第22話 発電機騒動
翌日の夜。
異世界市場は、いつもより少し静かだった。
……と言っても、静かなのは「比較的」という意味である。
屋台は並び、森猫族や兎人族の子供たちが走り回り、鉱人族の鍛冶屋が鉄を叩く音が響いている。
だが広場の中央では、みんながある人物を待っていた。
そう――サトルである。
「まだかなー」
退屈そうに地面に寝転んでいるのは森猫族のミャルだ。
尻尾をぱたぱたさせている。
頭には当然、ヘッドライト。
ピカ。
その横で腕を組んでいるのは魔導士族のアルト。
「そろそろ来る」
アルトは冷静だった。
その少し後ろでは、狼騎士族のレオガルドが真面目な顔で立っている。
「王城からも期待されている」
「プレッシャーかけないでよ」
ミャルが言った。
そこへ巨大な影がのっしのっしと歩いてきた。
牛鬼族のガルドだ。
今日も頭の角の間にライトがついている。
「肉」
「またそれ」
アルトが呆れた顔をした。
ガルドは言う。
「光があると肉がよく見える」
「便利だな」
その時だった。
倉庫の扉が――
ギィィィ……
開いた。
ミャルが跳ね起きた。
「来た!!」
現れたのはサトル。
だが今日はいつもと違った。
背後には――
巨大な機械。
「それ何!?」
ミャルが目を丸くする。
サトルは静かに言った。
「発電機」
沈黙。
アルトが聞いた。
「発電……?」
「電気を作る」
レオガルドが首を傾げた。
「電気?」
サトルは腕を組む。
「まあ見ろ」
サトルは発電機を地面に置いた。
そしてコードをつなぐ。
投光器。
ランタン。
ライト。
全部つなぐ。
ミャルが言う。
「いっぱいついてる」
サトルはスターターを引いた。
ブンッ!
ブロロロロロロロ!!
市場が驚いた。
「うおおお!?」
兎人族が飛び跳ねた。
森人族が耳を押さえる。
「なにこれ!?」
アルトが驚く。
「魔導機械!?」
サトルはスイッチを押した。
パチ。
次の瞬間――
ドォォォォン!!
市場が昼になった。
「まぶしいいい!!」
ミャルが叫ぶ。
レオガルドが目を覆う。
アルトも驚いている。
「光量が異常だ」
鉱人族のバルドが叫んだ。
「太陽か!?」
ガルドが言う。
「肉が完璧に見える」
サトルは頷いた。
「発電機」
その時だった。
森の奥から声が聞こえた。
「ぎゃあああ!!」
何かが転んだ音。
ドサドサドサ。
ミャルが耳を立てる。
「魔物?」
アルトがライトを向けた。
森の入口。
そこには――
黒い影。
巨大な体。
赤い目。
闇鬼族だった。
市場が凍りつく。
「魔物だ!!」
蜥蜴人族の探索隊が武器を構える。
レオガルドも剣を抜いた。
「全員下がれ!」
だがその瞬間。
サトルが言った。
「ライト」
全員が一斉にライトを向けた。
ピカァァァ!!
さらに。
投光器。
ピカァァァ!!
発電機。
ブロロロロ!!
完全な昼。
いや――
昼以上の光。
闇鬼族が叫んだ。
「まぶしいいいいい!!」
両目を押さえる。
後ろに転ぶ。
「ぎゃあああ!」
逃げた。
森の奥へ全力で。
沈黙。
市場が静まり返る。
ミャルが言った。
「……」
アルトが言った。
「……」
レオガルドが言った。
「……」
そして三人同時に言った。
「光強い」
サトルは腕を組んだ。
「発電機だ」
バルドが笑った。
「すごいなこれ」
ガルドが言う。
「肉安全」
その時。
静かな声が響いた。
「これは……」
振り向くと――
天人族の男が立っていた。
翼を広げ、光を見ている。
「太陽のようだ」
サトルは言う。
「ホームセンター」
男は少し笑った。
「あなたは面白い人だ」
そして市場を見渡す。
光。
光。
光。
「夜が消える」
ミャルが笑う。
「魔物かわいそう!」
その頃。
地上。
森のカフェしっぽっぽ。
みどりが店の電気を消していた。
「サトルさん遅いですね」
イチが棚の上で言う。
「にゃ」
きながソファで丸くなる。
「にゃー」
トラは爆睡。
チビは通路封鎖。
ジルはカーテンの影。
ロンは入口で寝ている。
みどりは笑った。
「また騒ぎですね」
一方、地下では。
サトルがメモを書いていた。
次の仕入れ。
・大型発電機
・工事用ライト
・キャンプ用バッテリー
サトルはつぶやく。
「異世界、明るくなりすぎだな」
その時。
森の奥から小さな声。
「……あそこ行きたくない……」
どうやら魔物たちは――
サトルの市場を太陽の地獄と呼び始めていた。




