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幸か不幸か

なけなしの所持金はスッカラカンになった。


「どうすんだよ、この後……」


電車を乗り継ぎ一番安い方法で来た町『扇街』。有名な土地だということもあって下調べもそこそこに来ることはできた。それに、僕は一年程前にこの街に一度来たことがある。それがこの街を有名にしている理由でもあった。

その理由というのは、休みの日だというのに制服姿でいる学生たちだ。文武才三道を収める『白羽学園』はその制服の可愛さでも人気のある学園で、世界でも五本の指に入る有名校。その学園に昔、僕は受験をしに来たのだ。

当然、僕は落ちているからこそ(ゆかり)が無くなってしまったのだが、目に入る女子生徒達の姿は噂通りの可愛さだ。


「えへへへ」


レベルの高い女の子達に目移りしてしまう。

「おっと、こんなことしている場合じゃない」

目的とは違う誘惑に気を入れ替えて本来の目的を思い出した。

そう僕は比呂から聞いた噂を頼りに消えなくてはならない。噂を聞いたは良いがその根源がどこにあるかまでは確かめられず、この街に住んでいる人からの情報を集めなければいけないのだ。

よって通りすがりの人に訊いてみる。


「あの、」


「ん?」


ちょうど横を通り過ぎようとしていた背広姿のサラリーマンに声を掛けた。え? 訊くなら可愛い女の子に訊けって? それは無理だ。苦節十七年僕は比呂と違って女子と話す機会など与えられなかった。だから、同姓の方が緊張せずに話ができる!


「お尋ねしたいことがあるんですが?」


男に話しを掛けるのに勇気なんてものはいらない。でも聞いてしまってから後悔にも襲われていた。もしかしたら、尋ねた女子とお近づきに慣れたかもしれない可能性を捨ててしまった。その所為で僕の表情は落ち込む。


「あー、そんな顔するならその辺の学生に訊いた方が良いんじゃないか?」


「なんと!?」


このサラリーマンはできる人だった。僕の態度に一切の不満も出さずに優しくチャンスをくれる。


「ええと、そこの白羽の学生さん」


しかも、御膳立てまでしてくれた。声を掛けられた女の子の数名がサラリーマンに近づいて事情を聴いているようだ。そして、話が終わるとサラリーマンが僕の方を振り向き小声で、


「がんばってくれよ」


そう言って腕時計で時間を確かめると駅の中にサラリーマンは消えて行った。なんていい人なのだろうか、これからはサラリーマンの方々を崇めてしまうかもしれない。

そんなサラリーマン(神様)の背中を見送っていると、男なんかのダミ声とは違い、透き通るような可憐な声が僕を呼んだ。


「ええと、道か何かをお聞きになりたいんですか?」


「ははいっ!」


挙動不審な受け答えに優しい微笑が返ってくる。ありがとうサラリーマン(神様)、さようならサラリーマン(神様)、僕の記憶からサラリーマン(神様)が一瞬で消えた。僕は一旦冷静さを取り戻し、相手の不審者だと思われないように体裁を整える。


「ええと、訊きたいことっていうのが」


首を少し傾け「はい」と答える女子生徒の一挙一動がとても可愛い。そんな女の子に変態のレッテル何て貼られたくはない。そう思って、これから訊くことを今度は噛まないように脳裏で復唱する。その間に比呂から聞いた噂を整理し、女の子が答えやすいような質問に変えた。

そんな僕から出た言葉は――


「この辺に神隠しにあえるポイントがあると聞いたんですが?」


「へ?」


――最悪だった。


いくら僕が通う学園の女子とは違って「はぁあ?」ではなかったにしろ、これじゃあ、バカ丸出しじゃないか。


「ま、まった今のナシでっ、ええとそうだ!」


なんとか今言った言葉をない事にしてもらって改めて整理した単語を使いながらもう一度、


「この辺にマッドサイエンティストの老人幽霊が出ると聞いてきたんです!」


「ひぃっ」


女の子が一歩退いていた。もう微笑ましい笑顔はない。それどころか三人組だった女の子の一人が慌てふためいて誰かを探してきょろきょろ視界を動かしている。

……終わった。きっとおまわりさんが登場するに違いない。何より、女の子の中で僕の正体はオカルト大好きな気持ちの悪い奴と認識されてしまったに違いない。僕は心の中で再び蘇ったサラリーマン(神様)に謝罪をする。チャンスを棒に振るいました、ごめんなさい。

そんな僕にサラリーマン(神様)は――


「あ、先輩!」


「ん、どうした?」


罰をお与えになった。


おまわりさんなら言い訳をすればなんとか許してもらえそうな気がする。ところが女の子が探していたのはどうやら学園の先輩らしかった。

僕の脳裏に頬を殴られるイメージが蘇った。先輩の単語は恐怖の代名詞になりかけている。しかも、その女の子達の先輩はアユ先輩……の友人にどことなく気配が似ている。体育系と言うか男勝りなところというか……。


「この子たちになんの用? ことの次第によっては」


さようなら右頬、赤く真っ赤に染め上げられて紅葉を張られてもまた一緒に生きていこう。僕はそっと目を瞑り、右頬を差し出した。


「ちょ、ちょっと! なにっ、キキスなんてしないわよ!?」


なにか誤解が生まれていた。しかも、アユ先輩の友人とは全然……、ぜんぜん! 全く、何から何まで違う! 赤くなっている姿はとてつもなく可愛い!


「えへへへ、殴るんじゃないんですか?」


場を弁えない緩んだ僕の笑みに、そんな可愛らしい先輩までも後退した。


「ま……マゾ」


「ち、ちがっ」


しまったァアアアッ! オカルトどころじゃない、完全に変態に思われた。


「違うんです! この街にある噂を調べに来ただけなんです!」


疑わしい目はなくならない。当然だ、親切から対応してくれた女の子を怯えさせ、誤解だとはいえキスを迫ったように見え、さらには頬を引っぱたいてくれと懇願しているように見える変態に警戒しない方がおかしい。


「そ、そうなの」


もうこの街にも二度と来られないかもしれない。被害は広がってしまった。


「それなら私たちでは力に慣れないけど、あそこにいるへんた……んん、男子に訊いた方が良いかもしれない」


「へ?」


逃げられてもおかしくないと思っていたのに、意外にもまだ親切に教えてくれた。やっぱりアユ先輩の友人とはまっっったく違う女の子達の先輩に、頭を下げられるだけ下げる。


「ありがとうございますっ、ありがとうございますっ!」


「ちょ、ちょっと手を離して!」


「あ、すみません」


調子に乗り過ぎた。勢い余って先輩の手を取ってぶんぶんと振っていた。でも、そんな僕の変態的な行動にも頬を染めている先輩はなんてかわいいんだろうか。


「えへへへ」


「うっ」


さらに一歩下がってしまった女の子達に、またやらかしたと思うもこれ以上僕の心象を悪くするのはまずい。もしかしたら、神様がくれたチャンスはまだ残っているのかもしれないのだから。


「あの人に訊いてみます、本当にありがとうございました」


「ちょっとまって」


だが、現実はそんなに甘くない。


「あなた、名前と学園は?」


念の為に女の子達の先輩は素性を洗おうとしていた。


「しくしくしく、名倉高等学園二年北原隆文です。先輩」


「な、泣かないでよ、大体あなたの先輩じゃないし、私と同い年……」


そんな悲痛なお別れを僕はしていた。

白羽学園の女子生徒が寂しげな僕の背中を見放し、距離が離れていく。それでも電車がくるまで時間があるようで、ホームに入るわけでもなく、まるで僕の行動を監視するように見続けていた。


「そんなに怪しまなくても……」


目的が変わったわけでもないのだから、ちゃんと紹介された男子の所には話を訊きに行くつもりだ。それでも後ろが気になるから盗み見るように振りかえってみたら、明らかに視線を外された。


「がーん」


「はははっ、まぁ、落ち込むなよ」


と、そこに僕の傷心を励ますように女の子達の先輩が教えてくれた男子生徒が傍まで来ていた。


「悪いね。あまりに無残な結果を見ていられなくて声を掛けさしてもらった」


どうやら僕たちが会話をするところを聴いていたみたいだ。


「で、フラれた者同士仲良くしようぜ」


「いや、告白したわけでは……」


何か勘違い……というよりズレている。何か不思議な会話のズレが気になって男子生徒に正しい事情を説明しようとする。


「あのですね、そうではなくて――」


そよ風が吹く。

男子生徒の視線が僕から外れ駅の方にズレた。


「え? ああ、名前? 俺は山里幸一、白羽の二年ね。呼び方は幸一でいいよ」


「ち、違います。実は――」


さっきよりも強い風が吹く。

また幸一の視線は駅……といより駅前にいる女子数名の方へ流れる。


「ちっ、まだか」


「あの?」


「あー悪い悪い。えーと、シラハ太郎君だっけ?」


「違います! なんですか、その市役所にあるお手本のような名前はっ!」


「あ、違うの?」


「話を聞いていたんじゃ?」


「何言ってるんだっ! 俺は男なんかに興味はない!」


「僕だってそうですよっ!」


こいつ、話を聞いていたと言いながら女子ばかり見ていやがった。


「なんなんですか、もう結構です他の人に訊いてみますから」


「まったまった、冗談だって友達だろ?」


「なった覚えはないですけど?」


よく分からない男子生徒に捕まり、女の子たちの先輩には悪いが話を聞くよりもこの場を逃げ出す方法を考えた方がよさそうだ。いくら、消えたいからといってこれ以上の名誉の破壊は抑えておくことに越した事はない。なんとか適当な理由でこの場を回避しようと、駅に備え付けられた時計が目に入る。


「(よし、)」


時刻は昼に差し掛かろうとしているし、時間が無いとか適当に理由を付けて逃げてしまおう。


「あ、時間が――」


「まて来たぞ!」


ところがそのタイミングは幸一の声で合わさりスルーされてしまった。今度は何かと耳を澄ませる。すると、少し離れたところからレールの音を響かせ電車がやってくるようだ。

でも、幸一もそうだが、さっきまの女の子達や白羽の制服を来た生徒達はホームに入っていないでお喋りを続けている。確か時刻表にはこの時間特急電車が通過するだけだと書かれていたはずだ。


「それが何か?」


特急の電車がホームに止まることなく通過すると、勢いのある風を巻き起こす。

その途端――


「きゃあああああああああっ!?」


と女子生徒の甲高い悲鳴が上がった。

巻き起こった風の勢いでめくれ上がるスカートを必死に女の子達が抑え込んでいることから、明白に幸一の言っていた意味を僕は理解した。


「まさか、この為に……」


「ちくしょう、一七分の一六かっ」


女子生徒の正確の人数まで把握している。


「何て事を……」


「ん、むふふ」


幸一の目的が一旦終わったようで僕の方を見ると厭らしい笑みを浮かべる。


「それで、聞きたいことっていうのは何かな?」


何か不吉なことが起きようとしているが、この場を収めるためにはさっさと尋ねて消えてしまった方が良い気がした。


「この辺に老人の幽霊が出るって聞いたんですが知りませんか?」


おざなりに訊いてしまう。


「ああ、子供の安全の為に大人が作った地元都市伝説か。それなら噂発祥の場所まで知ってるぜ。とこ

ろで俺も隆文に訊きたいことがあるんだけど、さっき話していた背の高い女子のは何色だった?」


「まったくもう、水玉ですよ。って、あ!」


「むふ、むっつりめ」


「しまったぁあああああああああ!」


「逃げるぞ隆文(せんゆう)


恐る恐る女の子たち方を向き、睨まれていることを確認した。


「ひぃいいっ」


「例の場所は、北河道場に近くの不自然な土地だ! 行けばわかるさ、じゃ!」


孝一に遅れること陸上で鍛え上げた足で僕もその場を走り去った。

ついでに、噂発祥の地を叫ぶ幸一がなぜ僕の名前を知っていたかといえば、持っていたカバンに『隆文』と書かれていたからだと、僕は目的の地へ辿り着いてから知ることになった。



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