第21話 光作戦会議
異世界市場の広場は、いつになく真面目な空気に包まれていた。
普段なら屋台の声や笑い声で賑わう場所だが、今日は違う。石畳の中央に円を作るようにして、様々な種族が集まっている。
もちろん中心にいるのは――サトルだった。
腕を組み、少し困った顔をしている。
「つまりだ」
サトルは静かに言った。
「魔物は光が苦手らしい」
その言葉に、周囲の者たちは一斉にうなずいた。
昨日、森の入口に現れた巨大な影。
だが市場の者たちが一斉にライトを向けた瞬間――
魔物は「まぶしいいい!」と叫んで逃げていったのだ。
あまりにも情けない退場だった。
「魔物、弱くない?」
そう言ったのは森猫族のミャルだ。
相変わらず元気である。
頭にはヘッドライト。
ピカ。
「油断するな」
そう言ったのは狼騎士族のレオガルドだ。
腕を組み、真面目な顔をしている。
「小型の魔物ならともかく、森の奥には危険な存在もいる」
「でも昨日逃げたよ?」
「まぶしかったからだ」
その横で魔導士族のアルトが頷いた。
「光は魔物の目に強く作用する」
アルトはサトルのヘッドライトを持ち上げた。
「この道具は非常に合理的だ」
「ホームセンターの品だけどな」
サトルは肩をすくめる。
すると巨大な影が前に出てきた。
牛鬼族のガルドだ。
もちろん頭には特製ヘッドライト。
角の間で光っている。
「肉を守る」
「肉?」
「魔物は肉を食う」
「なるほど」
その時、ずんぐりした体の男が前に出た。
鉱人族のバルドだ。
「作戦を考えるぞ」
バルドは地面にチョークで図を描いた。
「森」
丸を書く。
「村」
四角を書く。
「魔物」
謎のぐにゃぐにゃした線。
ミャルが言った。
「絵が下手」
「うるさい」
バルドは続ける。
「ここに光」
丸を書く。
「ここにも光」
また丸。
アルトが頷く。
「灯りの網だな」
森人族の女性も口を開いた。
「森の道に灯りを置けば、夜の安全が増す」
その時、サトルが言った。
「投光器」
全員が振り向く。
「何それ」
ミャルが聞いた。
サトルは段ボールを開けた。
「これ」
取り出したのは――
工事用LED投光器。
アルトが言う。
「大きい」
レオガルドが聞く。
「どれくらい明るい」
サトルはスイッチを押した。
カチ。
次の瞬間。
ドォン!!
昼。
完全に昼。
市場が昼になった。
「うわあああ!!」
ミャルが叫んだ。
アルトも目を押さえる。
「明るすぎる!」
ガルドが言う。
「肉が完璧に見える」
レオガルドが驚いた。
「これは城の塔に置ける」
蜥蜴人族の探索隊も集まってきた。
「洞窟入口に設置」
「安全」
兎人族の商人が言う。
「商隊も安心」
その時。
静かな声が響いた。
「やはり面白い」
振り向くと――
天人族の男が立っていた。
翼を畳み、静かに市場を見ている。
ミャルが小声で言う。
「また来た」
アルトが言う。
「珍しい」
男はサトルを見た。
「あなたは変わった人だ」
「そうか」
「世界を変える道具を売っている」
サトルは首をかいた。
「ホームセンターがすごいだけ」
男は少し笑った。
「それでも」
そして市場を見回す。
光。
光。
光。
ランタン。
ヘッドライト。
投光器。
「夜が変わる」
その言葉に、レオガルドが頷いた。
「確かに」
ミャルが手を挙げた。
「質問!」
「なんだ」
「魔物がもっと強かったら?」
沈黙。
アルトが言う。
「その時は」
サトルを見る。
「もっと明るい物を持ってくる」
全員がサトルを見た。
サトルは真顔だった。
「発電機」
「何それ」
「もっと明るくなる」
ミャルが笑った。
「魔物かわいそう!」
その頃。
地上の森のカフェしっぽっぽ。
みどりがカウンターを拭いていた。
「サトルさん、また変なことしてますよね」
イチが棚の上で言う。
「にゃ」
きながソファで伸びる。
「にゃー」
トラは寝ている。
チビは通路封鎖。
ジルはカーテンの影から顔を出す。
ロンは入口で尻尾を振る。
みどりは笑った。
「帰ってきたら聞きましょう」
その頃――
異世界市場。
サトルは新しいメモを書いていた。
次の仕入れ。
・発電機
・延長コード
・大型ライト
サトルは呟く。
「文明が進むな」
その時、森の奥から声が聞こえた。
「……まぶしい世界だ……」
どうやら魔物たちは――
すでにこの市場を危険地帯として認識し始めていた。




