四
生徒会長――与羽の目配せで、辰海をはじめ生徒会室にいた人々が机の上を片付ける。
予備の折りたたみイスも出して、全員が机を囲んで座れるようにした。
本当は校内への持ち込みを禁止されているのだが、こっそり隠しているお菓子と紙コップに注がれた冷たいお茶で、客人をもてなす体勢に入る。もちろん、「お菓子の事は内緒な?」としっかり念を押したうえで。
「それで、春日さん。詳しい話を聞かせてもらってもええ?」
一息ついて、スナック菓子をひとかけらとりながら与羽が尋ねた。
「あ、日向で良いですよっ」
「私も月でいいです。ややこしいから」
「じゃあ、お言葉に甘えて――。日向ちゃん、月ちゃん、詳しい話を聞かせて欲しい」
双子の言葉に、与羽は言い換えた。
「ほら、月」
日向が月を小突く。
「私が説明するの?」
日向を見た月の長いまつ毛がわずかに揺れた。表情の変化は乏しいが、一応驚いたととってもいいのかもしれない。
「もちろん!」
一方の日向はにっこり笑って大きくうなずいた。
「……ちょっと待って。考えるから」
そう言ったきり、月はその姿勢のまま固まった。
その間、与羽と日向はお菓子をむさぼりながら待ち、辰海はメモ帳に何かを書きつけている。ミサはおとなしく月の言葉を待ち、千斗は再び模試の解答済み問題冊子を開いた。
「……おばけ」
やっとのことで、月はその単語を口にした。
「『おばけ』?」
与羽がおうむ返しに尋ねた。
「なに? 『出る』ってこと?」
「そう」
月がうなずく。
「どこに?」
「校門の近く」
「いつから?」
「先月くらい」
「おばけを見たの?」
「私は見てない」
「じゃあ、その情報は誰から聞いたん?」
「演劇部の先輩」
「月ちゃんは演劇部?」
「違う」
「…………」
短い問いを続けていた与羽が止まった。
「う~ん……」と眉間に小さなしわを寄せて何かを考えている。