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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第一章 リデル編
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魔力制御・前

 翌日、日の出と共に起きる。

 この世界の朝は早い。日が出ると同時に殆どの人が動き出し、日が暮れる前には仕事を畳んで帰路につく。


 もちろん明かりが無い訳では無い。

 油を使ったランプや蜜蝋を使った蝋燭、それ以外にも魔石を燃料とした魔道具のランプもある。

 それらを使って夜遅くまで起きている意味が無いだけだ。


 ただ、飲食街や花街などは別だ。

 貴重品でも無い為、コストに見合う価値があるなら使うのも(やぶさ)かでも無い。

 かく言う俺も日々の稼ぎとして飲食店である『カフェテリア』を出している。

 飲食店なのに『カフェテリア』という名前はどうかと思うが、これには色々と事情もあった。


 俺はこの世界で生活する為に二つの仕事をしている。


 一つ目は『カフェテリア』の運営。

 これは結構順調で月に銀貨で六〇枚ほどの利益が出ていた。

 ここ王都で並の生活をおくるのに必要なお金は、月に銀貨三〇枚ほどだ。

 そう考えると、今のところは十分な利益と言えるだろう。


 二つ目は冒険者稼業。

 生活が安定している以上、危険を冒してまで冒険者稼業をする理由は無い。

 それでも魔物狩りをしているのは強くなりたいからだ。

 俺は弱くなるのが怖かった。弱ければ死ぬ。

 そんな単純な事を目の当たりにしてきた。だから強くありたい。


 ただ、どんなにマージンを取ろうとも死の危険は大きいだろう。

 自分の考えに矛盾がある事には気付いている。

 結局の所、魔物狩りという命のやり取りの中で、生きているという実感を感じていただけだ。

 それを元の世界に戻って平和に暮らしている中で理解した。物足りない生活だと。


 そこに大切な仲間を巻き込むこともまた矛盾していると思うが、この世界で魔物狩りは職業として成り立っている。

 だから仲間もそこに疑問を持つことは無かった。

 というか、強くなりたいという思いは普通に誰もが持っていたとも言える。


 その為に欠かさなかった鍛錬を今日も行う。

 この世界での鍛錬は実に六ヶ月ぶりだった。


 ◇


 俺とルイーゼの冒険者ランクはCだ。一般的には熟練の冒険者として見られる。

 冒険者とは、一言で言えば冒険者ギルドに入り、そのルールに従って庇護を受ける人々を指している。


 この世界にはギルドという物があり、その中で冒険者ギルドというのは主に魔物の情報と討伐依頼に関するまとめ役を受け持っている。他には当たり前だが冒険者のサポート業務だ。


 冒険者ギルドに入るとギルドの庇護を受けられる代わりに、討伐報酬や狩りの報酬などから一定の金銭を支払う必要がある。

 最も利用されるサポートは死亡が確認された時に補償金が出る制度だった。

 冒険者がいかに危険かと言う事を物語っているのだろう。


 ギルドには他にも色々とあり、大きいところでは商業ギルドや傭兵ギルドと言ったものがある。

 それぞれは相互補助の関係にあるが、ライバルでもあった。


 ◇


 俺達はリデルの捜索の為、明日にはこの町を出る。

 世間では熟練の冒険者と言われるランクになっていても、武器を持っての戦闘は久しぶりだ。

 だから今日はルイーゼに相手をしてもらい、戦いの感覚を取り戻すことにした。


 ルイーゼの装備している鎧は仕立ての良い物だったが、この半年の戦いで随分とくたびれているようだ。

 それだけ厳しい戦いの中に身を置いていたのだろう。

 今となってはルイーゼの方が魔物との戦いに関して経験豊富といえた。


 王都学園に通っていた時は鍛錬棟を使っていたが、学校は夏休みに入っているため、裏庭で鍛錬を行う事にした。

 朝露が日の光を照らし返す裏庭は二〇メートル四方ほどで、近接戦闘の鍛錬なら申し分ない広さがある。


 俺とルイーゼは武器を手に対峙する。


 ルイーゼはメイスを中段に持ち、腰を落として盾を前面に構える姿が自然で、撃ち込む隙が(うかが)えなかった。

 猪の突進を受けては転がっていたルイーゼが、今では頼もしく見える。


 魔力感知(センス・マジック)で見ると、綺麗に制御された魔力が身体強化(ストレングス・ボディ)状態である事を示している。

 ルイーゼは莫大な魔力を使い身体強化を常時展開できる。

 経験とそれを支える身体能力、強敵だ。

 まずはその防御を崩すところから始める必要がありそうだ。


「ルイーゼ、強くなったな」


 ルイーゼはそれに答えず、俺の動きを見逃すまいと集中している。

 随分と高く評価して貰っているようで光栄だが、やはり半年のブランクは大きいと感じた。

 剣を持つと身体のバランスが狂い、違和感があった。

 元の世界では総合格闘技を学んでいた為、素手の方が戦いやすい感じだ。


 それでも――


 俺は牽制の魔弾(マジック・ブリット)を放つ。

 ルイーゼとの鍛錬で攻撃魔法を組み合わせるのは初めてだ。


 俺の使える魔法は無属性魔法のみ。

 その一つ、魔弾は言わば魔力その物を力として放出するだけで、魔力の具現化に伴う事象――炎属性であれば燃えたり爆発したりといった付随効果が得られないため、威力は精霊魔法に劣る。

 その代わり発動速度が速いのが特徴だった。

 それはつまり、戦いの中に組み込みやすいと言うことだ。

 もっとも、魔力を意図的に放出出来る人を俺はかつての仲間以外に知らないが。


 振り抜いた左手から発せられた魔弾は無色透明で、陽炎のような残像を残しながら突き進み、ルイーゼの持つ盾を激しく打ち付けた。

 鈍い音と共にルイーゼの身体が一〇センチほど後方にズレる。

 後ずさったのでは無く、衝撃で地面を滑っていた。


 俺の知っている魔弾の威力では無かった。

 魔弾は弱い魔物なら致命傷を与える事も出来るが、ちょっとタフになってくると牽制に使うレベルの威力だ――俺の知っている限り。

 しかし今の手応えは、その数倍の威力に感じた。


 やはり魔力の流れが円滑になっている。

 それに伴い制御もしやすくなり、威力も上がっていた。

 今なら左手に絞り込まなくても、牽制に使う程度の威力ならどこからでも撃てそうだ。

 流石にルイーゼ相手に練習も無く使える技では無いが、後で一緒に練習しよう。


 そして、この感じなら身体強化にも変化があるだろう。

 俺は魔力を制御し、筋力に働きかける。

 視界に入る二の腕が魔力で変異し、筋力のみならず肉体の強度が上がる。

 以前、ルイーゼに見られた傾向だが、俺にはそこまでの魔力が無かった。

 だが、今は明らかに違う。

 魔力を受け入れる肉体の強度が上がることで、より強い魔力で強化が可能となっていた。

 色々な面で仲間に後れを取っていたが、ようやく俺も同じ土俵に上がれたようだ。


 魔封印の呪いは俺に大きな負荷を与え続けていた。

 その負荷の中で鍛え上げた魔力とそれを受け入れる肉体は、その足枷が無くなったことで存分に力を振るうことが出来る様になった。


 これはあれだな。

 アニメやマンガで良くある重力一〇倍とかで鍛錬したような物か。

 だったら、魔封印の呪いを解呪したのは早まっただろうか。

 もっとギリギリまで鍛え上げてからの方が……いや、あの解呪した時のフィードバックを考えたらこれ以上は危険だっただろう。

 ルイーゼの天恵やリゼットの異世界転移魔法があったから乗り切れた事だ。

 そうした助けがなければ間違いなく死んでいたに違いない。

 過ぎたことは受け入れるとして、次に魔封印の呪いを解く時はその辺も考慮した方が良いだろう。


 魔封印の呪いの効果で分かっていることは二つ。


 一つ目は魔力を具現化する際に、その制御を乱し具現化させない効力。

 俺は魔封印の呪いに掛かっている時も、レティの使う精霊魔法をまねていた。

 精霊魔法の仕組みは魔法感知で分かっていたので、出来そうな気がしたからだ。

 しかし、何度試みても魔力制御を乱す呪いの効果に苦戦し、発動には至っていない。

 でも、魔法陣に魔力を流し込むまでもう少しという所まで出来ていた。

 もしかして、呪いの効果を上回る魔力制御力を身につければ、魔封印の呪いを解くリスクを負わなくてもすむのでは無いだろうか。


 二つ目の効果は一般的には知られていないが魔力を押さえ込む効果だ。

 高負荷の掛かった状態で魔力を蓄えるその効果は、何十キロというダンベルを常に身につけているような物だ。

 それが本当に体に掛かっているなら身動きも取れないが、魔力という力にのみ掛かっていると考えられる。


 ……あれ。


 今の俺は魔力が十分に解放されていると感じるが、それでもルイーゼと互角に感じる。

 ルイーゼはその状態でまだ魔封印の呪いを解呪していない。

 もし解呪して魔封印の効果が無くなったらどれだけの魔力量になるのだろうか。

 リゼットは個人差とも言っていたが、全然上がらないと言うことは無いだろう。

 末恐ろしいはルイーゼか。


 でも、もしルイーゼが解呪した時に俺と同じような事態に陥ると、あの苦痛の中で奇跡の祈りを唱えることは難しいだろう。

 それは強力な回復魔法が使えない事を意味し、異世界に逃げることも出来ない。

 もしかして、ルイーゼは魔封印の解呪が出来なくなってしまったのか?


 まぁ、謎は追々解いていくとしよう。


 俺は以前に増して、強化された筋力から生み出される力で地面を蹴り、自分の認識を超えるスピードでルイーゼに迫る。

 身体が信じられないほど軽かった。


「?!」


 魔弾を受け、さらに警戒レベルを上げていたルイーゼが目を見張るのがわかる。


 戸惑っているのはルイーゼだけじゃ無い、俺も自分のスピードに戸惑っていた。

 それでも、ほぼ反射神経任せで一〇メートルの距離を数歩で詰め、盾を避けてルイーゼの左に回り込む。


 ルイーゼも素晴らしい反応でメイスを振ってくるが、俺はそれをバックステップで躱すと同時に踏み込み、剣先をルイーゼの喉元に突きつける。


 勝負は一瞬で決まった。


「驚きました。

 ルイーゼの戦いは長い事そばで見てきましたが、これほど簡単に勝負が決まるとは思いませんでした。

 何よりアキトの動きが速く、私には目で追う事も出来ませんでした」


 鍛錬の様子を窺っていたリゼットが感嘆の声を上げる。


「アキト様。素晴らしい速さでした。

 私では目で追うのも精一杯です」


 正直、最初にルイーゼと対面した時点では勝てる気がしなかった。

 それくらいルイーゼの防御姿勢に隙を見付けられなかった。

 魔力制御がスムーズに出来る様になった効果は、大きかったと言えよう。


「自分でも想像以上だった。

 勘を取り戻す為にも身体強化を使ってみたが、身体が軽くて吃驚した。

 やはり思っていた通りだな」

「思っていたとは?」


「俺は魔力制御だけは得意だったんだ。

 それでも、ルイーゼに身体強化の継続時間や効力で負けていた。

 その原因は魔力の通り道、言わば血管のような物が細いからだと考えていた。

 だから抵抗が大きくて、魔力がスムーズに流れなかったんだと思う」

「魔法を使うには素質の有無に大きく左右される面があります。

 素質とはそういった個人差なのかもしれませんね」


 魔法を使うにはもう一つ魔力を認識する能力が必要だ。

 魔力という目に見えない力を認識し、制御する事で魔法という形にする事が出来る。


「前に魔封印の解呪を行った時、暴走する魔力がその血管を切り開きながら体中を巡っていくのを感じていたんだ。

 そして今、抵抗なく魔力の制御が出来ていることから考えると、後天的に魔法を上手く制御出来るようになる可能性がある」

「学術的には魅力的な話ですが、その魔力の流れる血管――言わば魔力回路に膨大な魔力を流して拡張するのは誰にでも出来る事ではないでしょう」


 普通に考えればそこが問題だった。

 魔力は筋力と同じように負荷を掛けて使い続ければ増えていく。

 しかしその為には魔力が制御出来ないといけない。

 魔力回路が細い人は魔力の認識も出来ず、制御どころの話では無い。

 鶏が先か卵が先か、そんな状態だ。


 だが一つだけ方法があった。


「魔力制御を得意な人が、不得意な人の魔力を直接制御する事で、その人の魔力に対する認識力を上げる事が出来る」


 それは俺がルイーゼや仲間にしてきた事だった。


「私が知る限り、それを出来るのはアキトと()だけでしょうね」


 ?!


 リゼットにも(・・)出来る。それが指し示す事は一つだった。


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