第7話 魔導荷山盛
翌朝。
森のカフェしっぽっぽは、いつもより三割ほど慌ただしかった。
理由は単純。
地下に――
魔導商品が山ほどある。
「……やりすぎたな」
サトルは地下倉庫を見渡してつぶやいた。
昨日の魔導市で契約した大量の商品が、木箱ごと積み上がっている。
魔導ランタン。
魔力保存瓶。
自動保温カップ。
魔力反応スプーン。
地球では「オシャレ雑貨」として売る予定だが――
量が多い。
多すぎる。
「……これ全部、上に並べるのか」
サトルが遠い目をする。
すると後ろから声。
「サトルさーん」
ウェイトレスのみどりさんである。
「お客さんもう来てますよー」
「まだ開店前じゃない?」
「猫目当てです」
納得した。
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猫カフェの朝
一階。
店内にはすでに三人の客がいた。
猫カフェとしては、朝からなかなかの入りである。
イチはいつもの王様席――カウンターの上。
きなはクッションで丸まり。
トラは客の膝を占領。
チビは床の真ん中で通行妨害。
そして。
ジルは棚の後ろから半分だけ顔を出している。
臆病である。
極めて臆病である。
ロンは入口で寝ている。
番犬とは思えない。
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朝の悩み相談
常連の女性客がため息をついた。
「はぁ……」
サトルはコーヒーを出す。
「どうしました?」
女性は困った顔。
「最近、仕事が忙しくて……」
「ああ」
よくある相談だ。
するとトラが膝に乗る。
女性が撫でる。
「……癒やされる」
即効性が高い。
サトルは笑う。
「猫の効果ですね」
その時。
チビが机にジャンプ。
カップに頭を突っ込む。
「ちょっ!」
コーヒーの匂いを嗅いで満足したらしい。
去る。
自由すぎる。
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地下の問題
その頃。
地下。
木箱が一つ、光っていた。
魔導ランタン箱。
昨日の試作品の同型。
ぽん。
小さな音。
ランタンが浮く。
誰もいない。
ゆっくり浮く。
くるくる回る。
そして。
階段を登り始める。
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異常発生
一階。
サトルはふと違和感を感じた。
「……ん?」
みどりさんも気づく。
「なんか光ってません?」
階段の下。
ぼんやり光。
ゆっくり。
魔導ランタンが浮かび上がる。
「……」
「……」
「……」
客が言う。
「おしゃれな照明ですね」
違う。
違うのだ。
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猫たちの反応
イチは見ている。
王の余裕。
きなは寝ている。
トラは膝の上。
チビはランタンを発見。
目が光る。
「やめろ!」
サトルが叫ぶ。
遅い。
チビがジャンプ。
ぺし。
ランタンが回転。
ぴかー。
店内が一瞬だけ幻想的になる。
客が拍手。
「すごーい」
違う。
演出ではない。
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大混乱
ランタンは逃げる。
チビ追う。
トラ参戦。
きな起きる。
ジルはパニック。
棚の奥へダッシュ。
ロンだけ寝ている。
サトルは頭を抱える。
「異世界の品は地上で暴れるなぁぁ!」
みどりさんは笑っている。
「猫のおもちゃですね」
確かに。
結果的にはそうなっている。
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捕獲作戦
ランタンは店内をぐるぐる。
猫四匹が追う。
客が笑う。
完全に猫ショーである。
サトルは地下から魔力遮断布を持ってくる。
タイミングを測る。
ランタンが旋回。
チビが飛ぶ。
トラがぶつかる。
その瞬間。
ばさっ。
布を被せる。
光が止まる。
静寂。
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客の反応
客が拍手する。
「すごーい!」
「ショーだったんですか?」
サトルは一瞬考える。
そして。
「……はい」
営業スマイル。
みどりさんが言う。
「毎日ではないです」
当たり前だ。
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その後
地下。
サトルはランタン箱を見る。
まだ数十個ある。
「……封印だな」
魔力遮断布で全部包む。
ガルドに文句を言う必要がある。
蜥蜴人族の商人め。
試作品を混ぜやがった。
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地上の平和
一階に戻る。
猫たちは満足そうだ。
イチだけ王の顔。
ジルはまだ震えている。
サトルは座る。
コーヒーを飲む。
みどりさんが笑う。
「今日も平和ですね」
サトルは遠くを見る。
地下には異世界。
箱いっぱいの魔導商品。
そして暴れるランタン。
「……嵐の前の平和だな」
その瞬間。
地下からまたぽんという音。
サトルは天井を見上げた。
「……頼むから今日はやめてくれ」
だが。
しっぽっぽの一日は、まだ始まったばかりだった。




