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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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思いもよらぬ報酬

 盗賊達――厳密に言えば違うだろうが、俺の中では既に盗賊だ――の荷物と馬を回収し、徒歩で王都に帰る事になった。

 幸いにして朝早くの出来事だった為、日が暮れる前に王都に戻る事が出来た。


 ただ、相変わらず王都へ入る為の入門待ちの列が長かった。

 そう言えば、あの紋章を見せれば融通してくれるかもしれないな。何せ俺は平民なのに片膝を許された男だからな。


「バルカス、ちょっとここを頼みたい。試したい事があるんだ」


 返事を待たずに貴族用の受付に向かう。相変わらずこっちは空いているようだ。

 そして前と同じように文官らしい門番はやってくる。


「何用か。一般受付は隣の列だ」


 リデルがいる時は随分と違い、横柄な態度だな。見た目で貴族では無いと分かってしまうのか。


「実はこういう物があるんだけれど、これでこっちから通れ無いかな」


 俺は国王陛下より授与された王国栄誉騎士勲章を見せる。

 それを見た門番が何度か俺の顔と勲章に視線を行き来させると、今度は打って変わって紳士的な態度に変わる。


「し、失礼しました。

 それでは身分証を拝見させて頂きます」


 どうやら勲章の効果があるようだ。これはいい物を貰った。埃が被るような物じゃ無くて良かった。

 俺は連れがいる事を伝え、みんなを呼びに戻る。


 バルカスは半信半疑だったが、身分証代わりの認証プレートを差し出すとすんなりと許可が下りた事に驚いていた。


 ついでとばかりにバルカスは盗賊を門番の前に差し出す。


「この盗賊も引き取ってくれないか」

「この辺で盗賊ですか?」

「冒険者崩れだが、獲物をかっ攫いに来て剣を抜いてきた。こっちの三人が奴隷だから証言を取ってくれ」

「分かりました。時間が掛かりますので、後ほど結果をお伝えいたします」

「それで構わない場所は――」


 疑っていた割には随分と遠慮無く申しつけるバルカスに呆れるものの、俺も見習うべきかと悩むところだ。


 盗賊達も始め反論の姿勢を見せたものの、ここが貴族用の受付だと分かると顔を青くして黙り込んだ。

 大方、俺達の中に貴族がいて、とんでもない奴に手を出してしまったと思っているのだろう。まぁ俺は貴族じゃ無いが、ここは勘違いさせておく。


 ◇


「おいおいアキト、どんな魔法を使ったんだよ」

「何度かリデルと一緒に通っているからな、丁度顔を覚えている人に会ったのさ」


 魔法の種は最後まで隠しておくものだよ。

 まぁ、ただの勲章だけどな。


 今は冒険者ギルドで討伐依頼の成果確認中だ。

 魔法鞄から出て来た巨大岩亀を目にした冒険者から感嘆の声が上がる。魔物が大きすぎて隠しきれないのだ。


「確かに巨大岩亀です。依頼達成を確認しました。

 それで、魔物との戦闘中に別の冒険者パーティーに襲われたとの事ですが」

「あぁ、俺達の前に討伐依頼を受けていた奴らだ。今は衛兵の調べを受けているだろう」

「ご迷惑をお掛けしたようで申し訳ない」

「良くある事だ」


 良くある事なのか。そういう大切な事を教えてくれるべきでは無かろうか。

 討伐依頼の報酬は基本銀貨一二〇枚にプラスして迷惑料が乗り、合計で銀貨一五〇枚になった。五人で分配し、一人銀貨三〇枚となる。


 ◇


「いやぁ、仕事の後の酒はうまい!」


 報酬を貰った後は『カフェテリア』に戻る。週末は店を開けていないので、貸し切りだな。

 俺もみんなを労い、ストックしてある食事を提供する。


「このハンバーグというのは初めて食べるけれど、美味しいな」

「そう言えばタイラスが来るのは初めてだったか。ルイーゼとレティ自慢の手料理だ。堪能していってくれ」

「あぁ、遠慮無く頂くよ」


 ルイーゼは変わった様子が無いけれど、レティはやはり気にしているようだ。夜にでも時間を取って話してみよう。


「こちらにアキト様がお住いと聞いておりますが間違いないでしょうか?」


 訪ねてきたのは、どことなく初々しい感じの衛兵だった。

 用件は突き出した盗賊の件だろう。


「俺がアキトです」

「間違いが無くて良かったです。

 取り調べの結果が出ましたので、ご同行頂けないでしょうか」

「さぁ、酔っ払い。最後の一仕事だ」

「生憎、酒の一杯で酔うほど若くはねぇよ」


 俺は店をルイーゼとレティそれにモモの三人に任せ、バルカスとタイラスを連れて衛兵の詰め所まで向かう。


 ◇


 前回の誘拐未遂の時とは違う衛兵隊長らしい男性に結果報告を貰う。


「奴隷からの証言が取れた。あの四人はこのまま拘留となり、追って処分が降りるだろう」

「そりゃ助かる。あのまま野放しにされたら逆恨みで困った事になるからな」


 バルカス同様、俺も一安心する。


「後は部下に任せるが、所持品はそちらの戦利品となる。好きに使うがいい」

「彼らの所持品はこちらになります」


 そう言って案内された部屋には七人の所有品らしい装備と所持品が置かれてあった。

 この世界では盗賊行為を行った場合、討伐した者に所有権が移る。


「物は現金化すればいいが、問題はあっちだな」


 バルカスの視線の先には奴隷の三人がいた。弓を装備していた二人とウェアウルフだ。

 奴隷も戦利品として扱われるからだろう。


「生憎と俺は奴隷を使役しないんでな、必要ならアキトが使え」

「仲間に弓を向けられたんだから俺だって素直にはいとは言えないな」


「しかし、タイラスにはもっと必要ない」

「とんでもない話だ」


 バルカスの言うように、タイラスはそういうタイプじゃ無いだろう。

 本人も嫌がっている感じだしな。


「となると、後は奴隷商人の所へ連れて行くか――」

「俺、話、ある、いいか?」


 ウェアウルフの男だ。まぁ、狼男なんだが、悔しい事にイケメンだ。容姿は耳と尻尾が無ければ普通に人間と同じだな。銀髪で瞳は黒、体長は俺より頭一つ分大きいか。体格は良く、俺から見ても理想的な体型だ。


「アキト、お前が判断しろ」

「言いたい事があるなら聞く」


 ウェアウルフの方には直接的な(わだかま)りもない。

 弓の男にしても命令で動いていただけだ。本来なら気にしても仕方が無い。でも、やはり直接命のやり取りをした相手となると直ぐに許せるものでもない。


「俺、強い、役に立つ。だから、稼ぐ。そしたら、奴隷、解放、欲しい。

 俺、やる事、ある。だから、直ぐ、稼ぐ」


 望んで奴隷になる者はいない。上級奴隷はただの派遣社員だから別だし、ルイーゼは……例外か。もしかしたら望んで奴隷になる人もいるのか。

 まぁ、このウェアウルフは違うのだろう。不慣れな土地に来て訳も分からないうちに奴隷にされた感じだ。


 もし俺がこの世界に来て直ぐの頃、死に掛けていたのを助けてくれたのがルイーゼで無ければ、そして力を貸してくれたのがリデルで無ければ、俺も奴隷になっていた可能性は高い。


 そう思うとチャンスを与える気持ちも湧いてきた。それに、やる事があるという。目的を持っている奴は行動も掴みやすい。


 問題は、俺が今は学生と言う事だ。だからそうそう狩りには参加できない。狩りに行けなければウェアウルフの目的は達成出来ないだろう。


「俺は学生だからな、月に何度も狩りには行けないんだ。

 急ぐなら、俺には面倒がみきれない」

「なら、年、半分、待つ」


 次の買い手が交渉の利く相手とは限らないからな。

 普通なら解放されないと考えるだろう。


「いくらで買われた?」

「俺、銀、六五〇」


 マリオンの一〇倍だな。既に戦闘経験のある奴隷はやはり高いようだ。

 半年で銀貨六五〇というのは専業なら難しい話では無い。マリオンが抜けた後の近接枠には一致するが……平日の扱いが困るな。

 学園には連れて行けない。まぁ、入園料を払えば行けなくは無いだろうが、来期まで待つしか無い。

 王国図書館と一緒で鍛錬棟も一般公開されているが、一日中鍛錬をしている訳にも行かない。


 良い案が浮かば無いな。

 まぁ、二月、三月の長期休暇の時にまとめて働いて貰えばいいか。普段は『カフェテリア』の手伝いだな。

 メルとリルは、仲良くしてくれるだろうか。俺は自分が異世界人だからか余り(わだかま)りがないけど、この国では一般的にどうなのだろう。

 問題が無ければ、三人いるし開店時間を早めても良いかもしれない。夜とは品物を買えて、違う客層を取り込もう。


「それじゃ銀貨七〇〇枚を稼いだら解放する。それでいいなら俺が雇う」


 別にぼったくりじゃない。生活費だかって掛かるのだから、経費分くらいは稼いで貰う必要がある。


「わかた、それでいい。俺、名前、レオ」

「アキトだ」


 弓の男二人にも一応聞いてみたが、俺の報復を恐れてか、断られた。

 その方が都合良かったので無理強いするつもりも無い。


 そして並べられた報酬の一つが魔法鞄だ。やはり持っていたらしい。まぁ無ければ巨大岩亀を運べないからな。


「いや、これじゃどっちみち運べないさ。それほどの容量じゃ無い」


 どうやら盗賊達には計算違いもあったようだ。

 いくらレティの魔法に狙われていたからとは言え、ちょっと触れるだけで格納出来るのだから奪われなかったのは気になっていたが、理由が分かった。そして、流石だなモモ。


「これは相場でどれくらいだろう」

「魔法鞄は人気商品だからな。それでいて発見される数の少ないアーティファクトの一つだ。オークションで金貨二〇枚と言ったところか」


 高っ! 俺が知っている物の中で一番高い。二番目は魔封印解呪の魔法具になる。

 道理でこの世界の物流が力任せな訳だ。


「……なんであの盗賊がそんな高価な物を持っていたんだ」

「そのまま盗賊だったとしか思えんな」


 魔法鞄は少ないが、少ないだけで出回っていない訳じゃ無い。

 そこそこの貴族なら大体は持っているし、それなりの商家でも持っている。付き合いのあるウォーレンも持っていた。


 ちなみにこの魔法鞄は取り上げられた。何故取り上げられたのかというと、消耗品以外のアーティファクトはその貴重性から、いったん市場に卸すことが法で決まっていたからだ。手に入れる機会を少しでも増やそうと言うことらしい。

 もちろん自分で発掘した物に関しては適用されないので、一安心だ。


 初めから隠し持っておけばバレないかもしれないが、盗賊が吐いたらこちらが罪人になってしまう。

 オークションの売り上げから手数料を引いた分は入ってくるので、リスクを冒す必要も無いだろう。


 ◇


 夕方、俺達――レオを含む四人――は『カフェテリア』に戻っていた。


 結局、盗賊の所持品と所持金、それに奴隷二人を引き取って貰った事で、銀貨約七五〇枚になった。バルカスとタイラスに銀貨一五〇枚ずつ渡し、精算する。


「思ったより持っていたな」

「僕は何も出来なかったのに、貰って良かったのかな」

「稼ぎは山分け、それで良いじゃないか」

「アキトの言う通りだ、若い奴が遠慮する事は無い」


「ルイーゼ、レティ、勝手に決めて悪いけれど、一人預かる事になった。名前はレオだ」

「はい、問題ありあせん。

 アキト様、物置になっている部屋を空けてきます」

「……はい」


 ルイーゼはモモを連れて二階に上がっていく。

 レティはレオを少し怖がっている感じか。


「バルカス、しばらくレオを頼む。適当に食事でもしていてくれ」

「あぁ、こっちは気にするな」

「僕は適当に帰るから、構わずに」


 ◇


 レティに声を掛けて、やって来たのは近くの公園だ。

 もうすぐ日が暮れるので、人影も少ない。落ち着いて話が出来るだろう。


 俺は噴水を囲むように用意されているベンチにレティを座らせ、その隣に座る。

 どう切り出そうかと迷っていたところで、俯いていたレティが口を開く。


「当てるつもりは無かったんです。

 上手く外そうとしたのですが、外したところに駆け込んできて……」


 レティが脅しのつもりの火矢(ファイア・アロー)を盗賊に当ててしまった事だ。

 はじめから外していた火矢(ファイア・アロー)だが、狙われたと思って逃げ回る盗賊が自ら当りに行く形になってしまった。


 その時の様子を思い出してか、握りしめられた手が震えていた。


「人を傷付けさせてすまない」


 レティはルイーゼやマリオンと違って、人と戦った事は無い。人を傷付ける気持ち悪さで正気を保てなくなる可能性もある。

 俺は自分で辛かった事を、その覚悟も教えないうちから実戦させてしまった。


「いいえ、わたしが浅慮(せんりょ)だったのです。

 外の世界に出れば危険なのは魔物だけでは無いと知っていたはずなのに、ただ一緒にいられればと、それだけの思いで冒険者になると言っていました」


 レティはまだ一四歳になったばかりだ。ついこの間まで一三歳だった子に、冒険者のリスクを見通せる訳が無い。それは俺が伝えるべきことだった。

 魔物を狩る事、身を守る事を優先して、心を守る事を教えられなかった。


「レティ、それを教えるのは俺の役目だった。

 辛い思いをさせて、すまなかった。

 でも、ありがとう。彼らを止めてくれた事で、乱戦にならず、誰も死ななかった。レティのおかげだ」


 俺は、リデルやリゼットが俺を救ってくれたように、レティの助けになっているだろうか。

 レティが傷ついた分、俺も学ばなければいけない。それが責任だ。


「私、本当の意味での冒険者には、なれそうにありません。

 アキトさん、今まで子供の我が儘に付き合ってくださってありがとうございました。

 こんなに良くしてくださったのに、戦えなくてご――」


 俺はレティを抱きしめる。謝らせては駄目だ。

 腕の中で震えるようにして泣くレティに、掛けられる言葉は多くない。


「レティは何も悪くない。俺の方こそ、ありがとう。

 前に言ってくれたように、俺もレティがいてくれて毎日が楽しかった。

 最後に無理をさせてごめん」


 レティはこれからリデルを助け、行政について学んでいくそうだ。

 これからも魔物狩りに参加することはあると思うが、その時はもう冒険者としてでは無く、狩人としてだろう。


 でも、それでいい。

 ちょっとした恋煩いだ。外の目新しい世界、同じ黒い髪を持つ仲間、魔術師としての開花、どれも魅力的だっただろう。

 それらから離れて落ち着いた時、改めて大切と思う物を追い掛ければ良い。俺達はまだ若いのだから、何度でも挑戦しよう。


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