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十五

「そういえば、月ちゃん。けがは大丈夫?」


 月はあの夜、幽霊の攻撃を受けてしまっていたはずだ。


「うん」


「ごめんな。大斗(だいと)先輩が無謀なばっかりに……」


 本人がいないのをいいことに、そんなことを言う与羽(よう)


「好戦的じゃけど、普段は頼もしい先輩なんじゃけど……」


「余計なことした」


 月はそう言ったが、この言い方では大斗を批判しているようにも聞こえると気づいたのか、言葉を足した。


「私が助けなくても、あの人は大丈夫だった。けがはしただろうけど。余計なことした」


「まぁ、大斗先輩のことじゃけ、かばわれてかなりむかついとるじゃろうな」


 与羽の言葉に、月は数ミリだけ眉を下げて、申し訳なさそうな表情をした。


「けど、私は感謝しとるよ。ありがとな、いろいろと」


 そして与羽は、口の端を上げて声の調子を明るくした。


「いろいろあったけど、楽しい肝試しじゃったし」


「でしょでしょ!?」と日向がその言葉に食いつき、月はいつもの無表情だが、言葉をさがすようにわずかに視線を移動させている。日向に乗るべきか、日向を止めるべきか、危険な目に合わせてしまったことをさらに詫びるべきか悩んでいるのだろう。


「またなにかあったら、いつでも遊びにおいでな」


 月の葛藤を知ってか知らずか、与羽がそう言葉を足す。その横で辰海(たつみ)もうなづいた。


 その言葉で月の表情も心なしか晴れたようだ。「……ありがと」という言葉は、日向の「ありがとうございますっ!」と言うハイテンションにかき消されたが……。


「じゃあ、うちらは生徒会室に戻るわ」


「わかった」


「バイバーイ!」


 そして与羽はもう一度自分が花束を老いた桜の木の影を見て、踵を返した。律儀に一礼した辰海も半歩遅れでそれに倣う。


「不思議なこともあるもんよな」


 もう一度聞こえた日向の声に片手を挙げて応えつつ、与羽が呟く。


「そうだね」


 十字架少年のことを言っていると察した辰海はうなづいた。


「辰海もありがとな」


「えっと……? 僕、何かしたっけ?」


 大斗に突き飛ばされたときに下敷きになってくれたり、危険に飛び込もうとする与羽を止めてくれたりといろいろしてくれたのだが……。本当に忘れているのか、とぼけているのか。


「心当たりがないなら別にええわ」


 与羽は尖った声で言った。眉間には小さくしわが寄っている。


「え~っ」


 辰海が不満げな声を漏らす。


「けがはしとらんのん?」


「それは……、大丈夫だったけど」


「ほら、覚えとんじゃんかっ!」


「え? あ! ごめんっ! べつに君をからかおうとかそういうわけじゃ――」


 早歩きになった与羽を慌てて追いかける辰海。

 その手には、ポケットから取り出した飴がある。それで何とか与羽に機嫌を戻してもらおうということらしい。よく見られる光景だ。


「待ってよ、与羽。ごめん、謝るからさぁ……」


 学内に響き渡る会長を呼ぶ副会長の声に、与羽は愉快そうに口の端を釣り上げた。


「まぁ、いい経験をしたよな……」


 そんなつぶやきを残して――。

「リクエストコラボ小説ここに完結!」っと。

リクエストをいただいたのは、おととしくらいですけどね。

去年の夏に書こうとして結局あきらめた記憶があるので。

まぁ、もしかしたらリクエストいただいたのはさらにその前の年って可能性もありますが、どちらにしろ忘却の彼方にあるであろう昔の話です。


リクエスト内容はあらすじに書いた通りです。

龍神の詩学パロWith「陰陽少女」の月ちゃんたち。夏をイメージした話。


まぁ、陰陽少女で夏って言ったら、幽霊話しかないですよねw

いや、最初は陰陽師要素皆無で、日向が運動場に遊園地を作りたいと言い出すとかわけわからん設定で書こうとしてたんですけど……。

それで挫折して、投稿がこんなに遅くなってしまったわけです。


時間がたちすぎて、最初書いていても変えざるを得なかった部分もありましたしね。

その没シーンを一つだけ、次ページに載せておきますので、昔の「陰陽少女」を知っている方はニヤリとしていただけるかも……?


なんにしても、時間かけてごめんなさいでした。


では、おまけコーナーどうぞ。

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