第28話 地下市場騒動
翌日の朝。
**森のカフェしっぽっぽ**は、いつものように静かな朝を迎えていた。
窓から入る光。
コーヒーの香り。
そして猫の寝息。
棚の上ではイチが丸くなっている。
「にゃ」
きなはソファで熟睡。
トラは干し魚の棚の前で待機している。
チビは通路の真ん中で大の字。
ジルはカーテンの影から顔を出している。
ロンは入口マットの上で尻尾を振っていた。
みどりが掃除をしている。
「サトルさーん」
「ん?」
サトルはカウンターでコーヒー豆を挽いていた。
「香り袋、あと三つしかないです」
「そんなに売れたか」
昨日はかなり売れた。
魔導士族の香り袋は予想以上の人気だった。
みどりが言う。
「今日も売れそうですよ」
「だな」
サトルは時計を見た。
「よし」
立ち上がる。
「仕入れ行く」
みどりが目を輝かせる。
「異世界!」
「そう」
サトルは地下への扉を開けた。
階段を降りる。
地下の倉庫。
段ボールや資材が並ぶ。
その奥。
小さなショースペース。
そして古い扉。
サトルがノブを回す。
ギィ……。
扉の向こうには――
異世界の市場が広がっていた。
石畳の道。
屋台。
鍛冶の音。
香辛料の匂い。
そして多くの種族。
「サトル!」
声をかけてきたのは大柄な男。
鉱人族だ。
「久しぶり」
「香り袋売れたか?」
「売れた」
鉱人族は豪快に笑った。
「そりゃいい!」
サトルは市場を歩く。
その時。
長い耳の女性が近づいてきた。
「サトル様」
森人族だった。
「今日は何を?」
「香り袋追加」
「それなら――」
彼女は奥を指差す。
そこには小さな工房があった。
中にはローブ姿の人物。
魔導士族。
「サトル」
「久しぶり」
「袋売れた?」
「大人気」
魔導士族は満足そうに頷いた。
「良かった」
その時。
外から声がした。
「サトルー!」
振り向くと、小柄な影が走ってくる。
猫耳と尻尾。
森猫族だ。
「新しいのある!」
「またか」
「猫用!」
箱を開ける。
中には――
ふわふわの毛玉のような玩具。
「これは?」
「転がすと光る!」
森猫族が転がす。
ころころ。
ぽわっと光る。
サトルが笑う。
「猫が絶対遊ぶな」
「でしょ!」
その時。
別の屋台から声がした。
「サトル!」
鱗のある男。
蜥蜴人族だ。
「干し魚どうだ!」
「もう人気」
「今日は特別品ある!」
大きな干し魚を見せる。
「猫が狂う!」
「物騒な言い方だな」
市場は今日も賑やかだった。
だが――
突然。
ドン!
大きな音がした。
「なんだ?」
人だかりができている。
サトルが近づく。
そこには――
巨大な荷車。
そして大量の箱。
鉱人族が頭を抱えていた。
「やっちまった」
「何が」
「鈴の箱が崩れた」
地面には大量の鈴。
しかも――
全部鳴っている。
チリンチリンチリンチリン。
市場中に響く。
すると――
近くの猫がゴロン。
犬もゴロン。
通りすがりの人まで少し脱力。
森猫族が言った。
「効きすぎ!」
魔導士族が呟く。
「共鳴してる」
鈴の効果が強くなっている。
市場のあちこちで人が座り込んでいた。
「落ち着く〜」
「眠い」
サトルが言う。
「止めろ」
鉱人族が慌てて鈴を拾う。
チリン。
また鳴る。
「だから鳴らすな!」
市場はちょっとした騒ぎになった。
やっと全部回収した頃。
鉱人族はため息をついた。
「危ねえ」
サトルは笑った。
「いい宣伝になった」
「確かに」
森猫族も笑う。
「鈴売れる!」
サトルは商品をまとめた。
香り袋。
猫玩具。
干し魚。
そして鈴。
「また来る」
「おう!」
サトルは扉へ戻る。
ギィ。
地下倉庫へ帰ってきた。
階段を上がる。
店に戻ると、みどりが待っていた。
「おかえりなさい!」
「新商品」
箱を開ける。
猫たちが一斉に集まった。
トラ。
チビ。
きな。
ジル。
ロン。
そしてイチ。
サトルは毛玉玩具を転がした。
ころころ。
ぽわっと光る。
トラが飛びつく。
チビも追いかける。
きなも走る。
ジルも勇気を出して追う。
ロンも走る。
みどりが笑った。
「大騒ぎ!」
サトルは言った。
「これは売れる」
その時。
カラン。
ドアベルが鳴った。
客が入ってきた。
「こんにちは」
サトルは微笑む。
「いらっしゃい」
そして心の中で思った。
(今日はまた面白くなりそうだ)
**森のカフェしっぽっぽ**は今日も、
猫と異世界の商品で賑やかになるのだった。




