第25話 異世界の新商品
昼下がりの**森のカフェしっぽっぽ**。
窓から柔らかな光が差し込み、店内はのんびりとした空気に包まれていた。
棚の上ではイチがいつものように店長のような顔で座っている。
「にゃ」
ソファではきなが丸くなって寝ている。
トラは床でお腹を出してゴロン。
チビは通路の真ん中で大の字だ。
相変わらず完全に邪魔である。
カーテンの裏からはジルがそっと様子を見ている。
臆病者だが、最近は少しずつ店の中央にも出てくるようになった。
入口のマットでは犬のロンが尻尾を振っている。
サトルはカウンターの奥でコーヒー豆を挽いていた。
「静かだな」
みどりが言う。
「ですねー」
店内には今のところ客はいない。
猫たちは完全に昼寝モードである。
その時。
サトルはふと時計を見た。
「……そろそろか」
みどりが首をかしげる。
「何がです?」
サトルはにやっと笑った。
「仕入れ」
みどりの目が輝く。
「異世界ですか!」
「そう」
サトルはカウンターの奥にある小さな扉を見た。
それは地下へ続く扉。
普段は資材置き場になっている地下倉庫。
しかし――
その奥には異世界へ繋がる扉がある。
「ちょっと行ってくる」
「わー!」
みどりはもう慣れているが、それでも少しワクワクする。
サトルは階段を降りていった。
地下倉庫。
段ボールや資材が置かれている。
そして奥。
小さなショースペースの奥にある古い扉。
サトルがノブを回す。
ギィ……。
扉の向こうは――
異世界の市場だった。
石畳の広場。
木造の店。
香辛料の匂い。
金属を打つ音。
そして――
異世界の住人たち。
「おお!」
声をかけてきたのは大柄な男。
鉱人族だ。
「サトルじゃねえか!」
「久しぶり」
この市場はサトルの仕入れ先の一つだった。
サトルが歩いていくと、別の声が聞こえた。
「サトル様」
振り向くと、長い耳の女性がいた。
森人族。
「久しぶり」
「今日は何を?」
サトルは言った。
「猫カフェ向け商品」
森人族は少し考えた。
「猫?」
「そう」
その時。
屋台の奥から小柄な影が現れた。
「にゃ?」
それは――
森猫族。
猫の耳と尻尾を持つ小さな種族だ。
サトルは笑った。
「いいのある?」
森猫族の青年は箱を持ってきた。
「これ!」
箱の中には小さな鈴。
だが普通の鈴ではない。
チリン……。
とても綺麗な音がした。
「これは?」
「森の鈴!」
森猫族が説明する。
「鳴らすと落ち着く!」
「ほう」
「子猫がよく寝る!」
サトルは笑った。
「うちの猫にも良さそうだ」
さらに別の店へ行く。
そこにいたのはローブ姿の男。
魔導士族だ。
「サトル」
「久しぶり」
「新作ある」
魔導士族が小さな袋を出した。
「これは?」
「香り袋」
袋からほのかに甘い香りがする。
「何の効果?」
「気分が落ち着く」
サトルは頷いた。
「それも貰おう」
さらに歩く。
池の近くでは鱗のある男が魚を売っていた。
蜥蜴人族。
「サトル!」
「元気そう」
「今日は干し魚どうだ?」
「猫が喜ぶ?」
「絶対!」
サトルは笑った。
「じゃあそれも」
こうして――
鈴。
香り袋。
干し魚。
いろいろ仕入れた。
「また来る」
「おう!」
市場の声を背に、サトルは扉をくぐった。
地下倉庫。
戻ってきた。
箱を持って階段を上がる。
店に戻ると、みどりが待っていた。
「おかえりなさい!」
「新商品」
箱を開ける。
その瞬間。
猫たちが起きた。
トラが近づく。
チビも来る。
きなも起きた。
ジルは遠くから見ている。
ロンも来た。
「おお」
サトルは鈴を鳴らした。
チリン。
とても優しい音。
猫たちが一斉に――
ゴロン。
寝た。
みどりが驚いた。
「早っ!」
チビは完全に熟睡。
トラも寝た。
きなも寝た。
ジルは近づいて――
安心したように丸くなった。
ロンまで横になった。
サトルは言った。
「これは売れる」
みどりが笑った。
「絶対売れます!」
サトルは棚に商品を並べた。
異世界の鈴。
異世界の香り袋。
猫用干し魚。
その時。
カラン。
ドアベルが鳴った。
客が入ってきた。
「こんにちは」
サトルは微笑んだ。
「いらっしゃい」
そして心の中で思う。
(新商品、試してみるか)
**森のカフェしっぽっぽ**は今日も、
猫と異世界の商品で少し不思議な時間を売っているのだった。




