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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第一章 リデル編
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魔力制御・後

 俺は触れる事で他人の内包する魔力を、制御することが出来る。

 もちろん無条件で出来るという訳ではないが、俺の魔力制御能力が相手より高ければなんとかなる。


 同じ事がリゼットにも出来るという。


 俺は魔力の無い世界から魔力のある世界に来た事で、魔力という力その物に対する認識力が高かった。

 ならば、持っていた力を失った事でも同じ事が言えるんじゃ無いか。

 というか、リゼットの言う私にも出来るというのはそういう事なのだろう。


「アキト、強化魔法については何処まで知っていますか?」


 この世界には戦士や魔術師がいる。

 中には武器を使いこなし近接戦闘が得意なのに、魔法の才能もあり高度な魔法を使いこなす人もいるそうだ。

 だが、それを同時にこなす人はいなかった。

 常にどちらかのスタイルに切り替えて戦う。

 それを素早くロス無くこなせるようになると超一流と言えた。


 ただ、ここで使われる魔法は精霊魔法に限られている。

 精霊魔法はその名が示すように精霊の力を借りる魔法だ。

 そのため発動するまでのプロセスが、数ある魔法の中でもっとも簡単と言われている。

 ちなみに無属性魔法は魔力を具現化する訳では無いので、プロセスすら必要ない。


「王都学園の講師をやっているジーナス先生から聞いた事が全てだ。

 現在強化魔法は殆ど研究されていない。

 それは強化魔法が実用的では無いと判断されたからだ」


 俺やルイーゼ、そしてかつての仲間が使う身体強化魔法は一般論としてそう判断されている。


「それは身体強化魔法が常時展開型の魔法であるため、魔力制御を継続しなければいけないという点にある。

 魔力を制御し続けながら近接戦闘を行うのは至難の業で、それをするくらいならば精霊魔法を使った方が簡単に大きな攻撃力を得る事ができるからだ」


 強化魔法が実用的では無いと言われるのはこの一点に限る。


「だが、一つだけ身体強化魔法を常時展開する方法がある。

 それは、魔力に対する認識力をひたすら高める事だ。

 普段何気なく手足を動かす時に使っている力、それと同等になるまで魔力の制御ができれば、戦いの中においても常時展開が可能だ」

「その通りですアキト。

 ですが、常人にはそこまで魔力を認識する事は難しいでしょう。

 それを手助けする力が私とアキトにはあります」


 かつてルイーゼや仲間に身体強化魔法を教えた方法だ。

 外部から相手の魔力を直接制御し、本人に魔力その物を認識する手助けを行う。

 体内を流れる魔力を正しく、そして強く認識できる事でその制御能力も上がる。


「これは危険な力です」


 何が危険かというと、この世界の身分制度に大きな変革をもたらす可能性があるからだ。

 身体強化魔法最大の特徴は、魔封印の呪いに掛かっていても使えると言う事だ。

 現状もっとも広まっている魔法は精霊魔法だが、精霊魔法を使うには魔封印の呪いを解呪する必要がある。

 解呪の魔法具は高価な為、平民が解呪するのは難しかった。


 仮に平民が身体強化魔法を使えるようになったとすると、圧倒的多数を占める身分の低い者が力を持つ事になる。

 それは治める立場にある貴族にとっては脅威となるだろう。


 もっとも俺とリゼットの二人で、勢力図が書き換わるほど多くの人を教育する事は出来ない。

 だからリゼットの言う危険とはもう一つの方だ。


「この力は固有の能力(ユニーク・スキル)に匹敵するもので、この世界で生きている限りここまで魔力を正確に認識する事は難しいでしょう」


 俺やリゼットのように、他人の魔力まで制御出来るレベルの人が増えるとなれば大事になるだろうが、それは難しいだろう。


 なぜなら、俺達と同程度の認識力を得る為には同じように世界を渡り、魔力の無い世界である程度長い期間を過ごさなければいけない。

 魔力の感覚を完全に失ってから再び魔力を得る事で、その力の認識を強く持てると考えられるからだ。


 それはつまり異世界の存在を明らかにする事になる。

 俺やリゼットがどうやってこれだけの力を身につけたのか。

 その理由がバレる事は危険と言えた。


 もちろん自分で話さなければ分からない事だが、懸念すべきこともあった。

 この世界には真実の水晶と呼ばれる物があり、その名の通りその水晶には真実が映し出されるそうだ。


「力を得た理由を聞かれた時、真実の水晶を誤魔化す方法はあるのか?」

「真実の水晶は人の記憶では無く地脈の記憶を写す物です。

 地脈の存在しない異世界のことは写さないと考えて良いと思います」


 地脈以外に竜脈と霊脈があるんだったか。

 地脈は人の記憶を保持しているとか聞いた気がする。

 そして魔力を司るのが竜脈だ。

 竜脈がないから元の世界には魔力がないと考えれば、地脈もないのだろう。


「アキトはこの世界の歴史に名を残すような事には興味が無いでしょう」

「無いな」


 欲しい物はそれなりに多いけれど、その中に英雄や勇者と言った物は無い。

 もちろん一国の王になるとか世界を支配するとか想像すら出来ない。

 俺にある欲は、一言で言えば自由気ままに生きていける力が欲しい事だ。

 どんな敵が現れても負けない力であり、どんな権力にも屈しない力だ。

 その結果として英雄であったり国王であったりしても、目指すところでは無い。


「私にもありません。

 ですが私は、私を育ててくれた民に、ささやかでも恩を返したいと考えています」


 リゼットが、貴族としての自分を支えてくれた民のために、何かを成したいと思っているのは知っていた。


「その為には政治的な力と多くの資金が必要なのです。

 私はこの力を利用して国を味方に付けようと思います」


 国を味方に付ける――公認って事か。

 こそこそやるなら危険視されるかもしれないが、管理下で行われる分には国にとっても大きな力となる訳だ。


 しかし――


「それは結局、王族や貴族の独占に利用されるだけじゃないか」

「それで問題は無いでしょう。

 私一人ではどれほど頑張っても数十人と教えられません。

 民の数十人が身体強化魔法を使えるようになったところで、全体で見れば大きな影響はないでしょう」


 たしかに何万あるいは何十万といる民の生活を変えるには不足だろう。


「魔封印を解呪しても思ったように魔法を使いこなせない人も多いのが実情です。

 そして貴族はプライドの高い人々の集まりです。

 私がもしそれらの人々の力になれるのであれば、有力な協力者を得られると考えています。

 貴族を相手に全てを話す必要はありません。ただ結果だけを残しましょう。

 そうですね……精霊魔法の効率化くらいが良いでしょうか」


 貴族は力を示す必要がある。

 それには政治的な力だけでなく軍事的な力も含む。

 有能な人材を多く抱えることで、家格に影響をあたえることも多い。

 そのなかで、魔術師は分かりやすく有能な人材と言えた。

 領地なしの貴族にとっては多くの魔術師を抱えることがそのまま軍事力に繋がると言っても良かった。


「ただ、貴族ならだれでもという訳にはいかないでしょう。

 その為に人選を誤るわけにはいきません。

 動けるようになるまでには、まだまだ時間が必要ですね」


 リゼットは得た力を目的のための手段にすると言う。

 勢力図を書き換える行為は反発も大きいと考えられる。

 それを受け止められる地盤を作るのは簡単な事では無い。

 俺に出来る事は多くないが、力が必要なら力になるつもりだ。

 でも、リゼットの戦いの場は政治の世界だ。

 だからリゼットも俺に助けを求めることは無いかもしれない。


「リゼットはこの後はどうする?」

「リデル様の件が落ち着きましたら、ロドリゲスと連絡を取りたいと思います。

 彼は長年ウェンハイム家に仕えてくれました。

 人脈も多く、一度話すことは無駄にはならないでしょう」


 ロドリゲス執事長。俺も二度ほどあったことのある老紳士だ。

 俺が異世界から来たことを知っている人物の一人であり、リゼットの良き理解者でもある。


「直接会うなら、俺の名前で手紙を出そう」

「直接会いたいと思います。

 これからロドリゲスと会う機会は増えると思います。

 その為には向こうに拠点が必要でしょうね。

 研究が進めば空間転移(テレポート)も長距離での移動が可能と考えています。

 丁度良い機会ですし、その為に準備をしておきましょう」


 なるほど空間転移か、異世界らしいな。


「聞いてないが?」

「言っておりませんでしたから」


 リゼットは元々、召喚魔法と転送魔法のエキスパートだ。

 異世界転移魔法を実現出来たくらいなのだから、同一世界線上の空間転移であればより簡単だっただろう。


「俺も使えるようになりたいんだけど」

「今は無理でしょう。魔封印の呪を解呪しなければ使えません」


 だと、思ったけどな。

 一応未練がましく聞いてみただけだ。


「すぐにでもリザナン東部都市に飛べるのか?」

「残念ですが現段階では幾つかの制約があります。

 大きいところでは距離の制限。次いで転移先に念波転送石を用意する必要があります。その他にも色々と条件はありますが。

 今回の件が落ち着きましたら、少し色々な街を見て歩きたいと思います。

 リザナン東部都市に向かう時は馬車で旅をするのも良いでしょう」


 リゼットは頭が良い。頭が良いけれど、知識は偏っていた。

 それは社交界から隔離され、その存在を隠すように育てられたからだ。

 この半年ほどルイーゼと共に遺跡を周るなかで、自分に足りない知識を埋める必要性が出来たのかもしれない。


「その時は送って行こう」

「ありがとう、アキト。

 ですが、アキトにはここで色々とすることがあるでしょう。

 心配は無用です。王都とリザナン東部都市は危険な旅路ではありません。

 それに、いざとなりましたら逃げようもありますから」


 空間転移には距離の制限があっても、異世界転移には距離の制限が無い。

 確かに逃げるのは問題なさそうだが、リスクが無い訳じゃ無い。

 魔法は確かに便利だが、結局発動できなければ意味が無い。


 他にも転移魔法が使える事を知られるリスクがある。

 転移魔法は一種の禁忌とされている魔法だ。

 かつて転移魔法を復元した魔術師が、その魔法の能力を危惧した者によって暗殺される事件があった。

 以来、仮に使えるとしてもそのことを隠匿するのが普通だった。


「ちなみにリゼットが転移魔法を使えることを知っているのは?」

「私達三人以外ではバルカスさんとタイラスさんです。

 ある遺跡を探索している際、どうしても使わなけばならない状況になりましたので」


 人の口には戸が立てられないというが、あの二人ならそのリスクが分かるだろう。


 ん?


「もしかして、リゼットだけで無く他の人も一緒に転移できるのか?」

「質量の制限はありますが、可能です」


 素晴らしい!

 俺もいつかは無事に魔封印の呪いを解呪したいものだ。


 まぁなんにせよ、リデルの件が落ち着けば一緒に旅をするのも良いだろう。

 その為に、なんとしてもリデルを見つけ出す。


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