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やっぱり不幸

「さんざんな目にあった。…………えっへへへ」


と言っても役得もあったのでよしとしようと思う。うん、僕は立派な(おとこ)だ。


「ここか、」


僕が漢であることを再確認したところで、幸一に教えてもらった道場の看板を頼りにその場所に辿り着いた。

一目見てそこが目的の場所だと知れたのは幸一のヒントのおかげ、というよりもほぼ答えに等しかったからだ。


「草だらけ……」


背丈を遥かに超えた草が敷地面積いっぱいに広がっている。そこから連想されるのは海外の牧草地あたりだろう。草もさることながら広い面積を住宅街に所持しているのは明らかに違和感が色めき立っていた。


「どうしよう」


僕が悩むのは入るかどうかじゃない。幸一がすでに答えを出してしまっているからこれ以上調べる必要が無くなっている。噂、言い換えれば嘘の都市伝説では僕の目的に役に立てるのは無理があった。

だからと言ってこのまま引き下がるには全財産をはたいた身としては悔しい。とりあえず、観光になってしまうことは致し方ないと諦めても、何もしないのでは僕の行動は子供の我が侭のままで終わるのに納得できない。きっと比呂もこの状況を予想して教えたに違いない。

だから、ここから僕の行動は言い訳の材料収集に変わった。


道のど真ん中で広い土地を眺めていては怪しい人間として目立ちそうで、人がいなくなるのを見計らってから草を搔き分け中へと入っていく。草が動いて目立ち過ぎるけど、外からは何がいるか分からないだろうから犬が入り込んだぐらいに思ってくれるはずだ。

しかし、本格的にオカルト探しになってしまった僕の行動に些か疑問が浮かぶ。それは何を言い訳にすればいいのか分からないことだ。


「はぁ~、結局比呂の言葉に弄ばれるだけだよな」


垂れ幕事件に比べればどうってことない小さな問題だけど、何かするたびに行きつく先は悪い。

考えれば考えるほど落ち込む要素しかない僕の人生に本当に消え去ってしまったほうがどれだけ楽かとネガティブが押し寄せてきそうになった。すると、敷地の中央に小屋が姿を現した。


「なんだこれ?」


物置よりは大きく、家よりは圧倒的に小さい使用目的が不明な小屋。


「これを調べちゃったら、終わりだなぁ」


これを調べたら想像するだけでも恐怖の学園生活が待ち構えている。だけど、調べない事には終わらない。そうなると、次をどうするか考えるわけで。


「白羽学園の見学でも行こうかな。幸一の知り合いとかいえばできるか……? そもそも幸一が取り次いでくれるかも怪しいけど」


その辺は行ってから諦めてもいい。もし、見学できればうちの学園とは違う優しくてかわいい女子達がいっぱいいる。


「えっへへへへ」


そう思えば、僕の顔は緩みっぱなしになった。僕の長所はネガティブが続かないことだと心から思った瞬間だった。


「よーし、さっさと調べるか!」


次の目的が以前のものよりも希望と期待が満ち溢れている事に、小屋を開ける僕の動きは劇的に急速を上げた。


「え?」


だけど、小屋の中に入った途端、夢見る希望の形を忘れてしまうほど予想外な物が目に飛び込んできた。小屋の中は至って普通の物置に置かれている物に相違ない。ただ、小屋の床にまるで地下があると言いたげに階段が存在している。

僕は吸い込まれるようにその地下に降りるしかなかった。

辺りを見渡すよりも奥に何があるのかという疑問が僕の足を止まることを許さない。ただそこにある道を進む。なぜ数ある扉がだらしなく開きっぱなしなのか説明できないけど、誘導するように僕を箱のような機械がある部屋へと案内した。

そのまま箱の中に入る。

ただ真っ暗なその箱の中。

何もなかった事で全ての行いを忘れさせた期待が喪失していくのが分かる。

いやだ……、このまま何も無いなんてオチは嫌だ。


「頼むよ」


学園の噂だとか、僕の不運だとかどうでもいい。ただ、期待が……可能性が無いなんてことだけは残しておいてほしかった――。


「ふー、戸締りもせずに出かけてしまったの。失敗失敗」


「――っ!?」


その声で急激に現実に戻された。

声の主はお年寄りのもの、きっと噂の元になった人であり、同時にこの地下の(あるじ)


「(挨拶……はっ!?)」


冷静になっている僕の思考は確かに現実に戻されていた。鏡でもあれば僕の顔はギャグ漫画バリに面白い顔になっていただろう。


「(不法侵入じゃないかあああああああああああああああああああっ!?)」


人生の終わりが見えた。


『さてと、もう一度実験(テスト)をして――』


比呂なんかにする言い訳よりも切実に言い訳が欲しい。このまま警察沙汰なんてことになったら学園の羞恥どころじゃなくなってしまう!

時間はまだある。その間に――、


『――を箱の中に入れなければいかんな』


「(万事休すかあああああああああああっ!)」


何を入れるつもりだったのかは知らないけど、出るしかない。相手よりも先手をとった方がまた印象はいいはずだ。最悪顔を隠して逃げるぐらいの覚悟がいる!

そのタイミングに心臓が鼓動を速め始めた。というか、もう逃げる事しかできなくなってる!?


『――イカンイカン。もう入れとったか、あとはスイッチを押すだけだったの』


覚悟が揺らぎ始めた途端、猶予が与えられた。もう一度冷静に対応を考えなくてはいけない。


「(そういえば、この中に何かがあるんだよな。それを材料に登場すれば話をする機会ぐらい作れるんじゃないか)」


急いで這いつくばって真っ暗の中を手さぐりだけで探し始めた。この時の僕の集中力は間違いなく歴代で一位になる。その結果、運も跳ね上がっていた。

指先に硬い何かが当たる。


「(――きっとこれだ!)」


急いで拾い上げようとした――が僕の不運が戻ってきた。


「(くわぁ!?)」


突然、箱の中の明かりが僕の目を潰しに来たのだ。


「(――んめガァアアア、目がぁあああああああああああああああああ!!)」


唯一の救いは声が出なかったことだけだ。嬉しくも悲しい微かな運が僕を助けた。あまりの笑劇に、立ち上がって苦しむ僕とそこにあるであろう物から距離が離れる。しかし、これは良くも悪くもなっていない。眼球さえ回復すれば探すまでもなく、それはそこにあるのだ。

ただじっと、その時を待つ。

もう少し、もう少しで見える!


――キュイィイイイイイイイ!


「(ん? なんだこの音……)」


突然、掃除機の吸引音のような甲高い音が聴こえてきた。外で老人が掃除でも始めたのだろうか、その音が背後から聴こえてくる気がするけど、さっきの老人の声はスピーカー越しに聴こえてきた。きっとこの音もそうなのだろう。


「(そんなことよりっ、あったあれだ!)」


脱出の糸口になるであろう希望の欠片に手を伸ばし、拾うとした。


「へっ!?」


その瞬間目を疑いたくなる現象が起きた。

僕の希望の欠片が浮かびあがったのだ。それだけじゃない、浮かび上がったのなら僕の手に収まるはずなのに、その距離は離れている。さらには何時(いつ)からあるのか、黒い穴が空間に浮かぶように存在している。


つまり目に映っている現象を解説するとこうなった。

音の原因は黒い穴、浮かんでいると勘違いしたのはその穴が掃除機のように希望の欠片を吸いこんでいたため――、


「(まさか……!?)」


そして、その穴は大きさを増して人間ぐらい簡単に吸い込んでしまう程成長している。


結果――

「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!」

僕は飲み込まれていた。


箱の中に何もなくなった後。


『ん? 人の声が聴こえたような気がするの、……気のせいか。相変わらず【人工神隠し機械(じんこうかみかくしマシーン)】は快調じゃの』


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