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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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学園祭・前

 園外演習での事故の噂も治まってきたのは年末も迫ってからだった。


 事故の当事者については伏せられていたが、元々が成績上位者と推薦枠の集まりだ。そこから推測することは簡単で、王都に戻ってからはルイーゼやレティも事の詳細を知りたい生徒達に囲まれて大変そうだった。


 それも過ぎれば、話題は次第に年末最大のイベントになる学園祭に変わっていく。

 学園祭といっても俺が知っている学園祭とは違う。どちらかと言うと社交界デビューの練習といった感じで、それぞれが着飾り、食事をして、ダンスを踊るようだ。


 俺は一般教養をほとんど受けていないので、レティに助けてもらう事になるだろう。

 ルイーゼのエスコートはリデルが行う予定だった。


 ◇


 そして今日が学園祭の当日だ。

 学園祭での話題は一人の女性の話題に変わっていく。その女性はルミナスの歌姫と呼ばれるミーティアだった。

 毎年、学園祭ではミーティアが賓客として呼ばれ歌を披露しているらしい。


「そう言えば半年くらいで王都に帰ると言っていたな」

「リザナン東部都市で別れてからそれほど経つのですね」


 ミーティアに初めて会ったのは、ミモラの町でリデルの授爵祝賀会を開いている時だった。

 あの時の俺はミーティアの幻想的な美しさに一目惚れしたわけだ。ただ、一目惚れと言っても絵画や装飾品に惚れ込むようなもので、肉感的な魅力は感じなかったが。


「えっ! アキトさんとルイーゼさんはミーティア様にお会いした事があるのですか?」

「会ったというか、オークの集団に襲われているところを助けた。あの時は初めての魔法戦で苦労させられたよ。

 今までレティに模擬戦で魔法を多用してもらっているのは、それが理由だな」


 そう言えばレティは結構ミーハーなところがある。

 もし、会える機会があればレティを紹介するか。ミーティアの本性を知ったら幻滅するかもしれないが。

 歌っている時のミーティアは冷厳美麗で手の届かない高嶺の花といったところだが、オフモードではモモと(たわむ)れ合う幼い女の子だからな。


「お怪我はなかったのですか?」

「あぁ、何とかしのげたな。ミーティアの弓に助けられたよ」

「弓もお達者なんですね。お怪我が無いようで良かったです。

 大人気で予約券すら入手出来ないくらいなんですよ。

 ですから学園祭で歌が聞けるのが楽しみです」


 まぁ、あの歌声は良かったな。とても癒やされる。

 そう言えば魔力が歌に反応するのを感じたのはあの時か。すっかり忘れていたが魔力も空気みたいなものだから不思議でもないのか。音は空気を伝わるしな。それとも音を聞いた人が無意識に魔力に働き掛けるとかもあるのか。


「それじゃ、その学園祭用の服を取りに行くか」


 ◇


 ウォーレン商会に頼んでおいた服は見事な出来栄えだった。


「ウォーレンさん、素晴らしい出来栄えじゃないか!」

「正直これほどの物が仕上がるとは思っておりませんでしたが。

 いや、これはお二人の美しさがあっての物でしょう」


 用意されていたのは純白のイブニングドレスだ。

 デザインには俺も絡んだので、この世界で標準的な物とはちょっと違っている。俺の提案は体の線を美しく魅せるデザインだった。


 この世界ではどうも体の線を隠すようなふっくらとした物が多く、スカートなんかもわざわざ針金で広げていた。

 それではせっかくの綺麗な体のラインが殺されてしまう。つまり、俺の好みではない。

 だからこのドレスは腰のラインを強調した後、ストレートに落ち、裾が少し広がる感じになっている。


「あの、アキト様、わたし、可笑しくないでしょうか」

「アキトさん、これ、か、体のラインが妙にくっきりとしていて、恥ずかしいのですが」


「何を言っているんだ。

 二人共すごく似合っている。最高に綺麗だ。このまま連れて帰りたいくらいだ」


 ルイーゼが湯気を出してしまった。

 なんとかレティに支えられて立っているようだが、そのレティも頼りない。


 ローレンが用意した椅子に座って、なんとか落ち着かせる。


 ちなみにモモ用の服も用意された。ドレスとは違って普段着に使える物だ。

 そしてずっと探していた物だった。


 モモは俺が買ってあげた服では姿を消す事が出来なかった。

 だから、隠れて貰う必要がある時は、初めて会った時に着ていた古めかしい服を着ている。

 でも、魔物の素材で出来たこの服なら着たままでも姿を消すことが出来た。魔力の通りが良いと大丈夫なのかもしれない。

 モモはその服を着て最高にご機嫌の様子だ。


「お綺麗な二人によって、最高の物が最高の場所でお披露目されるのですから、最初は注文も厳選する必要がありそうですな」


 生地には当然のように絹布が使われている。

 これはウォーレン商会の宣伝も兼ねていたので、費用はウォーレン持ちだ。


「これはもしかして一着あたり金貨五枚位になるんじゃないか」

「アキト様は商品に関しては少し無頓着ですな。

 最初はオークションで売り出しますので金貨一〇〇枚ほどの値段がつくでしょうね」

「はぁ?! 金貨一〇〇枚?」


 ドレス一着分の絹布は粘着袋一個くらいだ。俺は金貨一枚で卸していた。

 粘着袋は俺が用意すると安く済むが、ウォーレンは上級奴隷などを利用しないといけないために高く付くのは分かる。

 それでも原価の何倍になるのか。


「当然でしょう、世に二つとない製品です。珍しい物には目のない貴族夫人の方々がこぞって入札を掛けてくるでしょう。

 しかも単に珍しいだけでなく、見た目も美しく肌触りも良いとくれば他に代えがたいものです」

「希少価値が高いのか」

「その通りです。

 既にアキト様のお陰で王宮からの注文も入っておりますので、しばらくは品不足も相まって相場は崩れないでしょう」


 確かに薄利多売といった売り方をする物でもないか。


「ローレン、お二人の仕上げを手伝ってあげなさい。

 アキト様はこちらで少し仕事の話をよろしいでしょうか」

「わかった。ルイーゼ、レティ、最高に綺麗にしてもらってこい」

「はい、アキト様」

「はい」


 その場にはもう一着のドレスが飾られていた。

 マリオン用に用意されたものだ。

 残されたのを見ると少し泣きたくなるが、いつかこれを着せて綺麗だと言ってやる。


 ◇


 執務室に通されたところで、早速仕事の話に入る。


「ドレスとは別に、例の銀細工の方の卸値はお決まりになりましたでしょうか」


 銀細工というのは俺の『カフェテリア』で使用している装飾品のことだ。魔粉で飾り付けをした物で、ウォーレンが次に売りだそうと目をつけていた。

 プレオープンでウォーレン一家を招いた時に目をつけていたらしい。


 うちの『カフェテリア』名物となっている装飾品は、銀自体も強い魔力を浴びることで淡い光を放ち、魔粉が作り出す赤緑青の各色と相まって、夜を彩る。

 色に統一性がないと下品だが、適切に扱えば装飾品としての価値は高いだろう。


 ちなみに色の三原色は揃っているが、フルカラーの実現には至っていない。


「あれは誰にでも同じ物が作れるから、商売にならないんじゃないか」

「作るためには魔力の強いところで数週間は眠らせないといけないとか。残念ですがその手段を用意するのは難しいでしょう」


「戦闘奴隷に上級奴隷紋を使うとかは?」

「その様な魔力の強いところでは魔物も強くなります。強い魔物を倒せるのであれば奴隷になるような者はいませんので、なかなか難しいところです」


 それはそうか。結局奴隷になるのはお金がないからというのが普通の話だ。稼げる人が奴隷になるわけがないか。


「あの装飾品は偽名で、贈り物として作っているだけなんだ。作るとなるとほとんどが一品物だな」

「それで構いません。量産して利益を出すより、希少価値で売る方が良いでしょう。

 実はこれも王宮からの問い合わせを受けているのです。大変珍しいアクセサリーを贈り物として頂いた方がいるそうで、その製作者を探しているとか」


 リリスさんに贈ったやつか。

 着けてくれているんだな。結果的に宣伝にもなっているのか。


「それはウォーレンさんの所に直接か?」

「いえ、王都にある主だった商会には全て話しがいっているかと。

 特徴をお聞きした所、アキト様が作られている装飾品と類似性がありましたので、もしやと思っておりましたが」


 現状それほどお金が必要なわけでもないが、あって困るものでもないか……。

 希少価値の高いプレゼントが必要なら、他に何か考えれば良いか。


「数は用意できないけれど、いくつか作るか。

 折角だからベースとなる装飾品は良い物を用意しておいてくれ。元から俺が作るよりは良いと思う。素材は銀か金、あるならミスリルでも良い」

「分かりました、用意しておきましょう」


 仕事の話を終えたところで、丁度うちのお姫様方も準備が完了したようだ。

 ただ、ローレンに採寸の値を教えて貰う事は出来なかった。


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