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異世界は思ったよりも俺に優しい?  作者: 大川雅臣
第一部 第二章 王都編
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成績発表・前

 午前中の講義を終え、俺とレティは中央棟に向かっていた。

 ルイーゼとマリオンに合流し、昼食を取る為だ。

 中央棟に入ると直ぐに中央ホールがある。

 中央ホールは円形の形をしていて、直径およそ一〇〇メートル近くあった。等間隔で並ぶ石柱が天井を支える様は、さながら白い柱の森と言った感じだ。


 その壁際の一部に人集(ひとだか)りが出来ていた。


「何を見ているのでしょうか?」

「何か貼りだされているみたいだな。

 連絡事項なら見ておいた方がいいか」


 人集りに近づいていくと、連絡事項ではなく成績順位表だと分かった。

 早速、実技の結果が張り出されているようだ。


「早いな」

「えっと……実技は一日に二回、昼と放課後に、各科の上位一〇名の名前が張り出されるようです。

 理論は週に一回の試験があり、同じく各科の上位一〇名の名前が張り出されるとありますね」


 レティがパンフレットに目を通しながら教えてくれる。

 上位者の意識向上の為、上を目指す向上心を煽るため、まぁ、優越感を得るためとか自己顕示欲を煽る為とかもあるだろうが、こうした掲示板は何処の世界にもあるものだな。


 今、掲示されているのは実技の結果だけのようだ。

 その実技も魔法実技と戦闘実技に分かれているので四科分合計八枚のボードが用意されている。


 魔法実技ならレティが載っている可能性もあるか。


「あ」


 レティが声を漏らし、一箇所を指差す。

 その先にはレティの名前が載っていた、魔法科魔法実技五位、魔法実技総合一二位と記されていた。

 魔法実技は評価項目が五個あり、それぞれの総合と各評価別に別れていた。レティは総合で四二五点。トップは四八五点だ。


「レティは、飛距離と威力で一位じゃないか」

「あ、そうですね」


 発動速度で九位、精度で三位、連続発動で八位。飛距離は上位一〇名全員が一〇〇点だった。

 おそらく三〇メートル飛べば一〇〇点なのだろう。

 レティの射程はは五〇メートル程ある。

 試験の設定が三〇メートルというのは甘すぎる気もするが……とは言っても、俺はその三〇メートルすら届いてないな。


 発動速度と連続発動で順位が下がるのは、上に無詠唱を使う魔術師がいるからだろう。魔声門だけで見れば上位三名に入りそうな勢いだ。


 一覧には一人を除いて長々とした名前が続いている。殆どが家名や所属の門派の名前付きで、貴族を表している。

 これだけの名門の中で一人だけ家名すら無い名前は逆に目立っていた。


 タイラス……おそらく男性だろう。

 魔法実技では見掛なかったと思う。中級か上級の講義に出ていたのかもしれない。


 ?!


 最後の一枚が掲示されたところで、場が異常にどよめきく。


「あそこにマリオンさんの名前が」


 普通科戦闘実技の掲示板、その一番上にマリオンの名前が載っていた。

 普通科戦闘実技一位、総合戦闘実技一五位。それがマリオンの成績だ。


 ◇


 掲示板を見ているところでルイーゼとマリオンの魔力を感じた。

 これだけ人が多く魔力に乱れが多いのに、何故か二人は分かるものだな。

 俺は二人に声を掛け、食堂に向かう。


 食堂は中央棟の一、二、三階にあった。

 人数が多いため、複数に別れているのだろう。それでも食堂は混雑している。

 昼休みは二時間ある、時間をずらして混雑を避ける事も考えよう。

 一層のことお弁当持参でもいいのか。


 ちなみに上に昇るほど貴族率も上る感じだったので、一階で食事を摂ることにした。

 一階にはテラスは無いけれど、整備された芝生と日除けの傘を備えたテーブルが複数用意され、開放的でいい。むしろ季候の良い今は、上の室内よりこっちの方が良さそうだ。


「アキト様、食事をお持ちしますのでこちらでお待ちください。

 レティ様もこちらでお待ちください」

「それじゃ席をとっておく」 


 レティは仲間でもあるけれど、学園の中では貴族として対応することに決めていた。

 そして、ルイーゼとマリオンにも奴隷として対応してもらう。

 対外的な場ではきちんと身分に従って行動する事とは、リデルに強く言われている点だ。

 慣れるものではないが、決めた以上はルイーゼとマリオンにも奴隷として対応してもらう。俺がどう思おうと、外から見ればそれが正しい世界なのだから。 


 入園手続きの時まで忘れていたルイーゼとマリオンの奴隷解放も、その後の話し合い……というか、要望を受けて保留になっている。

 ルイーゼ曰く、まだ約束の内容が決められない。

 マリオン曰く、保護者がいないと学園にいられない。


 保護者についてはリデルが何とかしてくれると思うが、きっと二人の言いたいことは現状維持を望むということなのだろう。

 二人に不満が無いのであれば、俺が我慢すれば良いだけの話だ。


 二人が四人分の食事を持って来る。

 トレーに載せられた食事は所謂学食だ。味もまぁ、普通だ。タダなのだからこれ以上の贅沢もないだろう。


 ◇


「魔物より弱かったわ」


 マリオンはサラッという。

 戦闘実技についての感想を聞いていたところだ。


 戦闘実技は昇級試験と同じような形で五対五の集団戦を行い、その内容を評価されるらしい。

 相手は冒険者ギルドを経由して派遣され、実力的にはばらつきがあるもののランクEクラスの人材になる。


 マリオンはランクDになっているし、その後も一ヶ月近く、それこそ毎日のように鍛錬と魔物狩りを続けている。

 集団戦とはいえ、いきなり五人を相手にする事もないだろう、一対一を繰り返すならこの成績は納得がいく。

 ただ、二位との点差が一二五点もあるのは大きすぎないか。


「普通科ですから、戦闘実技の方は力を入れていないのでは?」


 まぁ、レティの言う通りかもしれない。

 普通科は教養の方に力を入れている感じはする。

 それでも上位一〇名に家名が無いのはマリオンだけだ、それだけに目立っていたが。


「ルイーゼは戦闘実技の講習を受けなかったのか?」

「私は一般教養の方を受けておりました」


 勉強熱心なルイーゼらしいな。


「ご褒美が欲しいわ」

「そうだな……服、アクセサリー、花――」

「時間が欲しいわ」


 時間か、そう言えばせっかく王都に来ているんだから、ゆっくり楽しみたい事もあるか。

 良く考えたら、奴隷だったとしてもきちんと週休を与えないといけないんじゃないか。三六五日休み無しとかどんだけブラックだよ。


 でも、学校の休みと同じ日を休みにすると、気晴らしの狩りにも出られないか。

 まぁ、狩りはどうにでもなるな。他に休みを振り分ければいい。


「分かった、それじゃ学校の休みになる土日は、ルイーゼもマリオンも自由行動でいい」


 不服らしい。


「私が欲しいのは、ア、キト、さまの時間だわ」


 なるほどそっちか。


「それじゃ今度の土曜はマリオンに合わせるよ」


 今度は満足そうだ。

 そう言えば二人で出掛けるのも長いことしていないな。この機会にゆっくりするか。

 一対一じゃないと話しにくいこともあるかもしれない、好きなだけ話を聞こう。


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