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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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学園祭・後

「生徒会長のマリアベル・ロマンチェスタです。

 今年は悲しい出来事がありました。

 ですが私達は、残った者として日々を励みその力を国の為に尽くすことが――」


 あの日、生徒会長のマリアベルも園外演習に参加していた。

 俺達が牙大虎と戦っている中、傷ついた生徒を抱えて周りのみんなを励ましていたのを見止めている。

 魔物を片付けた後も、あの惨状の中で顔を青くしながら適切に指示を飛ばし、生徒の心のケアまで苦心していた。


 立派だと思った。

 俺はいつも自分と仲間のことで精一杯だ。常日頃からそれ以外の人の事をほとんど考えていない。

 あの時の彼女の姿を見て、彼女が力を必要とし俺が役に立つのであれば手を貸すのも吝かでは無いと思った。


「――では、これより学園祭を始めたいと思います」


 締めのあいさつと同時に音楽が鳴り始め、各々が飲み物を手に気になるお相手の元へと向かって歩き出す。


 この世界でもアルコールは成人してからと決まっているようだ。レティ以外は成人しているのでアルコールも飲めるが、手に取るのは果実水にしておいた。


 早々にリデルとルイーゼは人に囲まれ、あいさつというか質問攻めだ。

 そして俺とレティは案の定というか、蚊帳の外の様相を呈している。これはこれで結構気楽なものと思えるのは、レティがいるからだろう。


「俺は今、結構気楽でいいなと思っているけれど、レティは寂しいか?」

「いえ、そんな事ありません。

 もともと不相応の場所ですし、この後にミーティア様の歌を聞くことが出来れば十分です」


 不相応ということは全くないはずだが、そう思ってしまう環境にいたレティに掛けられる言葉は多くない。

 この部屋には多くの着飾った女性がいるけれど、レティは十分に綺麗と言えた。


「今日は四〇人ほど綺麗どころがいるんだな」

「アキトさん、気になる人でもいたのですか?」


 少し身を寄せて上目遣いで質問してくるのは反則だ。

 女の子はいつの間にこんな技を覚えるのだろうか。


「不相応と言って壁の花をしている子かな」

「そ、そうですか。でもその子はきっと満足していますよ」


 なら言うことはないな。


 ◇


 室内を照らすシャンデリアの明かりがゆっくりと落ちていく。

 合わせて音楽が変わると、二階のテラスに一人の女性が現れる。


 半年ぶりに見るミーティアは、やはり透き通った彫刻のような美しさだった。そこに存在するのに透明感があり、血が通っているのに冷たさを感じる。冷厳美麗、初めて会うわけでもないのに、再び一目惚れした。


 そんな様子は俺だけでなく、会場にいる男女問わず息をするのも忘れ静まり返っている。

 もちろんレティも目が釘付けだ。


 そして、歌われる詩は聞く者の心に響き、安らぎを与えるものだった。今回は女神の三姉妹について語られている。

 いつもお世話になっている女神アルテア様はどうやら三女のようで、天真爛漫な姉二人の間で苦労しているようだ。


 女神アルテア様は俺の中で、銀髪碧眼でミーティアをも上回る絶世の美女設定だったが、二人の姉の間であたふたしている様子を聞くと、少し親しみが湧いてくるな。

 そんな忙しい中で俺達を助けれくれるのだから感謝しよう、ありがとうと。


≪アキトが嬉しい事を言ってくれるのです≫

≪あらあら、わたし嫌われてしまったかしら≫

≪少しお仕置きが必要?≫

≪ちょっと二人とも、本当にアキトで遊ばないでね≫

≪でも、わたしにもアキトの声が聞こえるのよね、だから独り占めはダメよ≫

≪遊んであげてもいい?≫

≪もぉ、怒るからね≫

≪あら、可愛いアルテアがだいなしね≫

≪ブサイク?≫

≪はぁ、癒やしが欲しい≫


 ミーティアは三曲ほど歌ったところでテラスを後にした。

 マイクパフォーマンスはないらしい。


「レティ、もうそこには誰も居ないぞ」


 ミーティアが姿を消してなお、その空間を見つめていたレティに声を掛ける。


「え、あ、そうですね。はい、いません」


 現実に引き戻してしまったのは悪かっただろうか。

 それも気苦労に終わる。ミーティアが一階のテラスに出てきたからだ。


 直ぐに生徒に囲まれているが、生徒会長が適当に道を作り、一言二言あいさつをして回っている。いずれここにも回ってくるだろう。

 レティは今か今かと待ちきれない様子だが、俺はその間に美味しい食事を堪能する。


 どうもこっちの世界に来てから、食事に肉が多くなっていたので、俺は色とりどりの野菜に無我夢中だ。

 三本目の野菜スティックを囓っていたところで、巡回してきたミーティアと目が合う。


 俺は野菜入りのバスケットからミーティアのお気に入りであるドルベアという野菜を取り分け、差し出す。ちょっと匂いに癖があるけれど、独特の歯ごたえと渋みが癖になる野菜だ。


「ちょっとアキトさん、ミーティア様がこのような物をお食べになるわ……」


 生徒会長が(たしな)めてくるが、当のミーティアは満足そうに食べている。まるでリスが木の実を囓るようではあるが。

 俺は次にブルボットと言う青汁をコップについで、差し出す。


「アキトさん、いくら何でもそれは……」


 やはり同じように満足な笑みを浮かべて青汁を飲むミーティアに、生徒会長も言葉が続かない。

 これもミーティアのお気に入りだからな。


「アキト、不味い」

「でも癖になるんだろ」


 コクコクと頷く姿は見た目に似合わないな。見た目と中身のギャップが大きすぎる。


「アキトさん、あの……」


 そうだ、レティの憧れだった。


「ミーティア、リデルの妹のレティシア・ブラウディだ」

「ちょっとアキトさん、呼び捨ては失礼ですよ」

「構いません、わたしもその様にしていますから。

 初めまして、レティシアさん。

 アキトとリデルには命が危ないところを助けて頂きました。リデルはお元気ですか」

「はい、兄は王国騎士団に入団しまして、雑用と鍛錬で忙しく働いています。

 あ、あの。とても素敵な歌でした。入場券が手に入らなくてエルドリット劇場へは行けませんが応援しています!」


 並んでも手に入らないと言っていたな。


「アキト、後で券を届ける。何処へ行けば良い?」

「東縦二番通りと横五番通りの交差点にある『カフェテリア』って店にいる」

「わかった。持って行く」


「なんであいつがミーティア様と馴れ馴れしくしているんだ」

「どういうことだ、二人は知り合いなのか?」

「だれ、あの黒いのは?」


 場が騒がしくなってきたので再会の挨拶をし、しばらく唖然としていた生徒会長にミーティアをまかせ、その場を離れた。


 ◇


「アキトさん、知り合いとは聞いていましたが、まさかあんな友達のようだとは思いませんでした……」

「友達なのは俺じゃ無くてモモだな。俺は知り合いくらいだ」

「またお目にかかれますでしょうか」

「来ると言っていたからな、そう遠くないうちに家に来るんじゃ無いか」


 あの様子だと暇があれば直ぐにでも来そうな感じだったな。

 残念ながらここでモモに出て来て貰うのも不自然だから、今しばらく我慢して貰うしか無い。


「なんか信じられません、どうしよう……どうしましょう?」

「一緒に遊べば良いだろ」

「む、無理です。あの、アキトさんも一緒に遊んで頂けますか?」

「暇な時なら構わないさ」


 ミーティアの退場と共に再び音楽が流れ始める。

 今度は少しテンポの緩やかな曲調だ。どうやらダンスタイムに入ったらしい。


「さて、うちのお姫様は俺と踊ってくれるのかな」

「はい、もちろんです!」

「それじゃ、俺達らしく隅の方で踊らせて貰おうか。

 リデルの祝賀会以来だから、忘れてないと良いんだが」

「忘れていても構いません、また教えて差し上げます」


 それはまた、ぎこちない踊りだったと思うがレティは終始笑顔でいてくれた。それだけで楽しくなるのだから不思議な物だ。


 少し離れたところではリデルがルイーゼと踊っている。

 息を飲む美しさだな。優雅で優しい、そんな踊りだ。俺もそんな風にリードしてあげたいものだ。


 一曲が終わったところで、リデルとパートナーの交換をする。

 この曲が終わればリデルにはあちこちからダンスのお誘いが入るだろう。モテる上に優しい男はこういう所で大変だな。

 俺はうちのお姫様だけで満足だ。


「ルイーゼ。初めてルイーゼに会った時、俺は息が詰まるほど見蕩れていたんだ。

 今日も凄く綺麗だ」

「ありがとうございます、アキト様」


 手を取り踊っていたので、ルイーゼが恥ずかしさに伏せたところで、俺の胸に頭が当たる。

 うーん、顔が見たい、でも見つめると伏せられてしまう。ここは指示言語の出番か?!


「ルイーゼ、顔を良く見せて欲しい」


 流石に命令はせず、普通にお願いをする。無理矢理言う事を聞かせるとか、癖になったら大変だからな。


 ルイーゼはしばらく伏せていた顔を上げて、視線を向けてくる。


 初めて会った頃のような、子供らしいあどけなさが抜けてきたなとは思っていたが、最近はますます綺麗になっている。女の子は成長が早いな。

 毎日顔を合わせているから気が付かなかったけれど、物凄い美人さんじゃ無いだろうか。


 しばらく見つめながら踊っていると、ルイーゼの瞳に涙が貯まりそれが頬を伝ってこぼれ落ちる。

 そして、一言――


「失いたくない……」


 ルイーゼは家族を失い、思い出の家と土地を失い、自由も失っていた。そして、最後に残った命を失い掛けた時、俺やリデルに救われた。

 失い続けたルイーゼが、その状況から救い出した俺を頼るのは自然だ。だからルイーゼのそれは一時的な想いで、いつかは好きな人が出来て変わっていくと思っていた。


 でもルイーゼは契約という形で俺との繋ぎを持ち続けている。

 不安がそうさせるのかもしれない。ただ、それは依存だと思う。


「ルイーゼ、奴隷から解放する」

「え……」


 ルイーゼが許しを請うように膝をつこうとするが、抱き寄せてそれを許さない。


「そんな物が無くても、何も変わらない。

 ルイーゼがそれを信じられなければ、前には進めない」

「直ぐ側にいるのに……たまに不安になります。何故か遠い気がして……」


 俺は元々この世界の人間じゃ無い。それを感じているのか分からないが、この世界で生きていくと決めている。

 そして何より俺自身がみんなと離れたくない。ルイーゼの望みは俺の望みでもある。


「これからは本当の仲間だ」

「いつまでもアキト様のお側に」


 まずは自立への第一歩をここから始めよう。

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