表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
101/225

成績発表・後

 午後も魔法実技の講義を受けるつもりだったが、しばらく出入り禁止となってしまった為、時間が空いた。

 他の三人は選択した講義を受けに行っている。だから今は一人だ。


 丁度良いので、この時間を使って王都図書館に行くことにする。

 王都図書館は王都学園の中にある。

 一般にも開放されているので中とは言っても別棟になるが。


 王都学園の敷地は緑豊かで小川や池などもあり、ちょっとした木立まであった。

 校舎を離れれば閑静な公園といった趣で、その中をレンガの通りが走っている。


 その一本を進み、程なくして王都図書館に辿り着く。

 王都図書館は石造の建物で二階建てになっていた。

 図書館を囲うように石柱のモニュメントが立ち並ぶ姿は、さながらパルテノン神殿といったところか。

 正面入口には必要以上に大きな扉が設置され、それなりに多くの人が出入りしていた。


「リゼット、聞こえるか」


 俺は念波転送石越しに話し掛ける。

 時間的には午後の授業が始まっているだろう。だから手短に済ませる予定だ。


『こんにちはアキト。聞こえています』

「予定より早いけれど、王都図書館に来たんだ」

『それでは……ヴェルディの著書を集めて頂けませんか』

「分かった、また連絡する」


 さて、窓口で探すところまで手伝ってくれると助かるんだが。


「すいません、探している本があるのですが、名前が分かれば場所を教えてもらえますか?」


 俺は、いくつかある窓口で、丁度開いているカウンターに着く。

 受付の男性は初老の紳士然とした感じで、少し白いものが混じり始めた髪を短く刈り上げていた。


「私の方で案内は出来ませんが、反対側にいる案内係を利用されるといいでしょう。

 有料ですが、銅貨一〇枚程度ですから、その方が早いと思います」

「ありがとう、そうさせてもらうよ」


 反対側には一〇人位の老若男女がテーブルを囲って座っている。

 俺はそこに向かうとヴェルディの書籍の場所が分かる人がいるか尋ねた。


「私がご案内します」


 一人の女の子が軽く手を上げ、席を立つ。

 他にいるわけでもないので、その女の子にお願いすることにした。

 歳は二〇代前半くらいか、濃い緑色の髪を三つ編みにし後ろではなく前に垂らした、学生なら委員長といった感じの女性だった。


「エマと申します。よろしくお願いします」


 名前は委員長では無いらしい。


「アキトだ、よろしく」

「最初に確認させて頂きます。

 ヴェルディの著書は高いレベルの閲覧制限が掛かっておりますが、認識プレートを拝見させて頂いても宜しいですか」


 俺は入園時に受け取った認識プレートを差し出す。

 正直なところ閲覧制限とかいう物があるとは思っていなかったので、権限が十分かどうか分からない。


「?!」


 驚いたような感心したような……駄目なんだろうか。


「失礼しました。白金プレートは初めて拝見しますが、権限については問題ありませんので、ご案内させて頂きます。

 前金になりますが、よろしいですか」


 問題ないので、銅貨一〇枚を支払う。


「ヴェルディの本を探す方は珍しいですね。

 王立図書館には三冊あります。

 記憶で申し訳ありませんが、確か全部で五冊の本を書いていたと思います。

 残りの二冊は個人の所有物となっている可能性が高いです」


 エマはそう言うと、迷う素振りも見せずに二階へ上がっていく。

 メモもなく覚えているのか、凄いな。

 

「まずはこれですね。

 こちらに掛けていてください。残りの二冊を持ってきます」


 さくさく進む、実に助かる。

 

 俺は最初の一冊を手に取る。

 この世界に紙がないわけじゃない、高価なだけだ。この本も紙が使われている。ただ、一枚一枚はすごく厚く、本自体も二キロ近くありそうだ。

 これが原本という事はないだろうが、それでもずいぶんと古く見えた。


「ヴェルディはおよそ二〇〇年前に王都に生まれました。

 確かこの本は五〇歳の頃に書かれていますので、内容は一五〇年位前の物ですね」


 俺が本を手に取り様子を伺っていると、エマが教えてくれた。

 良い子だな。


「色々助かるよ」

「終わりましたら本はこのまま、帰り際に私に声を掛けて頂ければ十分です」

「分かった、ありがとう。必要になったらまた頼むよ」

「はい、では失礼します」


 さて、三時間位はあるな。出来るだけ調べておくか。


「リゼット、本は三冊あった。題はそれぞれ――」


 ◇


 リゼットと二人、三冊の本の内容を確認するのに四時間近く過ぎていた。

 今日分かった事を元にリゼットがある程度の仮説を立て、俺に分かりやすく説明するのに時間を取ったというべきか。

 任せっぱなしも悪いが、続きは後日にしてもらう。


 王都図書館を出ると日がだいぶ傾いていた。

 もしかしたら三人を待たせているかもしれないな。

 気持ち小走りで中央棟に向かう。


 中央棟に入ると案の定三人が待っていた。

 そしてローレンも一緒に待っていてくれたようだ。


 何やら掲示板の周りは昼間以上にざわついているが、取り敢えず遅れたお詫びをする。


「すまない、遅れたな」

「アキト様、あの、戦闘実技で一位になれましたら、私もお時間を頂けますか?」


 ん、マリオンとの約束と同じか。別に問題ないな。

 というか一位とか関係なく、いつでも構わないが。


「もちろん問題ない」

「それでは、日曜日にお願いしたいと思います」


 ん?


 少し戸惑い気味の俺に、レティが掲示板の一点を指し示す。

 そこには普通科戦闘実技一位ルイーゼ、総合戦闘実技一二位と示されていた。

 二位がマリオンで、順位が一つ下げられている。

 名前と順位はプレートになっていて、入れ替え出来るんだな。


 いや、そうじゃなくて。

 今度はルイーゼが一位かよ!


「……わかった、とりあえず行きたいところがあったら考えておいてくれ」

「はい」


 ルイーゼがそれはもう最高の笑顔で答える。

 それはそれで、すごく嬉しい。


 だが、俺だけ掲示板に載ってないじゃないか。師匠としてどうなのだろうか。

 なんか、昇級試験で俺だけ負けるとか、魔法実技に出入り禁止食らうとか、いまいち格好の良いところを見せられないぞ。


 少し、男として凹んできた……。


 ◇


 夜、三人が寝静まってから、俺は一人リゼットとの話を思い出していた。


 ヴェルディは転移魔法を世に知らしめた人物だった。

 本には異世界に及ぶ転移については一切書かれていない。

 ただ、その内容を見るに、異世界であろうと場所や対象を正しく認識していれば異世界間の転移も可能と考えられた。


 そして、その本から推測出来るように俺とリゼットは実際に異世界間転移を行っている。

 この点においてヴェルディの考察は正しいと言える。


 ただ、ヴェルディの転移魔法とリゼットの転移魔法ではアプローチが異なっていた。

 ヴェルディの転移魔法は空間魔法を用いている。

 それに対してリゼットは空間魔法を実現出来ず、その派生である物質転送魔法を用いていた。しかし物質転送魔法では魂魄を運ぶ事が出来ず、肉体だけが転送されてしまう。それを補う為に霊体召喚魔法を同時に用いる事で、ヴェルディの転移魔法と同等の事を実現しようとした。


 ヴェルディの著書で分かった事がある。

 リゼットの転移魔法では魔法発動者本人しか転移出来ない。転移魔法は対象と場所を明確に認識する必要がある。しかし、他人の肉体ならまだしも魂魄までは明確に認識出来る物ではなかった。


 それでは俺とリゼットが入れ替わったのは何故か。

 俺は魔法が使えないし、元の世界にはそもそも魔力が無い。

 リゼットが転移出来たとしても、俺が転移出来た理由が不明だ。

 この矛盾に転移魔法を成功させる秘密があると考えられた。


 考えられる可能性が一つだけある。

 念波転送石によって俺とリゼットは意識が繋がっていた。だからリゼットは俺という対象を認識し転移魔法を発動する事が出来た。


 ヴェルディは念波転送石の存在を知らなかった、あるいは知っていても波長の合う人間に出会えず、試す事が出来なかったという可能性もあるな。


 いずれにしてもまだ色々と調べる事が多そうだ。

 ただ確実に前に進んでいる。気持ちの整理もしていこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ