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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第二部 第一章 リデル編
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二度目のプロローグ

 大怪我と共にこの世界に戻ってから五ヶ月。

 異世界で生活していた記憶は未だに鮮明で、この世界の記憶の方が夢物語のような、そんな毎日を送っていた。


 俺はあの世界で正当防衛とは言え、人を殺した。

 異世界では日常でも、この世界、この日本では違う。

 それを無かった事として普通に学生生活を送っている自分が、酷く異質に思えた。


 魔物を狩るために迷宮に潜る頃、学校へ通う。

 狩った魔物を売りに町へ戻る頃、学校を出る。


 久しぶりの学生生活に戸惑いを感じながらも、ようやく友達らしい友達も出来た七月。

 今は夏らしい行事として花火を見に来ているところだった。


「アキト君、さっきは何を見ていたの?」


 ある事件で助けてから、最近よく一緒に行動をするようになったクラスメイトの女の子だ。


「すっぽかされたと思ってね。

 一人寂しく花火が上がるのを待っていたところだ」


 本当は違う。


 癖になってしまったように、時間が空けば何時もこの世界を越えたその先を探してしまう。

 そして、そこにいる仲間の事を思い出しては押し寄せる悲しみに耐えていた。


 必ず戻ると約束したんだけどな。


 俺を異世界に導いた青く輝く魔法石。

 その光が失われた時、俺は異世界に行く手段を失った。

 それでも失った世界での日常を追い求めてしまう。


「ありがとう、一緒に見に来てくれて。

 何時もならジムに通っている時間なのに、迷惑だったかな」

「迷惑じゃ無いさ、良い思い出になるよ」


 もちろん本心だ。

 異世界への思いが強いからと言って、この世界で思い出を作りたくない訳じゃ無い。


 ただ、積み上げる思い出の中に、かつての仲間がいない事が悲しかった。

 今も戦い続けているだろう仲間を思うと、その力になれない事が辛く、悔しい。


 最後に一段と輝かしい花火が盛大に打ち上がり、余韻となって消えていく。

 木霊する炸裂音と、風に乗って運ばれてくる焼けた火薬の匂いが鼻をつき、この世界が俺のいる現実だと、改めて感じる。


 夜空に静寂が戻る。

 花火の後の寂しさは、祭りの後の寂しさと一緒だな。


「それじゃまた、学校で……さようなら、アキト君。

 そして、今までありがとう」


 彼女はもう大丈夫だろう。

 一時は立ち直れないかもしれないと思ったが、傷はきちんと癒えている。


 一度も振り返らず去って行くクラスメイトの、その姿が見えなくなったところで俺も帰路につく。


 みんな、傷ついても立ち上がり前に進んでいく。

 そんな中で、俺の時間は止まったままだった。


 ◇


 家に帰った俺は、自分の部屋の窓から零れる淡く青い光を目にする。

 それが意味するものが何か、俺は知っていた。


 ドクン!


 心臓の鼓動が高まり、まるでその音が聞こえるような錯覚の中、俺は駆け出す。

 家の扉を荒々しく開け、階段を駆け上がる。

 自分の部屋の扉に手を掛け、一瞬だけ願うように立ち止まり、そして扉を開けた。


 机の上には青く輝く石――念波転送石があった。

 世界線を越えて意思を繋ぐ魔法石。

 あの魔法石の向こうに、かつて共に旅をした仲間がいる。


 俺は、止まったままの時間が動き出すのを感じた。


 青き輝きを放つ念波転送石。

 それは世界線を越えて意思を繋ぐ魔法石。

 異世界転移魔法を使用するために必要な触媒。


 五ヶ月ぶりに目にする魔法石が意味するのは、再び俺を異世界に導く鍵が現れたと言う事だった。


 ずっとこの日を待っていた。

 異世界に残した仲間がこの石を送ってくれると信じて。

 止まらぬ思いが、再び異世界転移魔法を発動する。


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