第20話 頭光る族
異世界市場は、その夜――いつも以上に騒がしかった。
理由はもちろん、サトルが持ち込んだヘッドライトである。
石畳の広場には、頭にライトを装着した者たちが集まっていた。
ピカッ。
ピカッ。
ピカピカピカ。
まるで光るキノコの群れのようだ。
「すごーい!!」
大はしゃぎしているのは、森猫族のミャルだ。
頭にヘッドライトをつけ、走り回っている。
「手が空くよサトル!」
「だからそう言った」
サトルは腕を組んで頷いた。
その横では、魔導士族のアルトが感心している。
「これは素晴らしい」
「そうか」
「魔導灯より便利だ」
アルトは頭を上下に振ってみた。
ライトが揺れる。
「しかも軽い」
その後ろで――
蜥蜴人族の探索隊が集まっていた。
「洞窟調査に最適」
「両手で武器が持てる」
「素晴らしい」
三人同時購入。
その様子を見ていた鉱人族のバルドが言った。
「これは鉱山で売れるぞ」
「いくつ欲しい」
「三十」
「了解」
サトルはメモを書く。
すると突然――
「うおおおお!!」
大声が響いた。
振り向くと、鬼人族の戦士たちが並んでいる。
全員ヘッドライト装着。
そして叫んだ。
「光る頭族!!」
アルトが言う。
「新しい種族が誕生した」
サトルは頭を抱えた。
「違う」
ミャルは爆笑している。
「頭光る族だ!」
その時。
巨大な影が近づいてきた。
牛鬼族のガルドだ。
頭にヘッドライト。
だが――
角が邪魔。
ライトが変な角度になっている。
ミャルが笑う。
「曲がってる!」
ガルドが言う。
「角がある」
サトルは腕を組んだ。
「改造が必要だな」
そこへ現れたのが、鉱人族のバルド。
「任せろ」
工具を取り出す。
カンカンカン。
ガチャガチャ。
数分後。
「完成」
ガルドの角の間にライトが固定された。
ピカ。
「おお」
ガルドが感動している。
「完璧」
ミャルが拍手した。
「かっこいい!」
その時だった。
「サトル」
静かな声。
振り向くと、狼騎士族のレオガルドだ。
「どうした」
「王城から追加注文」
「もう?」
「もう」
「いくつ」
レオガルドは言った。
「二百」
ミャルが叫ぶ。
「増えてる!」
アルトが言う。
「軍備強化だな」
サトルはメモを書く。
「在庫足りない」
レオガルドが言う。
「城は急いでいる」
「理由は」
レオガルドは少し声を落とした。
「最近、夜の魔物が増えている」
ミャルが耳をピンと立てる。
「魔物?」
アルトも真顔になった。
「確かに報告はある」
蜥蜴人族の探索隊も頷いた。
「森の奥で見た」
「巨大な影」
その時。
市場の上空から声が聞こえた。
「光……」
皆が見上げる。
空に浮かぶ影。
翼を持つ存在。
天人族だった。
ゆっくり降りてくる。
市場が静まり返る。
天人族は滅多に現れないからだ。
男は地面に降りると、サトルを見た。
「また新しい道具」
「そう」
男はヘッドライトを見る。
「面白い」
ミャルが聞いた。
「ねえ」
「何だ」
「魔物って本当にいるの?」
男は少しだけ笑った。
「いる」
市場がざわめく。
アルトが聞く。
「どこに」
男は遠くの森を見た。
「夜の奥」
サトルは腕を組んだ。
「ライト売れるな」
レオガルドが言う。
「そこか」
ミャルが言う。
「サトルらしい」
その頃。
地上。
森のカフェしっぽっぽ。
みどりが店内を掃除していた。
「サトルさん遅いですね」
イチが棚の上から言う。
「にゃ」
きながソファで伸びる。
「にゃー」
トラは爆睡。
チビは通路封鎖。
ジルはカーテンの影。
ロンは入口で寝ている。
みどりが笑う。
「みんなサトルさん待ってるんですね」
地下では――
サトルが新しいメモを書いていた。
次の仕入れ。
・作業用ライト
・工事用投光器
・大型バッテリー
サトルはつぶやく。
「夜が明るくなるな」
その瞬間。
市場の奥から悲鳴が聞こえた。
「魔物だー!!」
全員が振り向く。
暗い森の入口。
そこに――
巨大な影が立っていた。
ミャルが震える。
「なにあれ」
アルトが呟く。
「魔物……?」
サトルは冷静だった。
そして言った。
「ライト持て」
市場中のライトが一斉に向いた。
ピカアアア!!
巨大な光。
その瞬間。
森の影が叫んだ。
「まぶしいいい!!」
逃げていった。
沈黙。
ミャルが言った。
「……」
アルトが言った。
「……」
レオガルドが言った。
「……」
そして全員で言った。
「ライト強い」
サトルは頷いた。
「売れるな」
こうして――
異世界には新しい戦術が生まれた。
ライト作戦である。




