬の最後に、俺は一つの試みをする。


「ルイーゼ、何時ものように魔力制御の鍛錬を行うけれど、今回は俺の魔力制御を受け入れるのでは無く抵抗してくれ」

「はい、アキト様」


 何時ものようにと言ったところで、ルイーゼが少しだけ泣きそうな笑顔を見せる。

 待ち続けた日常は俺も同じだった。


「アキト、それはどういった理由で行うのですか?」

「あぁ、これは魔封印の呪いを解呪したことで気が付いたんだが、筋力にしろ魔力にしろ負荷を掛けていた方が力が伸びるんだ。

 なら、魔力制御力を伸ばすにはどうするかを考えた。

 よく考えてみれば、魔術師は難しい魔法の制御を乗り越えながら魔力制御力を付けていくだろう?

 だったら魔力の制御力を上げるにも、それを乱そうとする力とせめぎ合うのが一番だと思ったんだ」


 リゼットは一瞬だけ思案する表情を見せる。


「アキト、私もご一緒したいと思います」

「もちろん構わないさ。

 どうするかは見ていてくれれば大体分かると思う」


 俺は裏庭の芝生に、ルイーゼと向かい合って座る。

 次いでその両手を取り、ルイーゼが常時展開している身体強化の制御を強引に解除する。

 ルイーゼは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、再び身体強化のために魔力制御を行う。

 でも俺はそれが上手くいくかいかないかという所で邪魔をし続ける。


 この鍛錬は俺にもメリットがあった。

 魔力制御は精度良く行う方が良い。

 それには魔力の力と方向性を細かく調整するのが一番だ。

 ルイーゼが四苦八苦して魔力を制御しようとするのを、俺が魔力感知で感じ取り、出来るだけ無駄がない様に邪魔をする。


 この上手くいくかいかないかという所を感じ取って、邪魔をするのも中々に難しかった。

 ゴールが見えるからあと一息と頑張れるが、全くその様子が見えないと逆にルイーゼの感覚を狂わせてしまうだろう。


 今のルイーゼからは抵抗らしい抵抗を感じることは無かった。

 これは逆に伸びしろともいえる。

 魔力制御への抵抗は、そのまま魔法を受ける際の抵抗(レジスト)にも繋がる。

 精霊魔法のように事象変化を伴う魔法には関係ないが、人の内包する魔力に干渉する魔法であれば抵抗出来るはずだ。


 幸いにして俺達は今までにそうした状態異常魔法(デバフ)を受けたことは無いが、仕組みで言えば回復魔法に抵抗することと同じはずだ。


 ついで、リゼットにも同じ事を行う。


 結果はルイーゼと同じだった、というかルイーゼより抵抗を感じなかった。

 リゼットは高度な魔法を使用出来るだけの魔力制御力を持つが、魔力制御力が高くても抵抗する力は別らしい。

 もしかしたら魔封印の呪いを解呪しているリゼットは、その魔力制御を邪魔されるという感覚が無かったのかもしれない。


「とても勉強になりました。

 自分自身の課題が見付かるのは嬉しいものですね」


 研究者らしい感想だ。

 明日からしばらくは、まとまった鍛錬も出来ないと思うが、魔力の鍛錬はちょっとした合間に出来るので、どんどん行っていくことにする。


 ◇


 リデルの捜索隊が出るのは明日だ。

 それに向けて装備を一新するにあたり、今から生活基盤の確認を行うことにした。


「ルイーゼ、頼む」

「はい、アキト様。

 まずはリザナン東部都市に向かった二月から先週までの『カフェテリア』の売上ですが、約銀貨三〇〇枚になります。

 メルさんとリルさんのお二人にお任せしっぱなしでしたので、人手が足りず売上に影響が出ています」


 とは言え、月に銀貨五〇枚。贅沢をしなければ十分に生活の出来る金額だ。

 メルとリルはまだ幼い。

 二人とも一三歳だったと思うが、良く店を回してくれたと思う。

 これには感謝の気持も込めてボーナスを出すことにする。


「二人には銀貨一〇枚ずつの臨時手当てを出してくれ」


「わかりました。

 次にウォーレン商会からの売上が入っておりますが、こちらは先月までの分としまして金貨一八二枚となります」

「は?」


 金貨一八二枚?

 何をどう計算したらそんな金額になるんだ。

 ウォーレン商会には絹布の材料となる粘着袋の作り方を売った。

 粘着袋は一袋金貨一枚で売っていて、その売上の五パーセントが俺の元に来る約束だった。

 仮にこれが五パーセントというなら粘着袋が三,六四〇個も売れたことになる。

 いくら何でも非現実的過ぎるな。

 これについては後ほどウォーレンに直接聞くことにする。


「次に国王陛下からの生活費として銀貨六〇〇枚」


 ありがたいというか恐れ多いというか。

 俺は国王陛下のポケットマネーで、五年間に限り学費の免除と生活費として月に銀貨一〇〇枚を頂いている。

 ただ、このお金をいただくのは非常に気まずい。

 何故ならば王都学園に通うことに対して頂いているからだ。

 半年ほど王都学園に通っていなかった以上、気持ち的には返したいところだ。

 でも、これは好意で頂いているもので、返却というわけにも行かないだろう。

 となれば、後は何とか実績を残すしか無い。


「同じく国からの給金として七か月分、金貨七〇枚」

「は?」


 あぁ、すっかり忘れていた。

 俺は成り行きで王国栄誉騎士勲章を受章した。

 これは権利として士爵位を示し、国から正式に給金も出る。

 それでいて、自由騎士扱いで国の政務に就く義務はない。


 なんとも都合のいいものだが、主に平民に出す勲章なので都合がいいのは当たり前なのだろう。

 当然か、平民に政務を行われても困るだろうし。

 すっかりその存在を忘れていたな。


「ウォーレン様とお国からの支給金につきましては私の方でお受け取り出来ませんので、後ほどアキト様にお願いしたいと思います。

 最後に、探索や魔物狩りの方で得た利益が銀貨一五〇枚となります。

 バルカスさんとタイラスさんにはこちらから謝礼をお支払いしていますので、少なくなっております。

 それから生活費の方もパーティー金庫の方から出させていただきました」


 それでも金貨で約二六〇枚近くの資金がある計算だ。


「参ったな。何が何だか。

 取り敢えずウォーレンの分は何かの間違いだと思う。

 それを引いて残り約金貨八〇枚。その内、給金として頂いた金貨七〇枚は、自分のために使えるお金じゃない……よな?」


 俺はリゼットに伺いを立てる。


「本来貴族が頂く給金は政務にまつわる経費として使用すべきものです。

 ですがアキトの場合は貴族ではありませんから。

 ご自分の使いたいことに使えばよいでしょう」

「自分と言ってもなぁ……せいぜい装備を一新するくらいか。

 それだって自前で用意できるし、特に使い道も――そうだ、リゼット。

 俺から借金をする気は有るか?」

「借金ですか……そういうことですか。

 ありがたく使わせて頂きます」


 リゼットはこれから民のために事を成そうとしている。

 その為に取り急ぎ運用資金は必要となるだろう。

 お金は遊ばせていても何も生み出さない――と父親が言っていた。

 これは言ってみれば投資だ。

 リゼットの行いが巡り巡って俺に利益をもたらすと考えての。

 お金持ちの貴族様を紹介して貰って、銀細工でも買って貰おう。

 しっかりしたリゼットのことだ、あげると言っても受け取らないだろうし、丁度良い。


 トサッ!


 モモが膝の上に身を投げだしてきた。

 久しぶりに会った事もあって、甘えたいのだろう。

 事務的な話が続いて飽きてしまったか。

 モモの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに目を細める様子は、まるで猫みたいだ。


「それじゃちょっと装備の新調と合わせてウォーレンの所に行くか」

「お伴します、アキト様」

「私は捜索に向かう前に実験を行いたいことがありますので残ります」

「わかった」


 俺はモモを立たせてあげると、ルイーゼとともに街に繰り出す。

 向かうはウォーレン商会だ。


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