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生贄のオメガ王子ですが、恐ろしい獣人王の巣で極上の毛皮に包まれ溺愛されています〜言葉は通じないけど愛は重いです〜  作者: 水凪しおん


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第3話「小さな歩み寄り」

 窓の隙間から差し込む青白い光が、リオンのまぶたを優しく撫でた。

 ゆっくりと目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。

 一瞬、自分がどこにいるのか分からず呼吸が浅くなるが、周囲を囲む分厚い毛皮の感触が記憶を呼び覚ます。

 北の獣人国、そしてゼルグという名の王。

 起き上がろうとして、リオンは自分の体が幾重にも重なった毛布の中にすっぽりと埋もれていることに気がついた。

 寝返りを打つたびに、毛皮の柔らかな毛足が頬をくすぐる。

 暖炉の火はすでに弱まっていたが、部屋の中は十分に暖かかった。

 扉を控えめに叩く音がして、若い獣人の女性が銀色の盆を持って入ってきた。

 盆の上からは、湯気を立てるスープと焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂っている。


「おはようございます。お食事をお持ちしました」


 彼女の言葉もまた北の国の言語であり、リオンには理解できなかった。

 しかし、彼女が盆をテーブルに置き、にっこりと微笑む様子から敵意がないことは伝わってくる。

 リオンはベッドから抜け出し、テーブルの前に座った。

 陶器の器には、大きな肉の塊と見たことのない根菜が煮込まれたスープがなみなみと注がれていた。

 木製のスプーンで一口すすると、濃厚な肉の旨味と野菜の甘みが口いっぱいに広がる。

 香辛料が効いているのか、飲み込むと胃の底からじんわりと熱が込み上げてきた。

 南の国の洗練された料理とは違うが、冷えた体を芯から温めてくれる滋味深い味わいだ。




 食事を終えた頃、再び扉が開き、ゼルグが姿を現した。

 彼の手には、昨日とは違う新しい布地が握られている。

 鮮やかな青色をした、手触りの良さそうな厚手の布だった。


『また、寝床を直すのだろうか』


 リオンの予想通り、ゼルグは真っ直ぐにベッドへと向かった。

 リオンが抜け出した後の毛布の乱れを丁寧に直し、持ってきた青い布を一番上にふわりと掛ける。

 そして、少し離れて全体の形を確認し、満足そうに鼻を鳴らした。

 その一連の動作には、義務感ではなく、ただ純粋により良い環境を作ろうとする熱意のようなものが滲み出ている。

 ゼルグはリオンの方を向き、彼が着ている薄手の衣服に視線を落とした。

 南の国から着の身着のままで連れてこられたリオンの服は、この北国ではあまりにも心もとない。

 ゼルグは眉間にしわを寄せ、何かを思案するように目を細める。

 そして、部屋の隅にある重厚な木製の衣装戸棚を開け、中から毛皮の裏地がついた長衣を取り出した。

 リオンの前に立ち、その長衣を無言で差し出す。


「……着て、という意味ですか?」


 リオンが南の言葉で問いかけると、ゼルグは言葉の意味が分からなくても意図は汲み取ったようで、静かに頷いた。


 リオンは長衣を受け取り、羽織ってみる。

 ゼルグの体格に合わせて作られたものなのか、リオンには大きすぎて袖が指先まで隠れてしまった。

 裾も床に引きずりそうになっている。

 その不格好な姿を見て、ゼルグの喉の奥からくぐもった音が漏れた。

 笑っているのだと気づき、リオンは少しだけ頬を赤らめる。

 恐ろしい化け物だと思っていた男が、こんなにも人間くさい表情を見せることに驚いていた。

 ゼルグは膝をつき、リオンの目線に高さを合わせた。

 大きな手で長衣の袖をまくり上げ、リオンの手が出るように丁寧に整えていく。

 指先が触れるたびに、ゼルグの体温が服越しに伝わってきた。

 その動作はひどく慎重で、まるで壊れ物を扱うかのようだ。


『僕を、傷つけるつもりはないんだ』


 頭ではまだ疑念が渦巻いているものの、体は目の前の男が発する優しさを確かに感じ取っていた。

 袖をまくり終えたゼルグは、リオンの顔を見上げて小さく頷く。

 リオンもまた、不器用な手つきでまくられた袖を見つめ、ゆっくりと首を縦に振った。

 言葉の壁は高く、厚い。

 しかし、布の重みと毛皮の温もりを通じて、二人の間の張り詰めた空気は少しずつ溶け始めているのだった。

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