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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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慌ただしくなってきた

 登校二日目。

 正門をくぐったところで俺達四人を待っていたのは、生徒会の面々だった。


「はじめまして、みなさん。

 私はウィンドベル家のマリアベル・ロマンチェスタ。

 生徒会長を務めています。以後お見知り置きを」


 金髪縦髪ツインロール?!

 数が増えるごとに攻撃力が上がっていくというあれか!


「はじめまして、アキトです。

 今期から王都学園で講義を受けさせて頂いています」

「マリアベル・ロマンチェスタ様。

 はじめまして、アルディス家のレティシア・ブラウディです」


 そっか、貴族様だったか。

 貴族様のわりには俺やレティを見て、忌避感を見せないな。

 後ろに控えている生徒会役員と思える人達の反応はまちまちだが。


「そちらのお二人は?」


 ルイーゼとマリオンの事だろう。

 俺がどう答えるか思案したところで、生徒会長の後ろに控えていた男性が生徒会長に耳打ちする。

 その後、一瞬だけ厳しい目をした生徒会長だが、何を感じたのかは分からない。


「実はお名前は知っておりますの、時の人ですからね。

 ただ、お二人が奴隷とは思いませんでしたわ」


 まぁ、待ち伏せしているくらいだから名前くらいは知っているのだろう。

 あくまでも挨拶として名乗っているだけで。

 時の人というのはなんだ、昨日の実技成績の件だろうか。


「アキトさん。

 今日は挨拶と、お顔を拝見させて頂きに来ましたの。

 少し騒がしくなるかと思いますが、お困りでしたらご相談ください。

 学園の平穏の為に、出来るだけ力になりましょう」

「お気遣いありがとうございます。

 出来るだけお手を煩わせないようにしたいと思います」

「では、失礼しますわ」


 あいさつ自体は終始にこやかに終わったけれど、その内容には聞き逃せない事がいくつかあった。


 一つはわざわざ顔合わせに来た理由。

 一つは少し騒がしくなるという未来予告。

 一つは学園の平穏。


 要約すると、目立つ生徒が入ってきたので、これから色々トラブルが始まりそうだ。王都学園の平穏を脅かす存在には早めに釘を刺しておきましょう。


 といった感じだろうか。


 さてどうしたものか。

 理論にしろ実技にしろ、全力で挑んだ方が力は付くだろう。

 ただ、力と同時に敵も出来るようでは確かに平穏なとは言えないな。


 ちょっと二人には加減を覚えて貰う必要があったか。

 まさか二人がトップレベルになるほどとは思わなかったからなぁ。

 そう言えばウォーレンも物足りないとは言っていたな。

 確かに実技は物足りないかもしれない。


 この際、実技講習は受けるのを止めるか?

 朝の鍛錬をする時間がとれなくなったから、競技棟を借りてそこで鍛錬をすれば良いか。


 避けられない試験はあるけれど、それは仕方がない。

 一度目立ってしまったのだから諦めよう。

 その代わり普段はひっそりとしていればいい。


 俺は方針を三人に伝える。

 まぁ、リデルがいない今となっては異論を唱える人はいないんだが。

 まるで独裁政治のようだ。

 なんかこのままだと俺が悪の道に落ちてもみんな付いてきそうなところが怖い。


 と言う事で俺達は、午前の講義時間二枠を自己鍛錬に使い、午後は理論科目を受けることにした。


 ◇


 午前中の鍛錬を終えた俺達は、昼食を取った後、テラスの先にある芝生に座って微睡(まどろ)んでいた。

 季節は夏も終わり、秋の入りというには少し早いくらい。

 弱くなった日差しに少し冷たくなってきた風が季節の変わりを意識させる。


 レティは午前中の鍛錬が効いたのか、食後はお昼寝モードに入っていた。

 本人は何とか堪えようとしているが、このままでは午後の講義に耐えられないだろう。


「レティ、誰も見ていないし、寄り掛かって良いからそのまま休みな」

「えっ……でも」

「講義中に眠たくなったら困るぞ」

「そ、それでは失礼します!」


 そう来るとは思わなかった。

 なんの気合を入れたのかと思えば、レティが頭を太腿の上に乗せてきた。

 健全男子としてはとても嬉しいのだが、紳士としては強烈な攻撃を食らっている状態で意識を逸らすしか方法がない。


 ルイーゼとマリオンもじっとこちらを見ていて目を離さない。

 俺が視線を外そうと、顔を背けようと、見つめられている気がする。。


「好きにしてくれ」


 俺は心身沈静(リラクセイション)を使う。

 リデルに教えてもらい使えるようになったが、具現化出来ないので、自分にしか効果が無い。

 でもそれが今は役に立つ。


 ルイーゼは隣に座り、肩に頭を乗せてくる。

 マリオンは背後に座り背中を合わせてくる。

 魔法の効果か、俺の心も落ち着いている。


 人口三〇万人が住む王都の中央付近にあるとは思えない長閑な景色を見ながら、今日の午後はこのままみんなで昼寝でもしていたいなと思っていた時、数人が近づいてくると魔力感知で分かった。


「ルイーゼさん、マリオンさん。

 はじめまして。

 僕はテリウス・アラガン。こう見えてもウーベルト侯爵家の嫡男だ。

 良かったら一緒に向こうで話さないかい?」


 背後には五人ほど綺麗な女性を引き連れて現れた男性は、腰までの金髪を手で払いながら大げさなボディランゲージ付きで話しかけてきた。

 その仕草はどうかと思うが、正直すごい美形だ。

 リデルには敵わないまでも、十分に女性を惹きつけるだけの魅力があるだろう。

 事実、それに惹かれたと思わしき女性が五人だ。


 ただなんか、雰囲気が既に気に入らない。

 

 連れている女性は見た感じ、みんな貴族らしい雰囲気を醸し出していた。

 制服ではそれほど個性を出しきれないかもしれないが、身につけているアクセサリーや身だしなみ、ちょっとした仕草にそういったところが見え隠れしている。

 テリウスの取り巻きなのだろうけれど、リデルを紹介してあげた方が良いだろうか。


 ルイーゼとマリオンはテリウスに全く興味を示さない。

 いい男ならリデルで見慣れているからな。

 しかもリデルは中身までいい男だ。


「ちょっとあなた、テリウス様が話しかけているのに無視するのは不敬ですわよ!」

「構わないよ、ちょうど休んでいる所に押し掛けたからね」

「ですが……」

「はい、この話は終わり。

 ルイーゼさん、マリオンさん、実は大切な話があるんだ。

 二人が奴隷だなんって信じられない。

 だけれど、これからのことは何も心配しなくて良いよ。

 二人のことは僕が買い取らせて貰う」


 テリウスは一方的にそう言うと、今一度俺の方を向いて口を開く。


「と言うわけで、君。

 僕はその黒い髪を見ていると気分が悪くなってくるんだよね。

 お金を出すから出来れば姿を消してくれないか――」


 バサッ!


 はやっ!

 ルイーゼとマリオンが一瞬で立ち上がるとテリウスとの間に立ち、殺気を放つ。


 二人の勢いにテリウスと取り巻きはタジタジだ。

 特に不敬と言ってきた女の子は腰を抜かさんばかりで、テリウスにしがみついていた。


「い、一緒に来てくれるかい?」


 テリウスは笑顔をひきつらせながらも、なんとかナンパ師のプライドが体面を保つ。


 そんなピリピリとした空気の中、レティは全く気づかずに寝続けていた。

 意外と豪胆なのかもしれない。


 休憩中に乱入してきた優男のテリウスは学園内では俺でも知っているくらいには有名だった。

 所属は騎士科で戦闘実技は上位一〇名から漏れる事無く、有力貴族の嫡男で見た目も良く女性にも優しい。


 持てる要素は全部持っていた――と言うかどれ一つ俺が持っていない物だな。

 魔法科実技は出禁で平民。

 見た目は悪くないはずだが飛び抜けて良いという事も無い。

 女性を魔物狩りに連れて行く為に鬼の鍛錬中で、優しくない。


 と言う事で、世界の違う人とは絡む事が無いと思っていたのだが。

 テリウスはうちのお姫様が気に入ったらしい。


 ルイーゼは出会った頃より、さらに綺麗になっていた。

 会って半年、幼さを残していた彼女の面影はもう無く、顔立ちもスッキリとしてきて可憐さに磨きが掛かっている。

 初めはショートボブだった栗色の髪も少し伸びて大人っぽさが出て来た。

 深い碧色の目は落ち着いた知性を感じさせ、その佇まいと雰囲気も相まって清楚系美少女と言って差し支えが無い。


 マリオンも美人になっている。

 いや、マリオンは初めから美人だったな。

 どちらかと言えば妖艶さが出て来たと言うべきか。

 一瞬、黒かと思うほどの深紅の髪を持つが、日の光を浴びて赤く輝く様はまるで魔法のように見る人を魅了する。

 切れ長で、髪と同じ色をした深紅の眼で見据えられると、慣れた俺でも目を逸らせず息をする事も忘れそうになった。


 二人とも姿勢が良く、鍛え上げられた体幹のおかげか立っていても微動だにしない。

 人が動かないってのは意外と目に付く物だな。

 以前、リデルとルイーゼが一緒にいると彫刻か絵画のようだと思ったが、ルイーゼとマリオンが背後に二人で並んでいると守護神のような頼もしさを感じる。


≪えええ~≫


 おっといけない。質問に答えないとな。


「お断りします」

「ちょっと!

 テリウス様がその二人を買い取るって言っているのよ、それを断るなんて不敬ですわよ!」


 不敬お姉さんは既に立ち直っていたようだ。

 テリウスがその女性を制して再び語りかけてくる。


「どうしてだい。平民の君が奴隷を二人も使役しているのは大変だろう。

 僕はそれを助けて上げようと思っているんだよ。

 少しは僕の厚意を分かって欲しいな」

「ご心配には及びません。生活には困っていませんので」


 貴族に気に入られるのは良い事なのかもしれないが、二人を装飾品のコレクションみたいに見ている男は願い下げだ。

 ここは保護者として頑として断る。


「まったく。平民ごときで貴族である僕の願いを断るとかどうかしている。

 なんなら力尽くで奪い取っても良いんだよ」


 力尽くって、そのまま言葉通り腕力勝負だというなら分があるけれど、貴族的な力とか言われると困るぞ。


「テリウス、その辺にしておけ」

「ライナス?!」


 俺が対応に思案していたところで、割って入ってきたのはルミナスの迷宮で助けたライナス・ロードゼルだ。

 そう言えば王都学園で会えるのを楽しみにしているとか言っていたな。

 言った相手はリデルだったけれど。


「君には関係の無い事だ」

「それが、俺は彼に恩があってね。

 困っているなら助けるのは恩返しみたいな物だ」

「……まぁいい、機会はいくらでもあるからね。

 ルイーゼさん、マリオンさん、また会おう」


 テリウスが取り巻きの女性を引き連れて行く。

 踵を返すついでとばかりに取り巻きの綺麗どころが、ルイーゼやマリオンに嫉妬とも怒りとも取れる視線を投げていくが、二人とも全く意に介していない。

 まぁ、あんなのより魔物に睨まれる方がよっぽど怖いな。


「助かりました、ライナスさん」

「構わない、恩があるのは本当の事だ。

 リデルに会えなかったのは残念だが、彼にとっては良かったのだろう」

「リデルは騎士団の方で元気にやっているようです」

「彼の実力なら、直ぐにのし上がっていくだろうな。

 テリウスには気をつけた方が良い。

 欲しければ汚い手を使ってでもというタイプだ」

「わかった。忠告は心にとめておくよ」


 うーん、俺も貴族だったらこんな事も無かったのか……いや、あのタイプは結局、理由は何でも良いんだろう。

 向こうが寄ってこなければ学園内で会う事はそんなに無いはずなんだが。


「それじゃ、年末の園外演習を楽しみにしている」

「余り乗り気じゃ無いけれどな」

「まぁ、半分は強制だ、諦めろ」


 ライナスはそう言い残して去って行く。

 園外演習とは成績上位者プラス講師推薦枠のメンバーで行う実戦講習だ。

 場所はルミナスの迷宮で、主にランクFの魔物を相手に行われる。


 ライナスが以前、ルミナスの迷宮にいたのは園外演習に向けての練習だった。

 貴族のご令息ご令嬢に無茶をさせて良いのかと思ったが、成績上位者はそもそも騎士団や魔術師として活躍する事を目指しているので、実績作りとしては丁度良いらしい。

 そういった事に興味が無い貴族は、そもそも成績もそこまで良くない。


 俺は魔法実技に出られないので、ルイーゼとマリオンが対象になる。

 二人ならランクFの魔物に後れを取る事は無いが、二人にさせる事には心配があった。

 さっきのテリウスじゃないが、他の学生にもルイーゼとマリオンは人気がある。

 俺の目の届かないところで二人にもしもの事があったら後悔しきれない。


 となると、推薦枠か……今のところ宛てが無いな。

 まぁ、推薦枠とか目立つ事はしたくないが、いざとなったら講師をあたってみよう。


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