第18話 王城の来訪者
光祭りで賑わう異世界の夜市。
ランタンや懐中電灯の光があちこちで揺れ、石畳の広場は昼間のように明るかった。
「きれいー!」
くるくるとランタンを振り回しているのは、森猫族のミャルだ。
「サトル見て見て! 星みたい!」
サトルは腕を組んで眺めている。
「振り回すな、壊れる」
「えー」
その隣では、魔導士族のアルトが真剣な顔で光を観察していた。
「やはり興味深い」
「何がだ」
話しかけたのは、鉱人族のバルドだ。
「魔力を使わない光源」
アルトは懐中電灯を掲げる。
「この“電池”という概念……」
「難しいこと考えてるな」
バルドはランタンを掲げた。
「明るけりゃいい」
その少し離れた場所では――
牛鬼族のガルドが地面を照らしていた。
「肉がよく見える」
満足そうである。
その時だった。
「サトル!!」
慌てた声が響いた。
走ってきたのは、狼騎士族のレオガルドだ。
「なんだ」
「来た」
「何が」
レオガルドは市場の入口を指さした。
「王城から使者だ」
市場のざわめきが一瞬で止まった。
入口からゆっくりと歩いてくる影。
白い鎧。
青いマント。
そして厳しい表情。
獅子騎士族の騎士だった。
ミャルが小声で言う。
「王城の騎士……」
アルトも驚く。
「珍しい」
騎士は広場の中央まで歩いてきた。
そして周囲を見回す。
光。
光。
光。
夜なのに昼のような明るさ。
騎士は静かに言った。
「誰だ」
沈黙。
レオガルドがサトルを見る。
「……」
ミャルも見る。
アルトも見る。
ガルドも見る。
全員の視線が**サトル**に集まった。
サトルは頭をかいた。
「俺かな」
騎士が近づいてくる。
ガシャン。
鎧の音が響く。
「あなたがサトルか」
「そうだ」
「王城より伝令」
騎士は真面目な顔で言った。
「この光の道具について話がある」
ミャルが耳を立てる。
「怒られる?」
レオガルドが小声で言う。
「多分」
騎士はサトルの前に立つ。
「この光の道具」
懐中電灯を持ち上げる。
「城でも使いたい」
沈黙。
ミャルが言った。
「え?」
アルトが言った。
「え?」
レオガルドが言った。
「え?」
騎士は真顔だった。
「夜警の視界が広がる」
「なるほど」
サトルは腕を組む。
「いくつ欲しい」
騎士は即答した。
「百」
ミャルが叫んだ。
「百!?」
アルトが言う。
「国家規模」
バルドが笑う。
「大商売だな」
その時、後ろから巨大な声。
「俺も欲しい!!」
振り向く。
鬼人族の戦士たちだ。
「光武器だ!」
「強そう!」
さらに。
「森でも使う!」
森人族の集団。
「洞窟でも使う!」
蜥蜴人族の探索隊。
市場が再び騒ぎ出した。
レオガルドが頭を抱える。
「サトル」
「なんだ」
「また大事になっている」
サトルは段ボールを見る。
「在庫足りないな」
ミャルが聞く。
「どうするの?」
サトルはニヤリと笑った。
「地上に取りに行く」
アルトが言う。
「また新商品か」
「そう」
サトルはメモを出した。
次の仕入れ。
・大型ランタン
・ソーラーライト
・作業用ヘッドライト
ガルドが聞く。
「肉は?」
「ない」
「帰る」
その時だった。
市場の上空から声が響く。
「光……」
全員が空を見る。
そこには――
翼を持つ影。
天人族だった。
昼間に来た男だ。
空からゆっくり降りてくる。
市場が静まり返る。
天人族は珍しい存在だからだ。
男はサトルを見て微笑んだ。
「やはり面白い」
「何が」
「この世界が変わる」
ミャルが小声で言う。
「何が変わるの?」
男は空を見上げた。
「夜だ」
そして静かに言った。
「夜が、明るくなる」
その言葉の通り――
サトルの持ち込む商品は、少しずつ異世界を変えていく。
その頃。
地上の**森のカフェしっぽっぽ**。
みどりが猫たちに話しかけていた。
「サトルさん、今頃何してるんでしょうね」
イチが言う。
「にゃ」
きなが言う。
「にゃー」
ジルはカーテンの影。
トラは爆睡。
チビは通路封鎖。
ロンは入口で大の字。
地下ではサトルが呟いていた。
「ライト足りないな」
そして笑う。
「明日はホームセンターだ」
異世界の文明は――
今日も少しだけ進んでいた。




