表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
122/225

力持つ物と責任

 再び王城からの招致が掛かったのは園外演習の事故から十日が過ぎた日の事だった。


「今度は俺だけじゃなく、ルイーゼ、マリオン、レティも一緒だな」

「アキト様、よろしいのでしょうか」

「さすがに断る方が問題になりそうだ。

 内容はだいたい察しが付く、園外演習での件だろう」


 今回は良い話で呼ばれるわけではない。さすがに俺達が責任を問われる事は無いと思うが、念のため不覚を取らないように想定問答は考えておこう。


 日時は明日の午後だから気まずい食事の心配はしなくても良さそうだが、今回は頼みのリデルがいないので、みんながいてくれるなら心強い。

 服装も学園の関係で行くのだし制服でいいだろう。


 気持ち以外は特に準備も必要ないな。 


 ◇


 翌日、お昼を過ぎてから王城に赴き、城門前の詰め所で登城要請の手紙を差し出す。

 前回と同じように謁見の間の隣にある控えの間まで、一時間と少し。

 今回はじめて王城に入る三人は流石に緊張しているようだ。普段も言葉数は少ないが、更に少なくなっている。


 控えの間で待つこと更に三〇分。今回迎えに来たのは近衛騎士ではなく執務官と思われる男性だった。

 その案内に従い、謁見の間に向かう。


 二度目とはいえ、元が小市民の俺にはハードルが高い場所だ。それは他の三人も一緒だろう。

 謁見の間に通じる扉の前で少しだけ時間をもらい、三人に声を掛ける。


「緊張と不安でいっぱいだと思うが、いざとなったら俺の事でも考えて気を紛らわせてくれ」


 三人は言葉にはせず、頷くことで理解を示す。


 案内の執務官が扉の両脇に立つ騎士に声を掛けると、高さ三メートル、幅も三メートルほどの扉が開けられた。

 幅広の赤い絨毯が行き着く先にはヴァンスラード国王陛下とメルティーナ王女が待っていた。今日も王妃はいないようだ。それに王子の姿も見当たらない。


 前回と同じように、通りの両脇には近衛騎士が一〇人ずつ控えている。有事への備えだと思うが、統一された装備と隙の無い姿に、一つの形式美があるように思えた。


 俺達は執務官の誘導に従い、一段高くなっている床の手前まで移動する。

 そこで両膝を突き、頭を下げる。おそらく他の三人も同じようにしているはずだ。


「アキト、面をあげよ」

「はっ」


 三ヶ月ぶりだが、相変わらず国王陛下というより強者の冒険者という風格を持った三〇代後半の男性だ。

 王都学園の園外演習でトップの成績を収めていたくらいだ、文官ではなく武官寄りなのかもしれない。


「隣はアルディス家の娘だな。面をあげよ」

「はい、レティシア・ブラウディでございます国王陛下」


「他の二人も面をあげよ」

「はい」

「はい」


「名乗ることを許す」

「ルイーゼと申します、国王陛下」

「マリオンです、国王陛下」


 マリオンを見る国王陛下の表情に変化があった。警戒? だろうか。


「マリオン、そなたの生まれは何処か」

「……帝国の辺境でございます、国王陛下」

「ヴィルヘルムの者か」

「……はい」


 俺はマリオンの過去について何も聞いた事が無い。

 そのマリオンはここエルドリア王国では無くザインバッハ帝国の生まれだという。

 なぜ国王陛下はマリオンにだけ出生地を聞いたのか。


「ヴィルヘルムの娘よ、新たな道を見付けたか?」

「いえ、道は一つで御座います国王陛下」


 国王陛下は、俺は知らない何かしらの事情をマリオンに確認した。

 過去を一度も尋ねなかったのは薄情だっただろうか。


「そうか。マリオン、その名、覚えておこう」

「もったいないお言葉、恐縮でございます」


 マリオンは初めて会った時から、変わらぬ目的を持っていた事は知っている。

 そしてその目的を果たす為に剣と魔法の鍛錬に取り組んでいた。

 俺に手伝える事は無いのだろうか。


「王というのはこれでいて意外と忙しいものでな。本題に入らせてもらう」


 社交辞令的あいさつはしないですみそうだ。


「此度、王都学園での演習において発生した事故は痛ましいものだった。

 我が重臣の娘も、あの事故で婿となる男を亡くしておる。

 報告では原因となった魔物の討伐にあたったのが、そなた達四人とあるが間違いないか」


「はい、間違いありません」


「出現した魔物はランクCの牙大虎と聞いている。

 よもやそなた達のような若者が、それほどの魔物を倒すとはな。未来ある若者が偉業を成し遂げたのは、光明でもあっただろう。

 約束通り精進しているようで何よりだ」


 そう言えばそんな約束もしていたな。

 もし魔物を倒せなかったら「全く精進してないようだな」とか言われたのだろうか。


「力及ばず、多くの犠牲を出しました」

「よい。

 個人の力には限りがある。その中で最善を尽くしたこと、十分であろう。大儀であった。

 さて、その活躍に対して十分な報酬を与えたいと思うが、何か望むものはあるか」


 俺が欲しいもので、庶民には手が届かない物。

 決まっている、リリスさんとのデートだ!


「もったいないお言葉で、身に余る光栄です。

 恐れながら魔封印解呪の魔法具を頂きたく思います」


 ……あれ? なんか不服そうな空気が。

 二つ返事でオーケーじゃ無いのか? もしかして高望みしすぎたか?

 俺は自然とお姫様を見てしまう。


 そこには既に隠そうともせずに笑っているお姫様がいた。


 どういう事だ?


「アキトよ、我がその程度の褒美しか出せないと思っておるのか」


 なんか怒っているというか不満の声が。

 俺の要求って甲斐性が無いと言っているようなものなのだろうか。でも、なんかこれ以上に欲しい物とかないぞ。


 やばい、沈黙はまずい。


「申し訳ございません、決してその様な事はありません。

 私にとっては十分過ぎるほと高価な物ですので、叶うならばこれ以上の物はございません」


 う、まだ納得していないようだ。

 すみません、もう何もいりません、二度と関わり合いの無いように生きていきます――と言って逃げ帰りたい。


「良いだろう、その願い叶えよう。

 よって、これは忠告と思って聞くが良い。

 力ある者が活躍し贅をこなさねば、下々の者にまで富が行き渡らぬものだ。そして、それを見て立つ者が現れなければ国の繁栄などありえん。

 アキト、そなたはそれを示さねばならぬ」


 確かにお金は使わなければ回らないが、俺には使えるお金が限られている。その限られた中から結構市場に流していると思う。


「メルティーナよ、賭けは父の負けのようだ」

「フフフッ。お父様でも読み違える事があると知って、お兄様も気が楽になる事でしょう」

「とは言え、褒美も無しではそれこそ後に続こうとする者がおらぬだろう」


 後腐れの無い物でお願いします。

 賞状とかが一番良いと思います。


「アキト。お前には望むのであれば名誉男爵の爵位を与えるつもりでいた。

 本来であれば前回授けても良かったがな。

 だが、望まぬのであれば無理強いはすまい。

 よってアキトよ、そなたに王国栄誉騎士勲章を与える、前へ」


 セーフ!


 俺は勝った。想定問答万歳。勲章とか貰ってもタンスで埃被るだけだが賞状でも同じだしな。

 嫌な物は避けて、欲しい物を手に入れた。俺は政治の世界をクリアした!


 ……危なかった、正直そんな爵位はいらない。俺が貴族社会になんか入ろうものなら、どれだけ居心地の悪い思いをするか。

 今でさえ髪が黒い事でさんざんな言われようなのに、新興の成り上がりとかで虐められるのが目に見えている。悪役令嬢に目をつけられたらどうやって生きていけば良いのか。


 勲章を与えるって所で、一瞬空気のざわめく雰囲気があったくらいだ。これで授爵されようものならどんな非難が飛び出るか。


 権利だけもらって義務は放棄するとか出来るながら良いが、そんな都合の良い事は無いだろう。リデルも分家を起こすのに四苦八苦しているしな。

 まぁ名誉が外れるリデルはともかく、名誉付きなら家を起こす必要も無いだろうからそれほど大変なことも無いかもしれないが。


 俺は一段床を上がり、立って待つ国王陛下の手前に両膝を突き、手を差し出す。

 国王陛下の側に控えていた騎士の一人が俺に近づき、耳打ちをする。


「今日より騎士の礼を取るように。勲章を受け取った時は騎士の誓言(せいごん)を」


 騎士勲章だからか、この辺がさっぱり分からないが教えに従い、片膝を立てる。


「アキトよ、そなたの活躍を評しここに王国栄誉騎士勲章を授与する」

「我アキトは、国王のため、民のため、この身を剣とし国に尽くすことを誓います」


 あっているか、自信が無い。


「これからもそなたの活躍を期待している。

 リリス、例の物をアキトに」

「畏まりました」


 玉座の奥、お姫様の後ろ手に控えていたリリスさんが幅一メートルほどの木箱を持ってこちらに歩いてくる。結構重そうにしているな。ちょっとふらついている感じが頼りなさげで可愛い。


「アキト、受け取るが良い。

 お前が爵位を欲しがらなければと、娘が用意していた物だ。

 これからの戦いの助けとなるだろう」


 何かは分からないが、ここで遠慮してやっぱり爵位やるわとか言われるのもまずい。頂いておこう。


 装飾の施された木箱を受け取り、お姫様に頭を下げて礼をする。

 よく見ると、お姫様の服の細かい装飾に銀糸が使われているな。緑色の淡い光が服に馴染み、品が良く仕上がっている。流石に王族だけあって良い仕立屋がいるのだろう。


「ではアキト。また会えるのを楽しみにしている」

「はっ」


 俺は二度目にして何とか謁見をこなせた事に安堵した。


 ◇


「これはまた、素晴らしい剣ですな」


 王城を後にした俺達は、仕事の関係でウォーレン商会を訪れていた。

 仕事というのはおかしいな、私事だな。月末にある学園祭用のイブニングドレスを発注していたところだ。

 女の子組は採寸の為にローレンと別室に行っている。

 もちろんローレンには採寸のメモをお願いしている。貰えるかどうかは分からないが。


 今は、必要な話を終えたところで、お姫様から頂いた物がある事を思い出し、箱を空けたところだった。

 中に収まっていたのは白銀の剣が一本。

 過去に一度だけ見た事がある、ミスリル鉱で作られた剣だ。軽量で強度が高く、魔人の纏う魔闘気すら切り裂くと言われている。

 前に見た物とは違い、無骨さが一切無く、刀身から柄まで流麗な作りをした装飾の美しい片手剣だった。柄の部分には王国の紋章が入っており、近衛騎士団と同じ剣だと思われる。王国騎士団でさえ持っていないような剣を貰ってしまって良かったのだろうか。


 流石に魔剣では無かったが、それは俺がどうにかすれば良い。ミスリル鉱は魔力の通りが銀以上に良い為、さほど苦労はしないだろう。


「俺が持つには些か過ぎた物に思えるな」

「此度のご活躍と冒険者ランクCという実力に対して、十分に釣り合いの取れる武器かと思います。

 失礼を承知で申し上げれば、今までお使いの剣の方が不釣り合いでした」


 それでも初めて買った武器だから結構愛着がある。半年以上も俺を助けてくれた剣だからな。

 とは言っても、流石に攻撃力不足は感じた。ありがたく使わせてもらおう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ