痣持ちの幼女
その夜、連絡通りマイケルが帰って来た。
玄関に続く大広間には、全ての使用人が道をつくるようにまっすぐ並んで立っている。
その中にはヴェントの姿もあった。
エルダもマリアも青やピンクで設えられた余所行きのドレスを纏って二人を迎えた。
もっともそれは祭祀服を纏っているマイケルのみに向けられたものだったのだが。
マイケルは言い放った。
「名はケヴィンだ。挨拶を」
「……ケヴィン……スクルド……です……」
それは蚊の鳴くような声だった。
無造作に伸ばされた黒の前髪は少女の顔を隠したが、エルダとマリアから向けられた嫌悪の視線は彼女を突き刺していた。
それは妾腹の子を蔑むと同時に、ボロ布一枚しか着ていない下賤の輩を見る貴族としての視線だった。
ケヴィンにはそれが解るのか、服の裾を握って放さない。
マイケルは二人の視線を咎めずに言った。
「今日からヴェルダンディの姓を名乗れ。お前はこの家の次期当主となるのだ」
無言で頷くケヴィンにたまらずエルダが口を開いた。
「随分と大きい子供ですこと。おいくつ?」
「き……九歳に……なります」
「お前には聞いていないわ!」
エルダに一喝され、ケヴィンは目をギュッと瞑って首を縮こまらせた。
エルダはその姿を見て、ケヴィンを鼻で笑った。
「こんな下町で生まれ育った汚らわしい子が……本当に我がヴェルダンディを統べる証を持っていると仰るの?」
「……そうだ。代々悪魔崇拝教の長として君臨してきた我が家。伝え継がれてきた祖先からの遺言により」
マイケルはケヴィンの服を捲り上げた。
露わになるケヴィンの背には、肩甲骨をなぞるように、帯状に薄青の痣が出来ていた。
ケヴィンは拳を握って震わせ、力を込めて目をギュッと閉じている。
「この翼痣のあるケヴィンを、我が後継者とする」
マイケル・ヴェルダンディ(45)
ヴェルダンディ家当主。悪魔崇拝バートラード教教主。
ケヴィン・スクルド[旧姓](9)
マイケルの隠し子。背中に〝翼痣〟を持つ。主人公。
主人公出てきました。