第27話 魔法袋の効果
夕方の**森のカフェしっぽっぽ**。
窓から差し込む光が少しずつオレンジ色になり、店の中は落ち着いた雰囲気に包まれていた。
カウンターの上には、今日の売れ筋商品が並んでいる。
小さな鈴。
香り袋。
猫用干し魚。
すべて異世界仕入れの品だ。
特に人気なのは――香り袋だった。
袋から漂う、ほんのり甘くて落ち着く香り。
実はこれは、魔導士族が調合した魔法の香り袋である。
もっとも、サトルはそんな説明はしない。
ただの「香り雑貨」という扱いだ。
カウンターの前ではみどりが在庫を確認していた。
「サトルさん」
「ん?」
「香り袋、もう半分しかないですよ」
「早いな」
サトルはコーヒーを飲みながら言う。
店内では猫たちがくつろいでいる。
棚の上ではイチが座っている。
まるで店の監督のようだ。
「にゃ」
きなはソファで丸くなっている。
トラは干し魚の棚の前に座り込み、完全に狙っている。
チビは客の足元で寝ている。
ジルは相変わらず少し遠くから様子を見ている。
ロンは入口マットの上でのんびりしている。
その時。
カラン。
ドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー」
みどりが笑顔で迎える。
入ってきたのは、少し疲れた様子の女性だった。
仕事帰りらしい。
「こんにちは…」
「どうぞこちらへ」
窓際の席へ案内する。
女性が座ると、猫たちが接客モードに入る。
トコトコ。
チビが来る。
そして――
膝へジャンプ。
「わっ」
女性が驚く。
チビはそのまま丸くなった。
「寝た」
女性は思わず笑った。
「重いけど…可愛い」
その時。
トラもやってきた。
足元でゴロン。
腹を見せる。
「サービス精神すごいですね」
サトルがコーヒーを持ってきた。
「仕事だから」
女性はコーヒーを受け取った。
少しだけ表情が和らいだ。
「ありがとうございます」
その時、女性の目が棚を見た。
「これ…?」
香り袋だった。
小さな布袋。
優しい森の香りがする。
みどりが説明する。
「新商品なんです」
「いい匂い…」
女性は少しだけ笑った。
「なんか安心しますね」
サトルは袋を一つ渡した。
「試してみて」
女性が手に取る。
その瞬間。
ふわっと香りが広がる。
女性の肩の力が抜けた。
「……あ」
「どうした?」
「なんか…」
女性は目を閉じた。
「気持ちが落ち着く」
サトルは内心で頷く。
(効いてる)
この袋は魔導士族が作ったもの。
精神を落ち着かせる効果がある。
その時。
カーテンの裏からジルが出てきた。
そっと女性の横に座る。
「この子は?」
「ジル」
「恥ずかしがり屋?」
「かなり」
女性がそっと撫でる。
ジルは少し驚いたが逃げない。
「にゃ」
女性は笑った。
「私と同じだ」
サトルが聞く。
「何が」
「人と話すの苦手なんです」
女性は香り袋を見つめた。
「最近、仕事が忙しくて」
「うん」
「ずっとピリピリしてて」
その時。
ロンがやってきた。
女性の足元に座る。
尻尾ブンブン。
女性が笑った。
「犬まで来た」
トラは腹を見せたまま。
チビは熟睡。
ジルは撫でられている。
女性は言った。
「ここ、すごいですね」
「普通の猫カフェ」
サトルはそう言う。
女性は香り袋を握った。
「これ買えますか?」
「売ってる」
「じゃあ一つ」
みどりが袋に入れる。
「ありがとうございます」
女性は立ち上がった。
そして少しだけ明るい顔で言った。
「また来ます」
「どうぞ」
ドアが閉まる。
カラン。
店に静けさが戻る。
みどりが言う。
「効いてましたね」
「効いてた」
棚の上でイチが言う。
「にゃ」
トラはまだ腹を出している。
チビは爆睡。
きなも寝ている。
ジルはカーテンの裏へ戻った。
ロンは入口で伸びをした。
サトルは香り袋を一つ手に取った。
「これは売れるな」
みどりが笑う。
「次の仕入れですね」
サトルは地下への扉をちらっと見た。
その向こうには異世界の市場。
森猫族の村。
魔導士族の工房。
蜥蜴人族の干し魚屋。
まだまだ面白い品がある。
サトルは小さく呟いた。
「今度は何持ってくるかな」
今日も**森のカフェしっぽっぽ**には、
猫と、
少しの異世界の魔法があった。




