七
* * *
「怪談その一。旧校舎の開かずの間」
夜十一時。与羽は板の打ち付けられた戸の前に立った。階段横、比較的近い間隔で二つ封鎖されたドアがある。
「私、これトイレだと思ってた!」
日向がハイテンションに言う。
「正解」
そうつぶやいて板に軽くこぶしを叩きつけた長身の少年は先代の生徒会副会長――九鬼大斗。「会長の後ろに常に鬼あり」と恐れられた強面と腕っ節の強さで有名な三年生の先輩だ。
大学受験を控える三年生には連絡しなかったにもかかわらず、今夜は帰りが遅くなると連絡した与羽の兄――先代生徒会長から情報が漏れてしまったらしい。
「新校舎ができた際に、水道代の関係とかで使えなくしたらしいね」
「あたし、ここで首つり自殺した女子学生がいるって噂聞いたことがありますぅ~……」
与羽にしがみついて震える少女が力ない声で言う。
「竜月ちゃん、怖かったら帰ってもいいんで? 誰か呼んで送ってもらうし」
「いいえっ! あたしは会長といますっ!」
与羽に心酔して生徒会執行部に入った一年生の少女――竜月は先ほどよりも強い口調で言った。しかし、その言葉と体は震えている。
「噂によると、戸の奥から縄の軋む音が聞こえるっていうけど……」
辰海の声で、あたりが静寂に包まれた。虫の鳴き声が響く。誰ともつかない呼吸音が耳につく。
「……なんも聞こえんな」
しばらくしてそうつぶやいた与羽の声は少しかすれていた。額に汗が浮かんでいるのは、蒸し暑さのためだけではないのかもしれない。
「そうだね」
一方、涼しげな顔をした大斗は、板の打ち付けられた戸の薄いところを選んで耳を付けた。
「何も聞こえないな」
「大丈夫、いない」
今まで黙っていた月も昼に生徒会室へ来た時と変わらない無表情だ。
今この場にいるのはこの六人。
二年生で依頼を受けた与羽と辰海。三年生で先代副会長の大斗。一年生の執行部員――竜月。
そして、幽霊調査という名目で肝試しに誘いに来た双子の月と日向。
ともに依頼を受け取った千斗とミサは、千斗の「めんどい」という一言で不参加となった。ミサも、「千斗が行かないなら」と断っている。