第24話 青石のお守り
数日後の午後。
**森のカフェしっぽっぽ**は、穏やかな空気に包まれていた。
窓からは柔らかい光。
コーヒーの香り。
そして猫の寝息。
棚の上ではイチがいつものように店長顔で座っている。
「にゃ」
ソファではきなが丸くなっている。
「にゃー」
トラは床でゴロン。
チビは通路のど真ん中で寝ている。
完全に邪魔である。
カーテンの影にはジル。
相変わらず少し臆病。
「にゃ……」
入口では犬のロンが尻尾を振っていた。
その時。
カラン。
ドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー」
みどりが元気に迎える。
入ってきたのは――
「こんにちは」
あの男性だった。
数日前に来た客。
みどりが気づく。
「あ、この前の!」
男性は少し笑った。
「また来ちゃいました」
その声を聞いて、サトルがカウンターから顔を出した。
「久しぶり」
「まだ数日ですけどね」
男性は窓際の席に座った。
すると猫たちが動き始める。
まず来たのはトラ。
トコトコ歩いて――
ゴロン。
また腹を見せている。
男性は笑った。
「覚えてくれてるのかな」
その時。
チビがジャンプ。
膝の上に着地。
「おっと」
丸くなって寝始めた。
完全に前回と同じだ。
サトルがコーヒーを持ってきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
男性はコーヒーを受け取りながら言った。
「実は、ちょっと報告があって」
「報告?」
男性はポケットから小さな袋を出した。
中には――
あの青い石。
サトルが渡したお守りだ。
「まだ持ってるんだ」
「はい」
男性は少し照れながら言った。
「仕事中、机に置いてるんです」
「ほう」
「見ると落ち着くんですよ」
男性は続けた。
「それで……」
少し言いにくそうにする。
「上司とちゃんと話してみたんです」
サトルは静かに聞いている。
「自分の考えとか、困ってることとか」
「うん」
「そしたら……」
男性は笑った。
「意外とちゃんと聞いてくれて」
みどりも聞いていた。
「よかったですね!」
「はい」
男性は言った。
「なんか、勝手に怖がってただけだったみたいです」
その時。
カーテンの影からジルが出てきた。
そっと男性の横に座る。
男性が笑った。
「この子も同じですね」
「ジルか」
「怖いけど来る」
サトルは頷いた。
「それでいい」
男性は青い石を見た。
「これのおかげかもしれません」
サトルは肩をすくめた。
「猫の力」
その時。
ロンがやってきた。
男性の足元で座る。
尻尾ブンブン。
「ロンも覚えてるのかな」
男性が撫でると、ロンは嬉しそうに目を細めた。
しばらく店は静かだった。
猫のゴロゴロ音だけが響く。
男性は言った。
「実はもう一つ相談があって」
「なんだ」
「同僚が、ちょっと落ち込んでて」
「うん」
「この店、紹介してもいいですか?」
みどりが笑った。
「もちろん!」
サトルも頷いた。
「猫は多い」
「それがいいんです」
男性は笑った。
その時。
棚からイチが降りてきた。
トコトコ歩いてテーブルに飛び乗る。
「にゃ」
男性が笑う。
「この子が店長ですよね」
「そう」
イチは堂々としている。
まるで「当然だ」と言っているようだ。
男性は青い石をポケットにしまった。
「また来ます」
「どうぞ」
帰り際。
男性は振り返った。
「ここ、不思議な店ですね」
サトルが言う。
「普通の猫カフェ」
みどりが笑う。
「ちょっとだけ相談も聞きます」
男性は言った。
「あと……」
「うん?」
「なんか安心する」
サトルは軽く手を振った。
「猫がいるから」
ドアが閉まる。
カラン。
店内に静けさが戻る。
みどりが言った。
「いい話でしたね」
サトルはコーヒーを飲む。
「そうだな」
棚の上でイチが言う。
「にゃ」
きなは寝ている。
トラも寝ている。
チビも寝ている。
ジルはまたカーテンの影。
ロンは入口で大の字。
サトルは小さく呟いた。
「青石、もう少し持ってくるか」
それは異世界の森で採れる、小さな魔力石。
森猫族の村でよく使われる、心を落ち着ける石だ。
もちろん、地球の人にはただの石に見える。
だが。
ほんの少しだけ。
心を軽くする力がある。
サトルは地下への扉をちらっと見た。
「今度仕入れてくるか」
**森のカフェしっぽっぽ**には今日も、
猫と、少しの不思議があるのだった。




