第23話 猫と魔法の相談室
朝の光がやわらかく差し込む。
木の床。
小さなテーブル。
棚には色とりどりの手作り小物。
ここは――**森のカフェしっぽっぽ**。
就労支援B型事業所でもあり、猫カフェでもある、少し不思議な店だ。
棚には利用者が作った作品が並ぶ。
猫型のストラップ。
木製のコースター。
編みぐるみ。
そして――
さりげなく混ざっている**異世界の品**。
青く光る小石。
魔力がほんのり残る木彫り。
不思議な模様の布。
だが、それを知っているのはサトルだけだ。
店のカウンターでは、サトルがコーヒーを淹れていた。
五十代後半。
落ち着いた初老の男。
「ふう」
静かな朝だ。
店内では猫たちがいつものようにくつろいでいる。
棚の上ではイチが王様のように座っている。
「にゃ」
ソファではきなが丸くなっている。
「にゃー」
トラは床でゴロン。
チビは通路の真ん中で寝ている。
完全に邪魔である。
そして――
カーテンの影。
そこからこっそり顔を出しているのがジル。
臆病者だ。
「にゃ……」
入口では犬のロンが尻尾を振っている。
その時。
カラン。
ドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー」
元気に迎えたのはウェイトレスのみどり。
入ってきたのは三十代くらいの男性だった。
少し疲れた顔をしている。
「どうぞこちらへ」
窓際の席へ案内する。
男性が座ると、猫たちが動いた。
トコトコ。
トラがやってくる。
そして足元で――
ゴロン。
男性が驚く。
「え」
トラは完全にくつろいでいる。
男性は思わず笑った。
「猫って自由ですね」
サトルがコーヒーを持ってきた。
「それが仕事だから」
男性はカップを受け取った。
「ありがとうございます」
少し沈黙。
店の中は静かだ。
木の匂い。
コーヒーの香り。
猫のゴロゴロ音。
男性はぽつりと言った。
「実は……」
「うん」
「最近、仕事がうまくいかなくて」
サトルは静かに聞いている。
「頑張ってるんですけど」
「うん」
「評価されないというか」
その時。
トコトコ。
チビが来た。
そして――
膝にジャンプ。
「おっと」
チビは丸くなって寝た。
男性は苦笑した。
「重い」
サトルが言う。
「チビは相談担当」
「そうなんですか」
男性はチビを撫でた。
ゴロゴロ音が響く。
その時。
サトルは棚から小さな瓶を取り出した。
「これ」
「?」
瓶の中には――
小さな青い石。
ほんのり光っている。
「きれいですね」
「石だ」
サトルは言った。
「珍しい石」
実はそれは、異世界で手に入れたものだった。
森猫族の村の近くで採れる小さな魔力石。
心を落ち着かせる効果がある。
もちろんサトルは詳しく説明しない。
「見てると落ち着く」
男性は瓶を見つめた。
青い光が静かに揺れる。
「……本当だ」
その時。
カーテンの影からジルが出てきた。
恐る恐る近づく。
男性の足元で座った。
「この子は?」
「ジル」
「恥ずかしがり屋?」
「かなり」
男性は優しく撫でた。
ジルは少し驚いたが逃げない。
「にゃ」
男性は笑った。
「自分みたいだ」
「どうして」
「人前苦手なんです」
サトルは頷いた。
「でも来てる」
「え?」
「この店に」
男性は少し考えた。
確かにそうだ。
外に出て、人と話している。
その時、ロンが近づいた。
尻尾を振る。
「犬もいるんですね」
「ロン」
男性が撫でると、ロンは嬉しそうに尻尾を振った。
男性はコーヒーを飲んだ。
「……少し楽になりました」
サトルは言った。
「猫と石の効果」
みどりが笑う。
「また来てくださいね」
男性は立ち上がった。
「はい」
帰り際、棚を見た。
「この石……売ってますか?」
サトルは少し考えた。
「小さいのなら」
袋に入れて渡した。
「お守り」
男性は嬉しそうに受け取った。
「ありがとうございます」
ドアが閉まる。
カラン。
店に静けさが戻る。
サトルはカウンターに戻った。
みどりが聞く。
「その石、異世界のですよね?」
「そう」
「売っちゃっていいんですか?」
サトルはコーヒーを飲んだ。
「困ってる人に使うならいい」
棚の上でイチが言う。
「にゃ」
きなは寝ている。
トラも寝ている。
チビも寝ている。
ジルはまたカーテンの影。
ロンは入口で大の字。
サトルは静かに言った。
「異世界の品も、地球の悩みに役立つ」
その頃――
地下の倉庫では。
異世界の市場が今日も始まろうとしていた。
サトルは小さくつぶやく。
「次は何を持ってこようかな」
**森のカフェしっぽっぽ**は今日も、猫と少しの不思議で誰かの悩みを軽くしていた。




