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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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鍛錬と狩りの日々・5

 レオを戦闘奴隷として雇ってから一週間が過ぎていた。

 あの時、俺はレオを雇うに当たって気持ちの問題だけで無く、一つの目的があった。それはレオの戦闘スタイルが格闘だった事にある。


 俺は色々な戦い方を身につけて、その中から良いとこ取りをしていくタイプの人間だ。決して最強に見えるからでは無い。なぜならば、既に剣と魔法が合わさって最強に見えるからだ。


「本気、いいのか?」

「ダメだ、手加減をしてくれ」

「わかった」


 レオはバルカスと互角に戦っていた。バルカスに勝てない俺が全力のレオに勝てる訳が無い。しかも俺は得意な剣や魔法では無く、拳で語ろうというのだから。


 開始の合図と同時に、レオが霞む。

 はやい!!

 マリオンを凌ぐかと思うほどのダッシュに、左右へのフェイントまで混ぜてくる。


 殆ど条件反射的に上げた腕がレオのパンチを防いだが、力も入っていない腕など何の役にも立たずガードを崩される。

 そして空いた脇腹に膝が入ったところで、俺は地面に転がり悶絶した。


 うぐっ、くるしい……息が出来ない……。


「アキト様?!」

「大事、無いか?」


 ほんとに俺は学ばない。

 手加減とか言う曖昧な言葉を使うなと、マリオンの時に学んだはずなのに。


 だが、当たり前のことに今更気が付いた。

 とてつもない苦しさや痛みの中では自己治癒(セルフ・キュア)が使えない。集中して魔力制御が出来なかった。

 これは今気付いておいて良かった。分かっていれば鍛錬ができ……うへ、こんな思いはもうしたくない。


「レ、レオ。入れる時は今の半分の力にしてくれ」

「半分、分かった。十分、倒せる」


 手加減のさらに半力で倒せると言われる俺。

 流石に俺のプライドを見せてやるぜ。


 一〇分後、三度目のダウンの中で一生懸命に自己治癒(セルフ・キュア)を使おうと努力する俺の姿があった。


 ◇


 久しぶりの長期休暇なので、ルイーゼとモモそれにレオを連れてルミナスの迷宮に来ていた。

 今回は実質三人で戦うことになる。狩るのは迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)が中心になるだろう。一匹倒せばレオの稼ぎは銀貨一〇枚だ。つまり七〇匹倒せばレオは自由となる。流石に今回の狩りだけでは無理だが、遠い目標でも無い。


「レオ、迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)と戦ったことはあるか?」

「ある、問題、無い」


 レオは戦闘奴隷だけあって経験も豊富らしい。どんな敵と戦ってきたのか聞いておくのも役に立つだろう。

 そしてその実力は直ぐに発揮される事になる。


「ルイーゼ頼む! レオはルイーゼが注意を引いてから動け!」

「はい!」

「分かる」


 ルイーゼが迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)に素早く接敵し、大型の盾で凶悪な牙を持つ頭を打ち付ける。

 その攻撃により脳震盪を起こしたのか迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)の動きが止まる。


 レオがそこに横合いから飛び込み迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)の片腕を取り、膝を入れて折る。

 俺が脇腹に食らった奴だが、あれを手加減無しで食らったらと思うとぞっとする。


 レオの装備は指まで隠す鉄製の手甲で、直接打撃を行う物だ。効果としてはルイーゼのメイスと同じ感じか。合わせて防御にも使える小型の盾の役目も果たしていた。

 獣人は元々身体能力が人間より高い。その分、魔法適性が低いらしいが魔法に頼らなくても十分に戦闘力が高そうだ。


 巨大岩亀戦では苦戦していたが、あれは相性が悪かったのだろう。本来打撃で倒す敵では無い。


 レオが左腕を折り、その激痛から逃れる為か暴れるように右腕を振るう。

 それをしっかりと盾で受け止めたルイーゼが、メイスを上段から迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)の頭に振り下ろす。メイスは外皮の砕ける鈍い音を立てながらも止まらず、そのまま地面に頭を打ち付けた。

 地面に体液とも血とも取れる液体を撒き散らしながら迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)は絶命している。


 ルイーゼはしっかりとバルカスの教えを身に付けているようだ。レオの作った隙を突きしっかりと畳み掛けている。

 三人でも問題なく倒せそうだな。というか二人で倒している。


「ルイーゼ、強い、俺、初めて、思う」

「アキト様のおかげです」

「いや、ルイーゼの強さはもう実力だ」


 ルイーゼの努力の結果だ。それを自分で否定してはもうダメだろう。


「次は俺が前に出る、レオは待機だ」

「分かる」


 下賜されてから初めて実戦で使用するミスリルの剣だ。

 俺はこの剣を手にしてからコツコツと魔力を通して魔剣化していたが、未だに留まることを知らずに変異を続けていた。


 日に日に変異を強めるミスリルの剣は、初めこそ白銀色だったのに今は青水晶のごとく透明感のある剣になっていた。柄の部分まで含めて全てミスリル鉱だったらしく、青いその剣は武器と言うより芸術品の趣があった。


「星月剣ガラティーン……」

星月剣(ガラティーン)ですか?」

「凄い、剣、見た、無い」


 元の世界の物語に出て来た、素晴らしい切れ味で刃毀れ一つしない剣の名前だ。なんとなくこの剣を見てその言葉が零れた。そして星月はミスリルから作り出される物質を指す。


 持つだけで感じるほどのオーバースペック……部屋で魔力を通していた時はそれほど気にもならなかったが、いざ戦いの場に来て持ってみると、異常な存在感で心強さが半端じゃない。


「まぁ、使ってみるか」


 早速、次の迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)を見付けた。

 ルイーゼにファーストアタックを取って貰った後、横にまわり、攻撃の機会を窺う。

 迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)がたまたま振り上げた腕を、俺に向かって振り下ろしてくる。

 それを星月剣(ガラティーン)で受け、反撃のき――受けたその場からたいした抵抗もなく、迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)の腕が切り落とされていた。


 ?!


 あまりの切れ味に俺の方が動揺する。

 迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)は腕が切り落とされたことにすら気付くのが遅れていた。


 クギャー!


 迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)の上げた声に気を取り戻した後は、手短な胴体に切りつける。そして、その胴体をまるで豆腐でも斬るかのように両断する星月剣(ガラティーン)

 いくら甲殻系の魔物では無いとは言え、見た目以上に性能がオーバースペックだった。

 これでまだ限界が来ていないとか、純ミスリルの剣は想像を超える代物のようだ。


 武器はその性能によって幾つかのクラス分けがされていて、ミスリルの剣は最上級に値する。それが魔剣となるとランクが一つ上がる。つまりこの剣は超越級になるわけだ。この上のクラスとなると伝説級と神話級になるので、事実上手に入れる事が出来る最上級の武器と言えた。

 ちなみに今まで使っていた鉄の剣は下級だ。銀貨三〇枚で買った。星月剣(ガラティーン)は正直値段が付けられないと思う……俺以上に武器の成り上がりが凄い!


「アキト様、大変良い武器だと思います」

「その、剣、上、魔人、倒せる」


 戦ったことは無いがこのオーバースペックぶりから見て上級魔人が倒せるのもうなずける。というか逆に魔剣じゃ無いと倒せないとか、どれだけ上級魔人はタフなんだよ。


 その後も試し切りを続けるがもちろん一方的だった。

 最後に迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)に対して魔刃(マジック・ブレード)を使ったところ、見えない刃が迷宮蟷螂(メイズ・ハンター)を両断しそのまま背後の石壁に深い傷跡を付けていた。


「魔法、殺し、武器」


 確かに遠距離戦においてどうしても不利な立場にあったけれど、星月剣(ガラティーン)から射出される魔刃(マジック・ブレード)の威力を持ってすれば一方的な展開にはならない気がする。魔法障壁(マジック・シールド)に対してどの程度の効果があるか不明だが、今までよりも悪くなることは無いはずだ。


「ただ、これを使っていると、俺自身がどんどん弱くなっていく気がするな」


 ルイーゼは少し残念そうだが、俺は自分が弱くなるのが怖くて堪らない。

 必要な時は遠慮無く使うが、普段の狩りでは今まで通り行かせてもらおう。


「強い敵、戦う、問題ない」


 それも一つの考えか。それでも、ランクCの魔物でさえなんか余裕がありそうなんだが……武器の性能だけをみれば。

 生憎とその性能を引き出す使い手に問題があるけれど。せいぜい武器に振り回されないように、進んで使っていく方が前向きかもしれないな。


 ミスリルの剣といい勲章といい貰ってばかりで義務が無いとか、流石に怖くなってきた。さらに給金が付くとか……。


 そう言えば貴族の貰う給金って自分の為に使う物じゃ無いよな。貴族らしい使い方をしないと行けないのか。リデルやリゼットに相談しないとな。


 ともかく、久しぶりの狩りは順調に終わった。

 そろそろランクCの魔物に狩りの中心を移していくタイミングかもしれない。


 魔封印解呪の魔法具代とレオの稼ぎの為に、俺達三人は休みの間中迷宮に潜り続けた。

 一日の稼ぎは銀貨で平均一〇〇枚くらいになり、六日間の狩りで銀貨六〇〇枚、レオの稼ぎは銀貨二〇〇としてある。


 正直レオの戦闘能力は魅力的だった。半年と言わず、当分は当てにしたいほどに。

 しかし目的があるという以上は約束を守る必要があるだろう。

 俺にでも手伝える事があれば手を貸し、全てが片付いたら今度は仲間として一緒に狩りをしたいものだ。


 それから今回の狩りでルイーゼがランクCになった。一流冒険者の仲間入りだ。

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