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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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神は二物を与える?

 週末。

 全員参加を義務付けられている筆記試験を午前中に終え、今は放課後に貼りだされた試験の結果を見ていた。


 ルイーゼ、普通科一般教養七位、総合一般教養七七位。

 マリオン、普通科一般教養一〇位、総合一般教養九二位。

 レティ、魔法科魔法理論九位、総合魔法理論一二位。

 俺、一般教養、魔法理論共に欄外。


 あれ?


 実技はまだ分かるけれど、なんでルイーゼとマリオンが一般教養で上位一〇名に入るんだ。

 確かにルイーゼは頭がいいし、マリオンの物覚えもいいけれど。

 総合の順位と差が大きいところを見ると、普通科は余り教養には力を入れていないのか。

 普通科が教養に力を入れないなら、何処に力を入れるんだ。普通科には魔法理論がないし、他にあるのは実技だけだぞ。


 俺は……問題がよく分からなかったから仕方がない。

 普通の文ならまだ何とか読めるようになったが、試験問題は専門用語と独特の言い回しが多くて、答えを推測するどころか問題を推測するところから始まった。

 結果は見るまでもない。

 唯一まともだったのは算数くらいだ。


 マリオンも文字は苦手にしていたはずなんだけれどな。

 魔法の覚えも早かったし、やっぱり天才なのだろうか。


 ◇


「おぉ、いたいた」


 中央ホールで試験結果を見ていた俺達に声を掛けてきたのはバルカス試験官だった。


「バルカス試験官。なぜここに?」

「なぜって、ここが俺の職場だからな」


 バルカス試験官の登場に、数名の男子が寄ってくる。


「バルカス試験官、是非指導をお願いします」

「私も先生に教えてもらいたいことがあります」

「バルカス試験官、私も魔物との戦いで分からない事がありまして」


 大人気じゃないか。

 さすが冒険者ランクBになると凄いんだな。


「まぁ、待て。先に俺の用事を済まさせてくれ」


 いつの間にか一〇名近くになっていた男子も、その言葉に従い沈黙する。 


「アキト、なぜ戦闘実技を受けない?

 お前ん所の娘さんがうちの者に恥をかかせてくれたってんで、そのお返しに待っていたんだぞ」


 待っていたという言葉に対して、驚きの声が出るが、俺も驚きだ。


「実技の方は、鍛錬棟で済ませようかと」

「物足りないのは分かるが、トップがボイコットじゃ俺のメンツがたたん、最低でも週に一回は参加しろ」


「バルカス試験官、物足りないとは聞き捨てなりません!

 確かにこの間は油断しましたが、本気を出せば女などに負けはしません。

 もしご指導頂けるなら、普通科のトップは俺で間違いないでしょう」

「俺もこの間の試験は休み明けで鈍っていただけで、今なら負けません」


「お前ら、出すならはじめから本気を出せ。

 実戦で二度目があるとは思うな、一度負ければそれで死ぬことだってあるんだぞ」


 ごもっともだ。

 とは言え、俺は何度も逃げ帰って何とか生きているけれどな。


「大丈夫です、試験官ならまだしも魔物に負けるほど弱くはありません!」

「私もです。何ならルミナスの迷宮で――」


 騒がしくなってきたのでお暇しよう。


「あ、こら、アキトちょっと待て!

 来週は必ず一度は顔を出せよ!

 後、秘密を教えろ!」


 バルカス試験官、私情が入っていますよっと。

 俺は金曜に参加するとだけ伝えてその場を後にする。

 どうせなら試験はまとめてしまおう。金曜の午前が教養で、午後が実技だ。


 ◇


 一般教養は主に、法律、作法、史実、地学、算数、雑学がある。

 この中で、俺が唯一得意とする科目が算数だ。

 単純に点の取り合いであり、色眼鏡の掛かる要素が無いこの項目において、俺が満点のトップだった。だって内容が小学生レベルだったからな……。


 それ以外では雑学も結構ましだった。

 今は雑学の講義中で、講義と言っても主に質疑応答が中心の科目だ。

 この講義の中で、ここぞとばかりに元の世界とこの世界での知識のギャップを埋めていく。


「人がジャンプすると再び地面に落ちるのは何故ですか?」


 俺の質問に室内に笑いが湧き起こるが、講師が長考に入ったところで次第に笑いが収まっていく。


「これは発表された論文による物ですが、存在する物質は全て地面に引っ張られていると考えられています」


 一応重力的な物は認識としてあるようだ。

 礼を言って次の質問に移る。


「海に出ると弧を描いていますが、この世界は丸いのですか?」


 再び室内に爆笑が訪れる。


「丸かったら海の水がこぼれ落ちるだろ」

「丸かったら遠くにいる人は空に転がり落ちるんじゃ無いか」


 ごもっともだ。

 しかし、再び講師が長考に入ったところで室内も静まってくる。


「かつて、東にさらに東にと海や山、大陸を越えて旅をした人がいます。

 その人の記録では旅立ちの大地に戻ってきたとあります。

 真偽は不明ですが、それが本当であれば私達の住む世界は丸いと言えるでしょう」


 今度は笑いでは無くざわめきはじめる。

 この世界は丸い。重力があるから証拠か。


「太陽は東から昇って西に沈みますが、これは太陽がこの世界の周りを回っているからですか?」

「そう考えられている」


 天動説だった?!


 俺はどんどん聞いていく。

 そして分かった事と自分が認識している事のズレを埋め合わせる。


「空気の中に魔力があり、空気を吸う事で魔力を回復しているというのは何人かが論文を出しているようだが、事実を確認する方法が無い為、一般論には至っていない。

 魔力回復剤以外で魔力を回復する事は出来無いと言えるだろう」


 これは間違っているな。少なくても俺には出来る。

 多分やり方さえ分かれば他の人にも出来る。


「魔封印を解呪しないで使える魔法は存在するが、魔力制御が難しく実用的に使える魔法は存在しない。仮に使えたとしても内燃性魔法の為、自分自身にしか作用しない」


 これも間違っている。身体強化(ストレングス・ボディ)自己治癒(セルフ・キュア)は他人に対しても使える……いや、使っているのは魔法じゃ無いのか。あくまでも魔力を制御しているだけで、実際に魔法を使っているのは本人なのか。

 であれば、間違いとは言えないな。


「魔力を力として放出する事は可能だが、放出した魔力を制御する事は出来ない」


 これは難しいところだが、媒体を使用するなら形は変えられる。魔刃(マジック・ブレード)がそれだ。

 魔力を通しやすい媒体で作られていれば、その形に添って魔力が形成される。


 最初は質問の度に笑い声が上がっていたが、最後にはみんな真剣にノートを取り始めていた。試験に出るのだろうか。


 何にせよ色々と知識の整理が出来た。今まで保留としておいた疑問がだいぶ片付いたのでスッキリした。

 元の世界以上に学校を有意義に使っているな。


 ◇


 夜、リゼットと昼間の講義の内容を話していた。


『そうですね、アキトからしたら非常に文明の遅れた世界に思えるでしょうね』

「方向性が違うだけだと思うが、思ったより認識にズレがあったな」

『私が今いる世界の知識をもって帰ったなら、世界の常識が根底から覆されるに違いありません』

「まぁ、そっちの世界の知識がこっちの世界に当てはまるとも限らないが」


 とは言え、その知識に助けられた事も多い。


『私、そちらの世界にいつでも戻れると分かってから、やりたい事が一杯出来たんです』

「聞いても?」

『心配を掛けた人達への謝罪はもちろんですが、貴族として私にも出来る事があると気付いたんです。

 些細な事です。私が働いて得たお金で領民の生活を助けたいと思います。

 私は一五歳ですから、一五年は続ける必要がありますね』

「命を狙われたとしても?」


 リゼットはこの世界で継承権争いの為に命を狙われていた。それを直接守ったのは父親かもしれないが、その為にリゼットは幽閉されていた。


『あと二年もすれば義弟も成人します。猜疑心の強い義母の事ですから、直ぐに結婚する事になるでしょう。子供も早いでしょうね。

 子供が生まれれば私の継承権が無くなりますので、私の権利的には市井と同じです。わざわざリスクを冒してまで命を狙う必要も無いでしょう』


 時間が解決してくれるか。

 全面対決よりは平和的解決とも言えるな。


「あれ、そうすると、リゼットがこっちに戻ってくるのは二年後もしくは、継承権が切れてからの方が良いのか?」

『おそらく今の私は死んだ事になっているでしょう。

 今戻って再び継承権争いが起こるのは愚策かもしれません。

 もちろんアキトがこちらの世界に戻ってくる為に、私もそちらの世界に帰る事は構わないと思います。ただ、家族に知らせるのはしばらく待つ方が良いかと』


 確かに、折角生き延びたんだ、今すぐリスクのある事をする必要は無いだろう。


『まぁ、話だけは立派な事を言いましたが、具体的な方法については検討中ですけれどね』


 リゼットは頭が良い、向こうの世界で得た知識を正しく使ってやるべき事をやるだろう。

 俺は必要な時に手を貸して上げれば良い。


「その時はいくらでも協力する」

『ありがとう、アキト』


 俺もきちんと戻ってからの事を考えていこう。


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