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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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討伐依頼・前

 マリオンが旅だったのは、あの後直ぐだった。

 ルイーゼ、レティ、モモの三人にも大体の事情は話した。二人がマリオンを責めるような言葉を口にすることはないが、それでも寂しそうではある。モモにも元気が無い。

 最後に話せなかった事はとても残念そうだが、また戻ってくるという言葉を信じて共に待とう。


 マリオンは、ルイーゼにとっては気が置けない友達だったし、レティにとっては頼りがいのある姉であっただろう。

 いつもいるはずの所にいない、マリオンの存在に慣れるにはまだ時間が必要だった。


 だから、俺達は寂しさを紛らわせるように鍛錬に明け暮れていた。

 バルカス試験官も巻き込んで実践さながらの模擬戦を繰り返し、自分の中の甘さを研いでいく。

 暴走していると(たしな)められても理性で感情を抑えられなかった。結局ボロボロになるまでバルカス試験官に打ち付けられ、気を失うように鍛錬を終えていた。


 ルイーゼやレティにもいずれ旅立つ時が来るかもしれない。その時に備えて俺がしてあげられるのは、身を守るための手段を高めることだ。

 その為には俺も強くならなければいけない。守りたい者を守る為の力が欲しかった。


 本当ならこんな肉体労働ではなく、普通の女の子らしい生活に戻してあげたいのだが……あれ。よく考えたら『カフェテリア』の収入だけで、ルイーゼとレティが生活していくことが出来るな。


 今の状況で危険な魔物狩りに二人を連れて行く理由は無い。

 俺が魔物狩りに魅力を感じているだけじゃないか。


「二人に聞きたい。

 危険な魔物狩りと素敵な『カフェテリア』、選ぶならどちらがいい?」

「アキト様が選ばれた事でしたらどちらでも異論はありません。

 ただ、いずれかをという事でしたら魔物狩りがよろしいかと」

「わたしも皆さんと一緒でしたらどちらでも問題ありませんが、やはり魔物狩りでしょうか」


 あれ?

 俺が二人の将来にと思っている事が二人にとっては二の次なのか。


「理由を聞いても?」

「え、あ、あの。

 お料理でしたら他の子でも出来ますけれど、戦いでしたら簡単には負けません」

「私は魔術師ですから、活躍の場があるとすればやはり戦いの場かと」


 二人の言うことは最もだが。それでいいのか?


「普通はお洒落して、美味しいものを食べて、王子様の話で盛り上がるところだと思うが?」

「アキト様がいてくだされば問題ありません」

「素敵なアクセサリーを頂いて、美味しいお食事が出来て、アキトさんもいますし、これ以上は贅沢です」


 二人がいいなら、俺の好きにしていいのだろうか。

 まぁ、他に望むことが出来たら叶える手伝いをすれば良いか。


 しばらくは狩りで魔封印解呪の魔法具代を稼がないといけないが、ウォーレンから絹布の売り上げも入ってくるし、何とかなるだろう。


 ちなみに国王陛下から頂いた魔封印解呪の魔法具はマリオンに使ったので、既に手元には無かった。旅立つマリオンをどうしても万全の体制で送り出したかった。

 解呪したからと言って直ぐに魔法が使えるようになる訳では無いが、マリオンは努力家だ、遠くないうちに魔法が使えるようになるだろう。


 ◇


「アキト、ちょっと力を貸せ」


 休日の鍛錬を終えた後『カフェテリア』でコーヒーを試飲していた俺の所に来たのはバルカス試験官だ。

 何故か一緒にタイラスもいる。


「タイラス、いいところに来た。ちょっとこれを飲んでみてくれ」

「やぁアキト。演習以来だね」


「のんびり茶を飲むのは後にして、お嬢ちゃんたちと一緒に来てくれ」

「俺はコーヒーを――」

「後だ、後だ」


 ◇


 強引に連れられて、やって来たのは冒険者ギルドだった。


「これで五人だ、討伐依頼受けられるな?」

「申し訳ございません。既に巨大岩亀の討伐パーティーが出ております」


 討伐依頼という事は近くに流れの魔物が現れたのか。

 いずれにしても既に討伐パーティーが出ているなら問題ないだろう。


「はぁ? そいつらには倒せそうなのか?」

「自信はおありのようでしたが、正直難しいかと……」

「なら、そいつらが失敗した後なら構わないか?」

「了承が得られれば問題ありません」


 バルカス試験官、やけに拘るな。

 別に討伐可能な魔物なら参加するのはやぶさかじゃ無いけれど、納得のいく理由くらいは聞きたい物だ。


 ◇


 巨大岩亀の出現ポイントまでは馬で半日だった。

 俺とルイーゼ、それからモモは馬に乗れない。レティとバルカス試験官、そしてタイラスは乗れる。


「アキトよぉ、何が悲しくて男同士でひっつかなきゃ行けないんだ」

「馬の乗り方を教えておかなかったからだな」


 ルイーゼはレティに、モモはタイラスに、俺はバルカス試験官に乗せてもらう事で問題は解決だ。


「バルカス試験官、そろそろ説明して欲しいんだが」

「いい加減に試験官ってのは止めてくれ。未練たらしいじゃ無いか。

 理由は単純だ、ランクCのくせに弱くて稼げるからだ」


 ランクCなのに弱いのか。そして稼げるのか。

 本当に単純な理由だな。だが、そんなうまい話が転がっているのか。


「だったら先行した討伐パーティーが倒しているんじゃ無いか」

「受付が難しいと言っていただろう。あれはつまり先行した奴らには魔術師がいないって事だ。

 巨大岩亀は魔術師がいないとランク相応の強さになるからな」


 だからタイラスも連れてきたのか。

 レティとタイラス、場合によっては俺の魔法も合わせれば余裕という訳だ。


「僕は今理由を聞いたところだ」

「タイラスも災難だったな」


「なぁに、討伐報酬も合わせれば銀貨一二〇枚だ、二日の旅程なら美味しいだろ」

「まぁ、悪くないな。

 迷宮にでも籠もっていた方が稼げるとは思うが、久しぶりに外で暴れるのも良い」


 ◇


 王都を出るのが昼頃だった事も有り、巨大岩亀の発見場所に着く頃には日も沈むところだった。


「今日は適当に野営して、明日の午前中に仕留めよう。

 明日の発見時点で誰も戦っていなければ、そのまま討伐するぞ」

「いいのかそんなんで」

「一晩も待てば、何か言ってきたところで言い訳も立つさ」


 相変わらず軽いな。

 まぁ、今回の討伐隊リーダーはバルカス試験官だ、判断は任せよう。


「モモ、野営道具を頼む」


 モモがにっこり微笑んで小枝を振るう。

 近くに魔法陣が展開され、野営道具が現れた。


「なんど見ても感心するよ」

「まったくだ」


 タイラスとバルカス試験官の反応だ。


 モモの事はルミナスの迷宮に潜っている時に話してある。モモには隠れてもらっていたが、獲物を回収する時にバルカス試験官に見破られたからだ。

 経験の差なのだろうか、身体強化(ストレングス・ボディ)の事と言いモモの事といい、バルカス試験官はあっさり見抜く。


 その内もっと色々とバレそうだが、バルカス試験官の人となり(・・・・)は悪くない。協力者として頼られる事はあっても、利用される事は無いだろう。


「うわぁ、駝鳥の肉がついに切れた……」

「アキトお前、商品に手を出していたのかよ」


 野営の準備が整い、食事の準備に入ったところで残念なお知らせだ。


 どんなにモモが優れていても、無い物を作り出す事は出来ない。この世界では生物(なまもの)の輸送手段が無い為、どうしても欲しい食材があるなら現地調達しかない。駝鳥はミモラの町の特産物だ。王都からだと二週間は掛かるな……。


「元々は俺の為にマリオンが捕まえてくれたんだぞ、それをお裾分けしていただけだ。

 むしろバルカスさんが一人で酒のつまみに食べ過ぎなんだぞ」

「さん付けとか、気持ち悪いな」

「なら生意気にも呼び捨てにさせてもらう」

「あぁ、お前は生意気だからそれでいい」


 まぁ、俺もなんとなくさん付けしにくい人だからその方が助かるけれどな。


「そう言えばマリオンさんはどうしたんだい」

「マリオンはやる事があって、旅立った」

「手伝わなくても良かったの?」

「良くは無いさ、心配で堪らない」


 今だって追い掛けていきたくなる。

 万が一にもマリオンが死ぬような事があったら、あの時、無理にでも引き留めなかった俺を許せそうに無い。


「だったら何故?」

「どうしても俺を巻き込みたくないと言ったからな」

「それだけ危険なら――」

「おい、タイラス。

 アキトは自分の思いよりも相手の思いを大切にした、それだけだ。

 仲間って言うのは何時もお互いを心配し合っている。

 でもそれだけじゃ駄目だ、信頼が無ければ本当に強くはなれない」


 バルカスの言う事はきっと正しいのだろう、でも――


「そんな格好のいい事じゃないさ、今だって後悔している」

「だがお前は辛い選択をした。

 お前は若い。これから先、何度も辛い選択を迫られる事があるだろう。

 だがお前は辛さから逃げる為に間違った判断をしなかった。

 マリオンがお前に残した強さだ、無駄にするな」


 無駄にはしない。


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