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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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進展そして転移魔法・後

 リゼットには定期的に転移魔法について教えてもらっている。

 そして何処に問題があったのか、仮説を立ててはそれを裏付ける為の資料を探し、駄目なら次の仮説を立てる。それを繰り返している。

 発明王は言った、失敗した訳では無い、これを誤りだと言ってはいけない、学んだのだと。

 良い言葉じゃ無いか、俺も前向きになろう。


『彼の本を何冊か読みましたが、素晴らしい知識と見解をお持ちの方です』


 たまたま講師の名前を聞かれたので答えたところ、リゼットも知っている人物だったようだ。


『私の転送魔法も、彼の論文が無ければ完成しなかったと思います』


 転送魔法は物質を異なる場所に送る魔法。そして召喚魔法の一つ、霊体召喚魔法と合わせる事で、転移魔法を完成させたのがリゼットだ――正確には問題が残っているが。

 古代魔法と召喚魔法の両方に精通し、なおかつ適性が無ければ理論が分かっても使う事が出来ない。リゼットの類い希なる才能が生み出した魔法とも言えた。


 この世界には転移魔法陣がある。しかし、それを魔法で実現させた人はここ一〇〇年ほどいないようだ。

 一〇〇年前に転移魔法を使えると言った魔術師は、数ヶ月としないうちに謎の死を遂げていた。その魔法の脅威を恐れた者による暗殺だと言われている。

 それ以来、仮に使えたとしても表だって口にする魔術師がいないだけで、使える人間が皆無だった訳では無いようだ。


 その暗殺された魔術師は、行った事も無い所にさえ転移が出来たし、他人をも転移したそうだ。

 そういう意味ではリゼットの使う転移魔法とは異なる。

 初めはリゼットも他人を転移出来ると考えていたが、それは誤りだった。情報が交錯し、仮説に影響を与えたらしい。


 ちなみに再現出来ない転移魔法陣などの魔法具をアーティファクトと呼んでいる。


『あの時、念波転送石を使う事でアキトと意識が繋がっていなければ、きっと魔法は失敗して何も起こらなかったはずです』


 リゼットが仮説の中で読み切れなかったのはここだ。

 魔法を使う時、魔法陣が意識下に形成される。そして、念波転送石は意識を繋ぐ。

 元の世界にいた俺は知らぬ間にリゼットの使う魔法を共有し、俺自身が転移魔法を使いこの世界に飛んできた。


 この場合、残る疑問は魔力の無い世界でどうして魔法が使えたのかだ。考えられるのはリゼットの魔力を共有したという所か。


 俺もリゼットも将来的には、今いる世界で生きていきたいと思っている。

 でもその前に元の世界でやらなければいけない事も残っていた。

 心配を掛けた家族への謝罪、この世界で生きていく事を親に理解してもらう為の説得、友達にも突然音信不通になった事も謝らないとな。

 後はまぁ、お叱りを受ける必要がある。好きなだけ怒ってもらおう。

 念波転送石を通じて弟とは話せるけど、やっぱり直接会わないとな。

 これらを全て済ませないと、ケジメが付かない。


 あれ、念波転送石は魔力を動力源としているけれど、元の世界にある念波転送石の魔力は何故切れない?


「リゼット、手元にある念波転送石の魔力は十分か?」

『少し減っているようですが、まだしばらくは問題ありません』

「念波転送石は二つで一組だ。片方に魔力を充填すればもう片方も連動するのかもしれない」

『そうですね、どうして気が付かなかったのでしょう』


 むしろ当たり前すぎて気が付かない事もある。


「リゼット、しばらく念波転送石を眺めていてくれ」

『はい』


 俺は念波転送石に魔力を充填する。少し薄くなっていた青みが鮮やかになった。


『十分に魔力が満たされたようです』

「今の状態で魔力消費の少ない魔法を使ってみてくれ」

『え? はい、分かりました』


 念波転送石は、エネルギーも伝達するんじゃないだろうか。少なくてもその動作の為の魔力は共有していると考えて間違いない。


『駄目ですね』


 あれ、流石に考えが甘かったか。

 と言うか、リゼットは念波転送石から魔力を吸収する事が出来ないか。そう言えば、元の世界にいた時は俺も魔力吸収とか出来なかったし、それでも転移魔法は発動した。

 ならば、もう一つ別の方法が残っている。


「それじゃ、俺が今からリゼットに魔力を送り混んでみる、何か変化を感じたらもう一度魔法を試してくれ」

『えっ、魔力をですか……はい、分かりました』


 俺は念波転送石が繋ぐリゼットの意識にめがけて魔力を送り込む。対象は明確だ、普段モモに魔力を送り込んでいる時と変わらない。


『……あ。嘘……魔法が、魔法が使えました!

 アキトさん、魔法が使えます!』

「でかした、リゼット!」


 これで俺が魔力の無い世界で転移魔法を使えた訳が分かった。

 こっちの世界から送り込む事は出来る。それを元の世界にいた俺がどうやって受け取ったのかは確証を得られないが、おそらく魔力吸収の原理と同じだろう。リゼットが転移魔法を使った事で、魔力の空っぽ状態だった俺が魔力を引き込んだと考えられる。というか、それ以外には思い付かない。


「これでリゼットはいつでも戻ってこられるし、今の世界に行く事も自由だ」

『アキトさん……』


 リゼットの感情が意識として伝わってくる。伝えようと意識しないと伝わらないはずだが、誰にでも気持ちが溢れ出る事はあるよな。


「ただ、実際に使うのは待ってくれ。

 戻るならリゼットの知っている世界だから、俺みたいに変な場所へ転移する事は無いだろうけれど、念を入れて計画を立てよう。

 それに突然戻っても、色々問題があるかもしれない。俺からリゼットの別邸にいるロドリゲス執事長に連絡を取るから、それから準備をしよう」

『はい……でも私だ――』

「少し時期がずれるだけだ。今日の事で俺もそっちの世界で魔力を獲る方法に見当が付いた」


 最初の転移と同じように、念波転送石通じて吸収すれば良いのだ。

 後は魔封印を解呪して、教わった魔法を使えば元の世界に帰る事が出来る。適正の問題はあるが、俺は魔力の流れを追い魔法陣を直視出来るのだから大きな問題は無いと思える。


 道は出来た、後はやるだけだ。俺は帰れる!


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