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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第一章 冒険者編
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鍛錬と狩りの日々

 翌日、朝の鍛錬を始めた。


 かるくストレッチをしてから今日の狩りに支障が無い程度の鍛錬を行う。基礎体力作りの為にまずは走り込みと筋力アップトレーニングに体幹強化が中心だ。

 軽くのつもりが、モモが付いてくるので意地になってしまった。


「ハァハァハァ……これは……虚弱過ぎる……」


 何故か一緒に付いてきたモモは全く疲れていないようだ。俺が大の字になって寝転がっていても、その周りで蝶を追いかけながら元気いっぱいに走り回っている。


 ◇


 リデルは約束の時間にやってきた。

 昨日と同じように爽やかな笑顔で挨拶をしてくる。


「おはようアキト」

「おはようリデル、今日もよろしく」

「こちらこそ、良いお小遣い稼ぎになるよ」


 リデルの家は貴族らしいが、爵位が低い上に五男と言うことも有り爵位を継げる可能性はないらしい。かといって政略結婚にも婿入りする相手がいない状態だとか。


 俺の経験から言えばこれだけのイケメンで結婚に困るとかあり得ないのだが、ここでは結婚は恋愛結婚では無く政略結婚が普通で特に貴族となればそれが当たり前だった。

 ただ、男爵家の五男にもなると政略結婚の相手も難しく、成人になると共に継承権を放棄して自立する事にしたそうだ。


 今は騎士登用試験を目指すのと同時に実戦的訓練を兼ねての冒険者稼業を始めた所で、冒険者としての実戦は昨日が初めてだった。

 昨日言っていた、実戦が初めてというのは嘘では無いわけだ。

 男爵家の嗜みとして剣の練習はきちんと行っていたし、もとから冒険者として実戦経験を積む事も考えて必要な知識も習っていたとか。


 ……あれ、継承権は放棄できるのか。

 リゼットも継承権を放棄したら義母の標的から逃れることが出来るんじゃないのか。


 詳しく聞いてみると、放棄するには継承権上位が既に子供を設けていないといけないらしい。リゼットはこの条件に当てはまらない。


 ◇


「やっぱり僕には見えないな」


 俺は隣にちょこんと座っているモモをリデルに紹介したが、リデルには見えないらしい。


「リデルはブラウニーの事を知っていたよね、ブラウニーが見える人と見えない人がいるの?」

「僕は見た事が無いけれど、見える人がいる事は確かだね。相手は精霊だから見る人にも適性が必要だと言われている。僕には無いのかもしれないね。後はブラウニー自身に他人には見えなくなるような特技があるとも言われている」

「なるほど。まぁ、見えないなら見えない方がトラブルは少ないか」

「そうだね、もしブラウニーを連れていると知られると、それを利用しようとする人は少なからず出てくるだろうから」


 俺はモモに俺以外に見られないように隠れている事は出来るか聞いてみた。

 モモは一生懸命首を縦に振っているので、俺は外に出る時は隠れているようにお願いしておいた。


「それじゃ今日は慣れてきたら一角猪も狙ってみよう。

 昨日の感じだとちょっと時間が掛かるけれど、一角猪は角と肉も売れるから牙狼(がろう)よりは稼ぎが良いよ。普段なら肉が嵩張るから荷物持ちを雇わないと狩りを続けられないんだけれど、幸いにしてブラウニーがいるからね」

「見えないだろうけれど、モモって名前を付けたんだ。気に入っているみたいだからそう呼んであげて」

「わかった、よろしくねモモ」


 リデルは俺の膝に座っているだろうモモに笑顔で挨拶をした。心なしかモモも嬉しそうだ。


「それじゃ行こうか。お肉か……売るより食べたいくらいだ」

「全部売る必要は無いからね、少し切り分けよう」


 ◇


 一角猪、まぁ一言で言えば角の生えた猪、そのままだな。違いと言えば全身が真っ黒で目と角が異様に赤く輝いていて禍々しさを感じる。子牛ほどの大きさで体重は二〇〇キロくらいだろうか。

 攻撃方法は角を武器にした突進と後ろ足蹴りだけのようだ。

 一度だけ後ろ足蹴りを食らいそうになって焦った。まともに食らったら骨が折れるくらいでは済まないかもしれない。


 ガキン!


 リデルは一角猪の突進を盾でいなし、横に回り込んでは首か足を狙って攻撃を繰り返す。

 俺は常にリデルの背後に回るようにして一角猪の突進を一緒に躱し、リデルの攻撃で怯んだ所に魔弾(マジック・アロー)を撃ち込む。

 そこで隙が出来るようなら同じく首か足の狙いやすい方に剣で一撃を与えて、再びリデルの後ろに回る。


 正直、俺の動きはリデル頼りでセコいが今は仕方ない。今は、一角猪の突進を躱して攻撃する自信が無い。躱すだけならなんとか横っ飛びで躱せそうだが、攻撃する暇が無い。


 リデルの守りは安定している。

 一角猪の突進をまともに受けると流石に吹っ飛ばされるからか上手く横に流し、その動きでもって横合いから急所の首や動きを封じる為に足を狙っている。

 ぶっちゃけ俺がいなくても一人で倒してしまいそうだ。


 まぁ、俺が他の魔物が近くに来ていないか監視しているから安心して一匹に集中出来ている可能性もある。

 大体一〇分くらい戦った所で一角猪は出血の為に倒れて動かなくなった。

 結構しんどい、一日にそう何匹も狩れないな。


 ◇


「これの解体は専門家に任せよう。手数料は掛かるけれど、僕らで解体していては時間がもったいない」

「確かに。モモ、この一角猪をしまって置いて」


 モモは嬉しそうに頷くといつもと同じく指を指揮棒の様に操作する。一角猪の周りに魔法陣が展開されフッとその姿が消える。


「改めて目にすると凄い力だね」


 今思ったけれど、一角猪を取り出す時にモモの事がばれそうだな。


「そこは家を通して処理しよう。元々僕も狩った獲物は家から運び込んでいるからね」

「それじゃお言葉に甘えて」

「もし直接買い取りをお願いしても、ギルドお抱えの買い取り屋に持って行けば変な噂にはならないと思うけれどね。一応そういった情報は秘匿する義務があるんだ。

 そうじゃないと冒険者にとって色々と知られたくない武具や魔道具を持っている事が噂で広まって面倒事が増えるから。

 ギルドとしては冒険者を守るのも仕事だから余計な事は言わない事になっているんだ」


 冒険者にとって獲物を狩る手段は企業秘密なのだろう。命を賭けて食べていく手段なのだから敏感になるのも当たり前か。


 ◇


 その後四匹ほど狩った所で疲労のピークに達し町に戻ってきた。


 リデルの家経由で一角猪を売った利益は一匹あたり皮銅貨三〇枚・肉銅貨五〇枚・角銅貨四〇枚・魔石銅貨三〇枚の合計で銅貨一五〇枚。五匹で銅貨七五〇枚。一人銅貨三七五枚だった。


 初日の狩りでは銅貨三五枚、二日目は銅貨一四〇枚(魔石で現物受け取り)、今日は三七五枚だ。驚異的な伸び率だ。


「なんか収入が多くてびっくりなんだけれど」

「普通は荷車を引いて行かないと獲物を持ち帰れないから、だいたい四,五人で狩りに行くからね。

 そうすると今日の倍ほど獲物を狩っても収入的には僕達よりも悪いくらいだから、これはモモのおかげだね」

「そっかぁ、モモえらいぞ、ありがとう」


 俺はモモの頭を撫でてあげる。気持ちよさそうに笑顔で目を閉じている。ご褒美に美味しいものを食べさせてあげよう。


 ◇


 グリモアの町は川の東岸に広がっていて、川の上流側に貴族の屋敷や高級な商店が集まり、下流側に行くほど平民が住み雑多な店が並んでいる。

 上流側と下流側を仕切るように中央通りが有り、通りは川を越えてその先まで伸びている。


 俺は下流側の平民街にある冒険者向けの宿に泊まっていた。

 最下層という程安くはないが正直ボロかった。それでも、布団で休めるだけ良い。いくら草を敷いても地面は固かった。それに、何かに襲われる心配が無いのも良かった。


 俺は荷物を下ろすと、道中で買った子供向けの服を麻袋から取り出す。

 新品の服は思ったより高くて、お古の服を買う事にした。麻袋と併せて銅貨五〇枚だ。


 お古だけれど見た目はモモによく似合うと思う。

 ワンピース型の服で背中のリボンがポイントだ。麦色をベースに裾の部分に若草色の草原を表すような装飾が施されている。植物系精霊のモモにぴったりだ。


「よし、モモこちらへ来なさい。今日のご褒美だ」


 俺はベッドの上で向かいに座ったモモの服を新しく仕立て直した服と交換した。

 モモはまるで何処かのお嬢様の様に可愛くなった。俺はもう子煩悩とも言える状態に達していたが良いじゃ無いか親バカ万歳。

 モモもくるくると回ってご機嫌だ。

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