表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
104/225

鍛錬棟

 登校五日目。

 その後は特にトラブルも発生する事無く、週末を迎えた。


 いま来ているのは王都図書館と同じように別棟となっている競技棟だ。

 ここは施設の使用料が有料かつ利用制限があるので、人が少ない。

 魔法実技と戦闘実技の両方に使える競技室があり、広さも大小の二種類がある。

 ただ、大競技室の方は一〇人以上での利用となっている為、四人で利用する場合は相部屋になる可能性があった。


 初めてということもあり、小競技室の利用申請を行う。

 提出する認証カードに驚きを示されたけれど、特に何かを言われることもなく部屋番号を案内された。


 小競技室は二〇メートル四方の広さがあった。

 魔法だけなら別の専用室もあったけれど、レティだけ別室というのも可哀想なので最初くらいは一緒にする。


 部屋の壁には魔法障壁(マジック・シールド)の魔道具が使われていて、それを発動するのには魔石が必要だった。

 部屋の使用者は受付で必要なだけ魔石を購入する必要があったけれど、俺達は国王陛下のお財布から出るので無料で利用出来る。

 なんか、しっかりと施設を使いこなすなら魔封印解呪の魔法具より価値がある気がしてきた。


「それじゃ、ルイーゼとマリオンでいつものように。

 俺はレティに近接戦の鍛錬を行う」

「はい」

「わかったわ」

「よろしくお願いします」


「モモ、いつもの装備を頼む」


 なかなか姿を見せられないモモも、この個室なら自由でいられる。

 それはやはり嬉しい事なのか、装備を出してくれた後は部屋の中を駆けまわっていた。


 完全実戦装備。

 武器も実戦仕様のものだ。


 もう木製の武器では何も出来なくなってきていた。直ぐ壊れてしまうのだ。

 あまりにも現実離れした武器で鍛錬を続けるのにも疑問が出てきたので、安物だが武器は鉄製の実物を使うことにした。惜しいが刃は丸めてある。


 とは言え事故で直撃があると危険だ。

 熱くならず、冷静に、型を辿るように。初めはゆっくりで良い、攻撃は寸止めで行う。

 ただ、普通に寸止めは難しい。慣性の付いた武器の勢いを止めるには膨大な力が必要だ。


 初心に返って基本の素振りから始め、意図した点で刃を止められるまで練習する。

 それが出来る様になったら、次は変動するポイントに合わせて止める練習だ。

 地味だが、これがクリア出来ないと模擬戦までは進めない。


 軽い怪我なら俺が治せるけれど、大怪我は女神アルテア様の助けが必要かもしれない。

 でも、自傷とまでは言わないが、自分達で傷つけ合った怪我まで治してもらうと言うのはなんとなく抵抗がある。

 女神アルテア様の御心まではわからないのだから、調子に乗っては駄目だろう。


 レティも装備品の見直しを行った。

 今まではクロイドと同じようにローブを着ていたが、これを以前のルイーゼと同じ用に、ローブを革で補強した物に変えている。


 この世界では魔術師がローブを着て杖を持たなければ成り立たない――ということは無い。

 どんな重装備をしていても、杖じゃ無く代わりに剣を持っていても、魔法を使うことは出来る。


 ただ、魔術師は知識欲が高いのか魔法の鍛錬と理論の追求に時間を割くため、体力作りにまで時間が割けないだけだ。

 いくら革の軽装と言っても防具だけで五キロは増えるし、盾に武器を持てば更に三キロは増えて八キロ位になるだろう。普段から慣れていなければ防具を着るのは厳しい。

 それに、魔法に集中しながら動き回る敵を視認し続けるのも結構な労力だ、重い装備では自由もきかない。


 結局選択される装備は、街着とは言わないまでも普通の旅装の様な物になる。

 女性はローブを着ることが多いけれど、男性は今のところローブを着ている人を見たことが無い。


 武器は剣でも杖でも何でもいい。もちろん素手でも良い。

 剣は素人が使えば自身を傷つけるし、鉄製の物が多いのでやはり重い。魔法具に加工する際も魔法陣の転写が難しく、高価になる。


 持つのであれば、自ずと杖やロッドといったものに収まっていくことが多いようだ。

 素材は木をベースとして、魔法具になる部分が銀製。銀は魔力の通りが良い為、魔法陣を転写しやすいのだろう。


 もちろん魔法を唱えるのに魔法具は必須ではない。

 だからレティも普段は魔法具を使わないが、それでも一つは持っていた。

 魔封印を解呪した時に初めて買ってもらったらしく、初級魔法の使用出来る魔法具だ。

 使える魔法は水弾(ウォーター・ブリット)


 魔法具は内包された魔法陣を意識下に読み取ることができる。その結果、魔法陣をイメージすることなく魔法を具現化できた。

 無詠唱でもない限り、呪文を唱えるより早く発動できる為、ベテランでも魔法具を持ち歩くのが普通だ。

 難点は使用する魔法に合わせて魔法具を変えるか、複数の魔法陣を内包した魔法具を使う必要がある点だ。

 単純に魔法具は高価だから持たないと言うこともあるし、魔法具に慣れてしまうと、素の状態で意識下に魔法陣を構築することが苦手になる人もいた。


 魔法実技として魔法を使用するならローブで全く問題ない。

 でもレティは冒険者になった。

 だから幾多の敵が現れる状況下では防具だけでなく、身を守れる技術も必要になる。

 今までのようにお客様扱いでリデルの守を受けていた時とは状況が変わった。


 レティは右手に杖、左手に木製の盾を持ち、革製のローブを着ている。

 既に構えている状態でも辛そうだ。

 流石に体力作りから始める必要がありそうだ。


 最初はルイーゼにやったことと同じ、ただひたすら防御の練習を行う。

 俺が剣を振り、レティがそれを盾で防ぐ、時に躱す。

 これをレティの動ける限界の速度で続ける。


 ルイーゼは最初、三分ほどで腕が上がらなくなり、五分でギブアップした。

 レティは二分と持たない。すぐに息が上がり、腕も上がらなくなる。

 どうにも動けなくなったところで休憩を入れた。


「すみません、全然動けなくて」

「構わないさ。はじめから出来るようならこっちがびっくりする。

 きついと思うけれど、まずは一〇分間動けるようになるまで続ける。

 大体一週間くらいで体が慣れだして、二,三週間くらい掛けて徐々に伸ばしていく予定だ」

「わかりました、よろしくお願いします」


 ◇


 体を動かした後は魔法の鍛錬だ。

 これまでの鍛錬で、レティの魔力制御には淀みが少なくなってきた。

 それに合わせて魔力の発動速度、威力、飛距離、消費効率が上がっている。

 最終的にはスムーズに魔力制御が行えるようになるまで続ける予定だが、このまま続けると初級魔法でも十分実用的な攻撃力を出せそうだ。


 同時に俺はレティの魔法が具現化するまでの魔力の流れを覚え、自身でそれを再現する鍛錬だ。

 一ヶ月前より多少は形になってきたが、それでも魔力を具現化するには至らない。全身全霊を掛けて魔力を制御しても霧散してしまう。

 魔封印の呪いはどんなに頑張っても突破出来ないのかもしれない。

 でも、前よりは長く状態を維持出来るようになってきたのだから進展はある。もうしばらく悪足掻きを続けてみる予定だ。


 そう言えばエルフの歌姫ミーティアに精霊魔法の原理を聞いた時、人の言う精霊魔法とは精霊の力を擬似的に再現しているだけと言っていた。擬似的とは言っても、精霊の力を借りているので精霊魔法と呼んでいるらしいが。


 つまり、魔法の具現化とは精霊との交信ということだろうか。もしかしたら精霊と交信出来るなら魔封印の呪いを回避出来るんじゃないか。


 あれ?


 それって、モモと話せるなら出来ても良くないか。モモは精霊だぞ。

 あっ――モモは俺のお願いを聞いて魔法を使っているじゃないか。あの魔法の鞄がそもそも魔法だろ。


 だから魔術師が使う魔法鞄より、モモが使う魔法鞄の方が性能が良いのか。

 そりゃ擬似的に力を借りて再現しているより、オリジナルの方が良くて当たり前だよな。

 今更気付く新事実。魔法理論ではまだ話に出ていないぞ。


 魔封印の呪いを回避して魔法を使うというのは、精霊に直接魔法の行使をお願いすると言うことだ。

 しかし、その方法は精霊魔法でしか使えない。

 転移魔法は古代魔法に分類されるから精霊は関係ないのだ。つまり、転移魔法は自力で使えるようになる必要がある。


 しかし、精霊魔法と古代魔法じゃずいぶんと概念が違うのに、そのどっちにも魔封印の呪いが効果を及ぼしているということは、本当に基本的なところを抑えているんだな。


「アキトさん?」

「あ、悪い。なんか色々と考えていた。

 そろそろ時間だな、お昼をとって午後の講義に出よう」


 取り敢えずお腹が空いては考えも進まない。

 考えを確認するためにも、後で講師に話を聞いてみよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第一部一章は面白かったです。 リゼットのところに早くいかなきゃいけないはずなのにずいぶんゆっくりしてるけど大丈夫なのか、という思いは常にありましたが、少しづつ仲間が増えて試行錯誤を重ねなが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ