戦う理由
それはさておき困ったことになった。
「決闘なんてやらなきゃいけないのか。それも町の中で」
いっその事逃げることができれば楽だとは思ったけど、逃げ場がないならここでシロクロ付けてしまうしかない。悲しいことに選択肢がなかった。
と、誰かが僕の服の裾を引っ張る人がいた。
「ぉおっ!」
思わず恐怖が驚かせた、けどすぐに違和感に気が付く。裾を引っ張っていたのはさっきまで僕を追い掛け回していたミラだった、けど遠くを見つめその手は震えていた。何事かと辺りを見渡すと残りの三人も青ざめた姿で傍にいる。
「ど、どうした?」
「お、おれバーパス様に……」
それだけで事態は理解できた。貴族と町の民その格差は子供にも影響を及ぼしている。でも、と思う。こんな子供にまで様付をさせるなんてストック様とは違う貴族っていうのは誇れるものなのか。
それも僕の常識が思わせているのは知っている。だから、不思議がることが可笑しなことなのかもしれない。だから、口を出すことではなかった。
僕はミラの頭に手を当て、そのまま勢いよく髪を掻き毟った。
「いだだだだだっ、何すんだよ!」
「はっはっは!」
わざとらしい笑いに、青ざめていた三人もぽかんと変な人扱いで僕を見た。
「待ってろよ」
僕の言葉の意味を知るためにミラは三人に助けを求めるけど、首を振られて疑問だけを残す。
そこに、
「どういうつもりだ?」
同じく話を聴いていたストック様が口を挟んできた。後ろにはフロルスさんとマルさんもいる。
僕は何も答えず、決闘と言う戦いに覚悟を決める。
その答えは勝った時に話せばいいのだ。
逃げられない理由ができたのだから。
「何をかっこつけているんですかー」
……まぁ、台無しだった。
明らかに僕の決意した意味を知っている。だって顔に「調子に乗らないでください」と裏フロルスさんが見え隠れしているからだ。
「お嬢様、町でやるということはー」
「ええ」
「勝負の行方の承認を町の民にさせる気でしょうねー」
「ああ、審判とかいないから」
すでに勝負の方法を思いついた僕は徐にそんなことを言ってみる。
「ふふ、ふみふみは本当にお馬鹿さんですね~」
フロルスさんの人をバカにする態度は一切気にしない。言い返して、言い返されたら心が折れる自信がある。なにより僕の呼び方に喜んでいた。
「本当のところはお嬢様に恥を掻かせるのが目的なのでしょう」
「恥? でもバーパスだって負けたら同じことなんじゃ」
「最初からそのようなことを考えてはいないのでしょうねー」
そう答えたフロルスさんの目を見た瞬間、怒りに溢れていることに気が付いた。思えばレナードの時は『様』を付けないと怒られたが、ストック様と同じ貴族のバーパスに関しては一度も注意を受けていない。少なからずフロルスさん、それにマルさんも良いようには思っていないのだろう。
まだこの世界に来て間もない僕はとっさにその怒りを鎮めてあげなきゃいけないと思った。
でも、それは僕の間違いだった。
「本当ならその位置に私が入れたらよかったのですが、私はお嬢様の立場を守る身としてそれを押さえてきました。ですから、ふみふみ今だけは頑張ってください」
心中を悟られないように視線の位置を変えず、僕に任せるような口ぶり。怒っているのはそこに立てないフロルスさん自身にだったのかもしれない。だから、余計な事は言わず僕は返事をするしかない。
「はい。頑張ります。バーパスだってストック様と同じ貴族なんだし」
空気を読んで珍しく頑張り宣言をした僕に返ってきた返事はため息というものだった。
「足を引っ張らないように頑張ってくださいと言ったんですよー。言いたくないのですが、お嬢様の実力とバーパス様の実力は互角ではありません」
「ストック様の方が上?」
「どういう解釈ですかー?」
分かってはいたつもりだけど身内を贔屓したくなるのはしょうがないと思うのに、口調そのままに米神部分に裏フロルスさん面影があった。
「バーパス様がお嬢様を呼ぶ時を思い出してください」
言われてバーパスがストック様を呼ぶ名を思い出してみた。確か、「成り上がり」そう呼んでいた。
「それが?」
あだ名程度に解釈していた僕としてみればその真意を知る術がない。だから尋ねるのは当たり前のつもりだった。
なのに、フロルスさんは僕を蔑んだ目で見た。それどころか無視を決め込んだ。
「お嬢様、足手まといがいますけどどうしますか?」
「放っておきなさい。ここで処刑してはバーパスの思惑通りになるでしょう」
「そうですか~、いっそ私たちの手で葬れば悔しがる気もしますけど」
考えるまでもなく逃げる体勢を取る僕。一歩後ろに足を退け、背中に誰かの手が置かれる。
「…………今?」
「ひぃいいいっ」
容赦なさすぎるマルさんの処刑準備に逃げ場を失う。
「それであんた、決闘の方法は考えているの?」
どことなく今までとは違う雰囲気に僕は息を飲む。目を合わされることのないストック様の目はよく言えば研ぎ澄まされ、悪く言えば意気込み過ぎているように感じる。ここで冗談やおふざけは許されない、そう感じた。
「はい、一応。こいつらがいたおかげです」
そう言ってミラの髪をまた掻き毟った。
「いでででやめろ、ばかタカフミ!」
もう怯えは感じられない。さっきまでと同じミラだ。
「あのストック様っ」
「そう、あなたたちのおかげのようね。危ないから離れてなさい、マルその子達を」
ミラが何か言おうとしたのをストック様は遮りマルさんに子供達を避難させた。後ろ髪を引かれる視線を残し、逆らえないミラ達はそのまま退場になった。
子供たちがいなくなった途端、
「足手まといでも何でもいいわ。あんた死にたくないでしょう」
さっきまで見せていた優しさはなくなった。
「そんなの当たり前だろう――でございます」
僕にはない優しさに幻滅して油断しそうになった。危ない……。
「私も貴族をみすみす辞める気もない。なら、この決闘で勝てれば寝る場所、食事、必要な物を揃えて私の城に住むことを許してあげるわ!」
「おおお、お嬢様っっっ!?」
一石二鳥の提案がされた。
だから喜ぶよりも僕は大切なことを思い出した。
僕はあの日の悲劇から逃げる為この世界にやってきた。初めは冗談でも酷い噂話だった。それが叶い、生きていくための条件まで付いてきた。
元の世界が嫌いだったわけじゃない。でも、僕はこの世界で生きたいと思っている。
新しい人生は目の前にあるのだ。
だから、
――当たり前の概念から逃げる戦いが始める。




