八
「次」
そう言って、南棟の音楽室へ向かいはじめる月。そこには、夜に弾くとほかの楽器がひとりでに鳴って合奏しはじめると言われるピアノがある。
「そういえば、階段の段数が違うっていうありがちな怪談もあるよな……」
音楽室のある四階へ階段を上がりながら、与羽がふとつぶやいた。
与羽の腕にしがみつく竜月の手に力がこもった。
「与羽っ! 余計なこと思い出さないでっ……!」
辰海の声は必要がないにもかかわらずひそめられている。
「数えてみるかい?」
「数えるー!」
口の端を上げて挑発するように問いかけた大斗に、陽気に手を上げて日向が答える。この二人と無表情な月はいつも通りだ。
与羽も平気そうに見えるが、よく見れば自分にしがみつく竜月の手を必要以上に強く握り返している。
「じゃあ、ここの階段にしよう」
そして大斗が無言で登りはじめた。後ろを行く与羽も数えたくないにもかかわらず、心の中で段数を数えてしまっている。
踊り場で折り返して、四階へ――。
「……八段足す八段で、十六段」
登りきったところで、「何段だった?」と大斗に促されて与羽が呟く。
「あたしもですぅ~……」「僕も」
竜月と辰海もうなずく。竜月の顔は色をなくしはじめている。
「私も十六ー!」
日向が言って月もうなずく。
「……おかしいな……。俺は、十五段だったんだけど――。って言いたいところだけど、俺も十六段だったな」
「よしっ! オッケーオッケー、問題なしですねっ!! 次行きましょう、次!」
大斗の言葉に一瞬身をこわばらせた与羽だが、何とかから元気で乗り切る。
「音楽室のピアノですね! 辰海なんか弾けるじゃろ」
から元気を維持しつつ辰海を振り返る与羽。そこには、調子の悪そうな白い顔をした辰海がいた。
「弾けるけど――」
「怖いの?」
大斗が挑発するように言う。
「だ、大丈夫です」
そして六人は音楽室へ入った。
折り畳み式の机やいすが脇に積み上げられて広々とした空間は、状況に応じて授業や合唱を行ったり、楽器を並べたりできる。
教室の後ろには、太鼓や木琴などパーカッション類が覆いをかけて並べてあった。
その奥の壁には古びた音楽年表や、著名な作曲家、指揮者の写真や肖像画が並べられている。暗闇で見ると、それだけでも恐怖感を与えるには十分だ。
ちなみに、雰囲気を出すためと目立たないようにするために教室や廊下の電気類は全くつけていない。窓から差し込む月あかりと、非常灯や火災報知機のランプがたよりだ。