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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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リザナン東部都市にむけて

 魔封印解呪の魔法具を購入するための資金に目処が付き、いよいよ具体的な購入計画を立てる段階になった。


 国王陛下より褒美として頂いたものはマリオンの解呪に使っていたので、あと二つ必要になる。最初の一つは俺が、もうひとつはルイーゼが使う予定だ。


 手に入れる方法は今のところ二つ。

 一つ目はオークションに参加して購入する方法だ。前は平民だった為にオークション自体に参加できなかったが、今は肩書が士爵になるので問題がない。

 二つ目はジーナス先生に頼む方法だ。ツテを使って融通してくれると言われた。ただ、自分で購入出来るのであれば借りを作る必要もない。

 よって取るべきは自分でオークションに参加して購入する方法だろう。


 オークションは大都市ならだいたいどこでも行われているらしく、月の最後の日だ。

 以前立てた計画では、リゼットが卒業するのを待って三月に異世界転移を行うことになっている。

 よって狙うのは二月終わりにリザナン東部都市で行われるオークションとなる。王都より地方都市の方が落札価格も下がる傾向にあるらしいので、ちょうどいいだろう。


 リザナン東部都市にあるウェンハイム別邸には、執事長宛に二月終わりに伺うと手紙を出しておいた。

 俺が行くという事で用件は察してくれるだろう。詳しく書かなかったのは何処で検閲が入るか分からないからだ。あくまでも執事長の知人として会いに行く形をとった。


「と言う事で、二月に入ったら王都を出発してリザナン東部都市に向かう。メンバーは俺、ルイーゼ、モモ、レオの四人だ」

「準備をしておきます」


 前はリデルやマリオンがいて、レティには一緒に旅をしようと言ったが、随分と事情が変わったな。

 マリオンが旅立つことは元から分かっていた。レティについては俺が浅慮(せんりょ)だったとしか言えない。声を掛ければ来るかもしれないが、悩むところだ。


 さて、残りは確認事項だな。


「レオ、お前の目的はどこまで俺に話せる?」

「俺、主、探す、来た」


「見つける宛はあるのか?」

「無い、でも、カシュオン、森、別れた。だから、戻る、探す」


 懐かしいな。俺の旅立ちもまたカシュオンの森だった。

 リザナン東部都市とは真逆に近い。移動だけで一ヶ月は掛かるだろう。


「レオの主には命の危険があるのか?」

「ある、思う。奴隷、死、可能性、ある。でも、俺、探す」


 この世界で人を探すことは難しい。まして町を離れたとなれば探しようが無いと言っても過言ではない。

 レオを助けるのも構わないと思ったが、事は簡単には済まなそうだ。

 奴隷なら近くの街を探せばもしかすると見付かるかもしれないが、そう都合良くもないだろう。


「主の名前は?」

「ロゼマリア、姫」


 姫?


「姫というのは王族ということか?」

「姫、最後、王。民、統べる、者」


 王族の姫がこの国で行方不明?


「それはウェアウルフの王ということか?」

「違う。俺、部族」


 部族って事は国というよりはどこかを拠点とした一族ってことか。


「敵、追われた。

 だから、東、海、越えた、来た。

 姫、見つける、戻る」


 レオの部族は敵対する者に追われ、この国に逃げてきた。

 渡ってきた所で何かしらのトラブルが起こり、消息が途絶える。遅れてこの国に来たレオが分かったのは、カシュオンの森で最後の消息を絶ったと言う事だった。

 この世界にも違法入国とかあると思うが、それは聞かなかった事にしよう。


 レオを解放する約束は銀貨七〇〇枚の稼ぎだ。今の時点で銀貨二〇〇枚ほどは狩りに貢献してくれた。リザナン東部都市に向かう前に後四回ほど迷宮に潜るつもりだが、約束の銀貨七〇〇枚には届かないだろう。しかし、話を聞いた限りではリザナン東部都市まで連れて行くのは大きなロスだ。


 結局、リザナン東部都市に出る前にレオを解放する事にした。

 旅の資金として銀貨一〇〇枚と、銀貨七〇〇枚に足りなかった分は貸しとする。


「俺、一人、狩り、行く、問題、無い」


 レオならランクE位の魔物までソロで余裕だろう。

 だがレオには俺達の鍛錬に付き合って貰う必要もあった。俺もルイーゼも、もう少しきちんと武器無しの格闘戦を習っておきたい。何ならそれには講習料を払っても良いだろう。

 結局、レオのソロ狩りは却下し、代わりにその分の補填をすることで話が纏まった。


 ◇


 一月の終わり。レオと最後のパーティーを終えて王都に戻ってきた。


「それじゃ最後の仕上げに付き合ってくれ」

「わかった」


 初めて模擬戦をした時と同じ様に、目が霞むほどのダッシュから左右にフェイントを織り交ぜてレオが迫ってくる。


 右だっ!!


 俺はレオのフェイントから先を読み、右足を一歩踏み込んで何も無い空間に左のパンチを放つ。

 そのパンチはレオに難なく受け止められるが、その顔に少しだけ驚きの表情が浮かぶ。


 未だにクリーンヒットしたことなど一度も無い俺はそこで手を止めず、左手を戻すと同時に左のミドルキックを放つ――が、その足も簡単に掴まれ、まるでジャイアントスイングの様に振り回された後、投げられる。


 うおあ!


 本来の戦いでは投げるのでは無く、岩や木、それらが無ければ地面に叩き付けるらしい。投げ捨てられた時点で既に手加減されているわけだ。

 そして、そんな風に投げられるのも既に何十回目となる。

 初めの頃は体勢を立て直すことも受け身も出来ずに地面を転がっていたが、流石に一ヶ月もやっていると地面に手をついたり足で蹴ったりと、体勢を立て直すことが出来る様になってきた。


 だからといって状況が良くなる訳でも無い。俺が体勢を立て直している間には既にレオが迫っており、防戦一方となる。

 レオの攻撃は基本的にラッシュだ。手を止めること無く、左右のパンチに蹴り、当然膝も来ればそれらにフェイントまで入ってくる。


 黒豹の攻撃が可愛く見えるくらいだ。黒豹はどんなに早くてもラッシュはしてこなかった。あくまでも一度の攻撃で一手だ。それを連続で行ってくることはあっても、それぞれの攻撃が流れを汲んではいない。だから攻撃の合間に反撃も出来た。


 しかしレオの攻撃は俺が反撃出来ないように体勢を崩しに来たり、敢えて受けさせたり、フェイントを入れて俺を釘付けにしたりと多種多様だった。


 だんだんと俺の防御が間に合わなくなり、力の無い腕で受けたところを払われ、空いた胴に最後の膝蹴りを食らう。


 うげぇ!


 初めての模擬戦の時と同じように地面の上でのたうち回りながら自己治癒(セルフ・キュア)を掛ける。初めこそ苦しさで魔力制御が出来ず魔法を使えなかったが、日課のように繰り返しているとなんとかなる物で、息が詰まるような苦しみの中でも何とか使えるようになってきた。


「最後まで完敗だ」


 俺は地面に大の字になって大きく呼吸をする。

 ルイーゼが手渡してくれた濡れタオルで顔を拭き、その冷たさに火照った体も落ち着いてくる。


「俺、手加減、無い。アキト、強く、なった」


 技の面では手加減されていただろう。でも力や速度の面では最初の頃に比べて手加減していないのは確かだ。全力とは言い切れないが、レオの息が上がる程度には凌げるようになったのだから二ヶ月弱という期間では十分と言えた。


「レオ、約束通り奴隷から解放する。これで自由だ。

 ただし、借りが残っているのを忘れるな。旅の準備金も出してやる。

 主を助けた後、余裕が出来たら返しに来てくれ」

「ありがとう、助かる。俺、約束、忘れない」

「何かあったら訪ねてくれば良い。国の争いに関わるようなことは無理だが、個人的なことなら助けになる」

「迷惑、あげない」


 どうも俺はレオが奴隷だと割り切れていない。この二ヶ月間一緒に過ごしたことで仲間だと思っている。正直このままレオを一人で送り出すことに後ろ髪引かれる思いだ。

 それでも、レオに目的があるように俺にも目的がある。リデルやマリオンが目的を持って行動したように、俺も自分の目的を優先しよう。


 ◇


「レティ、店を頼んでしまってすまないな」

「いいえ。私こそ、ご一緒出来なくてすみません。

 本当は凄く一緒に行きたいのですが、今はお兄様に止められていまして」

「リデルに?」

「はい。半端な気持ちのままついて行けば、その気持ちが仲間を死の危険に巻き込むと」


 俺も盗賊相手に甘い気持ちを持った時、リデルにハッキリと言われたな。


「リデルは正しい」

「はい。あの……アキトさん、必ず戻ってきますよね?」

「もちろんだ。ここは借家とは言え、俺達の家だからな」

「わかりました。今はそれが分かれば十分です。

 お店の方はメルさんとリルさんもいますし、学校も休みに入っていますから問題ありません。

 こちらは安心して任せてください」

「助かるよ。お土産を楽しみにしておいてくれ」

「はい」


 レティが軽く抱きついてくる。俺もレティの背中を抱き寄せる。


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 さぁ、ケジメを付ける為に向かうはリザナン東部都市。旅程は三週間。もうすぐだ。

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