三
「こんにちは!」
生徒会室の前まで全力疾走してきた少女は、少しでも風を通すために開け放たれた扉を行きすぎそうになりながらもそうあいさつした。
その片手には他の少女の手首がある。全力疾走に付き合わされたそちらの少女は、しかし感情が欠如しているといっても過言ではないほど涼しげな顔で、「うるさくして、ごめんなさい」と頭を下げた。
「いや、かまわんけど……」
与羽は、言いながら二人の少女を見比べた。
この高校の制服を着ており、学校指定の上履きの色は赤。上履きの色は学年によって違い、赤はひとつ下―― 一年生のものだ。
しかし、気になるのはそこではない。
「双子……?」
あまりにそっくりな二人の面差しに、与羽はそう首をかしげた。
「正解! 一年四組春日日向です」
「……一年二組、春日月」
二人はそう名乗る。
二人とも顔立ちは似ているが、雰囲気はまったく違う。
日向と名乗った方は、やや赤みのある髪をショートにしている活発そうな少女。一方の月は、白い肌に黒々とした「緑の黒髪」と形容するにふさわしいつやのあるロング。本と図書室が似合いそうな落ち着きを纏っている。
「なるほど、さすがに双子を同じクラスにすると先生もややこしい、っと」
与羽はそんな感想を述べた。
「それで、こんな夏休み真っ最中にわざわざこんなあっつい部屋まで来て何用?」
「迷惑……?」
月があいかわらずの感情を読みにくい顔で首をかしげる。
「あ、いや。ごめん。まったくそんなことはないんだ」
与羽の話し方が面倒臭そうに聞こえたのだと察して、辰海が慌てて誤解を解こうと言う。
「今の与羽はちょっと模試の点が悪かったせいで気が立ってて――」
「うるしゃーわ」
しかし、余計な情報を広める辰海に、与羽は怒りとも呆れともつかない表情を浮かべた。
「迷惑じゃなぁよ」
そして与羽は双子に向き直り、やや語調を緩めて言った。
「ただ、一年生は模試もないし、夏休みの暑い中わざわざここまで来るくらいじゃけ、何か大事があったんかなって」
「うん。重大」と月が言えば、
「そうそう! どうしても生徒会長に助けてもらいたいことなんです」と日向が身を乗り出す。
「まぁ、とりあえず話聞くくらいはするわ。――どうぞ。冷房も扇風機ない暑苦しい部屋じゃけど」