表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/27

ある作戦を遂行するためストック様と別れ、茂みの音をたてないように移動していると思わぬ光景を目撃した。


「く、ここまで恥を掻かされたのは初めてだ!」


穴からランさんの手を借り出てくるバーパスだった。その姿は間抜けと言うしかないんだけど、ストック様の話からバーパスは貴族の中でも上位にいるらしく中々強いらしい。


「そうは思えないけどなぁ」


一応は話しを訊いてはいたけど、今までバーパスと絡んでいてもそんなかっこいい姿を一度も見た事のない僕としては疑う。むしろ手助けしているランさんの方が圧倒的に格好いいと言えてしまう。

隠れたままその後の行動を監視し続けると、なにやら二人は話し始めた。ここからではバーパスの怒りに満ちた怒鳴り声は聴こえても冷静なランさんの声は全くと言っていい程聴こえない。これからの事も考えれば何か作戦の一つでも盗み聞ければいいと思った僕は二人の気づかれないように近づいていった。


「バーパス様少し落ち着かれた方がいいかと」


「黙れっ、奴だけは必ず私の手で処刑してやる! どのみち勝敗が決していないと言うことは奴が逃走者であることは決まっている」


ストック様に触れた以上バーパスの言うことは正しいのだけど、怒りに任せてランさんの意見は聞こうともしない。初っ端から色々あったけど、現在のチームワークでは僕たちの方が上回っていると思っていいだろう。


「ですが、勝つことを考慮すれば私が彼を――」


チームワークに関しては素直に喜びたいところだけど、ランさんの意見を聴くとやっぱり油断はできそうになかった。こういう時に冷静な人の意見は概ね当たっている。

逆に、


「そんなことは許さん! これだけの侮辱を受けたのだ、必ず私の手で奴を仕留める! もとより奴の実力など皆無に等しいのだからな」


興奮気味に自己を過大評価しすぎて、もっとも効率のいい方法をないがしろにするバーパスはいずれ痛い目にあってしまえばいいと思う。なにせ僕はイケメンの味方だから。

と、そんなことを思いながらも僕も冷静に考えてはいる。バーパスは興奮して一人走りしているようだけど、実力の差を考えたら完全に間違っているわけでもないから性質が悪い。

どうしたもんかと、ため息も音を殺して我慢していると興味深い話に移り変わった。


「しかし、実力が無い分奴を探すのに手間がかかる。森の中で探索した時もそうだが、近づかないと小さな気配を感じられない」


小さいとはなんたる無礼な。確かに逃げる事しかない小さな存在だけど、小学生からでも逃げる勇気は人一倍大きいぞ!


「おそらく彼の不可思議な行動の部分が関係していると思われます」


「ふっ、くだらん。が、ストックの言っていたことは考慮すべきか……」


「……森が我々よりも侵入者を庇おうとしている」


「信じられんがな」


「確かに『魔森回路』が我々ルナレトを裏切るとは思いませんし、実際現在もこの敷地にいることからもそれはないと思います。ですが、『魔森回路』が気に入ったとすれば、我々に被害のない程度に手助けをすると考えられなくもない」


「確かにあの時森で起きたことは出来過ぎている」


僕も知らない事実に耳を傾けていた。


「それに……」


「なんだ?」


「いえ、それよりも先ほどの件ですが」


一瞬、ランさんが何か思わせぶりな態度で顔を曇らせた。口に出されることはなかったものの、うーん、地味に気になる。


「それだけは譲らん、奴は必ず私が捉える」


「……そうですか。では、せめて森の中で戦うのは避けた方がいいかと」


「完全に信じたわけではないが、『魔森回路』は敵に回せないからな。一度町に戻るか」


いやいや、と僕は一人手を振りながらおびき寄せるのは無理だと思う。僕が鬼でない限りストック様を助けた時と違って、向こう側に近づく必要性がない。


「さて、逃げようかなっと」


大して重要な話は聞き出せなかった。

それ以上の成果が得られないなら、逃げてしまった方がいいと思い来た道を引き返そうとした。

けど、何か自分の知っている情報とはズレた何かが存在している。

そして、それはすぐに思い当たる。バーパスはともかく、冷静なイケメン、ランさんがそんな間違いを犯すなんてことは絶対に無いと僕は信じていた。


急いで僕は後ろを振り向いた。

そこにいた二人がいなくなっている。

ゾクッと背中になにか恐怖が近づいて来ているような気がして、姿を確認するよりも早く僕は駆け出した。


その姿を木の上から見られているとも知らずに――。


「ふ、気づいたことは褒めてやろう。しかし、ただ殺すだけでは侮辱された気が晴れんな。暫く考えるとしよう」


「ストック様の方はいかがなさいますか?」


「成り上がりは後だ、放っておけ。しばらくまともに動けないだろう」


「…………」


「私は先に町に行っている」


「……畏まりました」



――だから、知った時には困ったことになっていた。


「止まる気はありませんか?」


「そりゃぁああそうですよっおおおおおお!」

ランさんに追われることなんて予定に組み込まれていなかった僕は町からどんどん離れて走っている。


「げっ」


森そのものの木の配置を生かして直線に逃げる事だけは避けていたのだけど、結局蛇行だけを繰り返し前に進む僕の目の前にバーパスの部下の姿が見えてくる。

ルール上、バーパスの部下は参加していない。じゃあ、なぜいるかと言えば、それは隠れ鬼ごっこをする範囲だ。町は森に囲まれて存在しているからその範囲は分かりやすいが、森の面積は案外アバウトに決めた。その目印としてバーパスの部下に頼み立ってもらっていたのだ。

バーパスの部下だとあって足の指一本でも出れば厳しい判定ののち審判の通告が行くだろう。だから、なぜか警戒心露わに僕が近づいたことで、臨戦態勢を取っている。


「構えなくたって曲がりますよっぉおおおおおおお!」


後々いちゃもんを付けられても困ると思った僕は、指先どころか、抜けた毛の一本だって風で流されない距離から直角に方向転換する。

それが災いした。


「ぃいいっ!?」


「少しお話をしても?」


まるで空から降ってくるかのように現れたランさんに急ブレーキで速度を落とした。


「まだ手は出しません」


それはいずれ出すと言われたようなもんだけど、ここは話しに乗らないわけにはいかない。


「約束は守りますよね……、イケメンだし」


「いけめん……? よく分かりませんが、訊いてもらえるようで何よりです」


たまに通じない言葉があるけど、それは仕方がない。まだ通じている部分が多いだけいい方なのだ。


「それで訊きたいことって言うのは?」


立ち聞きしていたことを考えれば、僕の正体といったところだろうと思っていたから、質問に対しての警戒を一切していなかった。


「『押してダメなら引いて見ろ』とはどういった意味なのでしょうか?」


ところが、全く予期しない質問がされた。


「どうしてランさんが?」


それにその言葉は僕がレナードと恋バナをした際に教えてあげた言葉だ。それを知っているということはレナードから頼まれたのだろうか。でも、なんでバーパスの従者であるランさんに訊くのかは全くの不明だった。


「セレンさんに頼まれました」


納得する寸前の僕にまた不明点が浮かぶ。どっちにしたって直接聞けばいいことだと思ったのだ。


「そうですね、事実だけをお教えします」


そう言われ、ちょっと抵抗してみたくなった。僕だって勘は鋭い方だ、それにイケメンの手を煩わせるまでもない。


「ははーん、分かったぞ」


そう言った途端ランさんの顔色が変わる。


「さてはランさん――」


「ご察しの通り――」


「セレンさんの後輩だな!」


てっきり体育会系の関係性だと見破ったと意気込んだわりに後悔した。

沈黙だ、明らかに呆れたがための沈黙が生まれたのだ。


「ち、違いました?」


「間違ってはいませんが……」


この場合違うと言うことらしい。


「端的に言わせていただいますが、貴方の存在を疎ましく思っているのはバーパス様だけではありません」


「…………」


思わぬ衝撃に言葉を失った。

レナードは一度とはいえ、僕の命を救った人物でもあるから考えにくい。そうなると話の流れでも分かる通りセレンさんしかいない。


「でもなんで?」


「レナード様は王族と頻度多くお会いになられる多忙な御方。その主人の注目を浴び、お手を煩わせる

存在を放っておくことは決してなさらない。そして、レナード様が必要としているものがあればセレンさんは手に入れる為に苦労されるでしょう。それが今回の状態を生んだのです」


つまり、レナードにとって僕は邪魔だとセレンさんに思われていて、障害を取り除くにもレナードに教えたあの言葉の意味を知るまでは僕は消せない。さらに、聞き出すにもこの決闘が始まり、レナードが乗り気で参加してしまったから、へたに手を加えることができなということになった。


「だから、参加者であるランさんに頼んだと」


「ええ。どういう経緯かは知りませんが、貴方がレナード様に教えたことは重要なことになっているのです」


なんというか間抜けな話だ。僕の世界では知らない言葉でもないのだけど、そのおかげで僕は色々な災難から逃れているらしい。

知られざる裏話に僕は安堵から息を吐き出した。


「じゃあ、ランさんが僕を捕まえようとしないのはセレンさんの頼みがあるから」


「そうです」


そっか、と思いながらこの場が安全だと判断できた。

そう考えられればもう少しこの場に留まりたい。作戦の進行上ストック様の回復のためにできるだけ時間を稼ぐつもりだったのだ。

僕は気を緩めてランさんの質問に、


「僕達に勝ったら教えてあげますよ」


そう答えた。

あんなことを訊かされて教えてしまったら、セレンさんが僕を生かしている理由を失ってしまう。セレンさんの主人を思う忠誠心があれば、決闘中は問題なくても僕達が勝った途端、僕の身が危ない。


「そうですか」


ランさんは僕がそう答えるのを知っていたみたいに納得した。

だけど、話には続きがあった。


「ストック様とバーパス様が遭遇しなければいいですね」


「え……ッ!?」


その瞬間、時間を稼いでいたのはランさんの方だと知らされた。

ストック様は町にいる。傷の治療をするには設備が整っていた方がいいと思い、誰かに手を借りなくとも道具だけなら自由に使うことができるからと僕が提案したからだ。

僕は時間稼ぎが失敗したことに焦りながら、それが罠だとも知らず僕は町に向かって走り出した。

そしてまた、僕の知らないところで話しがされる。


「どういうつもりだ!」


「言われたとおりにしたつもりですが」


「余計な事を話せとまで言った覚えはないっ! これではどちらが勝っても奴が言っていた言葉の真意を聞き出せない!」


「そうですね。我々が勝てば彼は死に、もし彼らが勝っても口には出されない」


「だからっ聞いている! どういうつもりかと」


「理由は簡単です。セレンさんがレナード様の為を思い行動するのと同じように、私も私の主人の為になる行動をとったまでです」


「なんだと……? そのために私を利用したのか」


「悪いとは思いましたが、我が主人の為です」


「キサマッ!?」


「残念ながら私に危害を加えるのはこの決闘が終わるまで無理です。セレンさんが彼から聞き出すことができなかったのと同じ理由がある限り」


「――くっ、結局私も異世界人もお前の掌で踊らされていたということか」


「異世界人…………?」


「ふん、お前にはわからんさ」


知らぬ間に終わりを告げる暗躍とは別に、計画は完成に近づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ