二
選択式の設問ばかりが並ぶ問題は、大学入試センター試験に向けたものだ。
与羽たちはまだ高校二年で、センター試験までまだ時間があったが、出題範囲はほとんど学び終えている。
早めに実際の試験に似せた問題を解いておくべき。というのが、この進学校で教鞭をとる教師陣の総意だった。
そして試験を終えた今、互いの問題用紙にメモした答えを見比べているのだ。冷房も扇風機もないので、下敷きで自分を扇ぎながら。
「千斗、数ⅠA満点の予感が……」
「与羽は英語、結構間違えてそうだよ」
「与羽ちゃん英語苦手だもんね」
「ミサ、計算ミス」
お互いに言葉を交わしながら、採点していく。といっても、解答を持っているわけではないので、お互いの答えを見比べて正誤を見極めているに過ぎない。
結果、一位は合計点七百点を越えた辰海。二位が数学と物理、化学でほぼ満点に近い点数を叩きだした無口な少年――千斗。三位が僅差でミサ。英語の点数が異様に悪かった最下位の与羽はひどく不機嫌だ。
「何であの時しっかり見んかったんじゃろ……」
与羽はぶつぶつとうっかりミスをしてしまった生物をいまだに引きずっている。
「一回失敗したら、次は同じミスしないって言うし、大丈夫だって」
「私が間違えて、なんであんたが正解しとるんよっ!」
辰海の必死のフォローも与羽が間違えた問題を正解していたことで、逆に感情を逆なでしてしまったようだ。襟首をつかまんばかりの勢いで迫ってくる。
「いや、だって僕は一週間以上前から模試のために勉強してたし――」
「なんか私が全然勉強しとらんかったみたいな言い方じゃなっ!」
「……実際ほとんどしてないんでしょ?」
「そりゃあ、しとらんけど!」
「ほら! してないんでしょ。勉強せずにあれだけの点が取れるんだから、やっぱり与羽はすごいよ!」
なんとか与羽の機嫌を戻そうと辰海が躍起になっているところで、足音が聞こえた。
古い文系部活動棟の二階にある生徒会室周辺は足音が良く響くのだ。ただ、もしここが新築だったとしても、階段を全力で駆けあがる軽快な足音は聞こえただろう……。