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森のカフェしっぽっぽ  作者: 森のカフェしっぽっぽ


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第15話 猫の接客術

 朝の光が差し込むころ、森のカフェしっぽっぽはゆっくりと目を覚ます。


 店主のサトルは、店の前に立って大きく伸びをした。


「よし、今日も一日が始まるな」


 五十代後半の体は、朝になると少しだけ固い。

 昨日は地下の異世界市場で騒ぎがあったので、なおさら肩が重い。


「俺もマッサージ機使えばよかったかな……」


 そんなことをぼやきながらシャッターを開ける。


 ガラガラガラ。


 すると後ろから声がした。


「おはようございます、サトルさん」


 ウェイトレスのみどりだ。エプロン姿で、すでにやる気満々である。


「おはよう」


「今日は予約が三組あります」


「お、珍しいな」


「最近ちょっと評判いいんですよ」


 みどりはニヤリと笑う。


「猫が可愛いからじゃないか?」


「それもありますけど」


「それも?」


「相談できる猫カフェって、口コミ広がってるみたいです」


 サトルは少し照れくさそうに頭をかいた。


「相談ねぇ……」


 この店には、なぜか悩みを抱えた人がよく来る。


 そしてなぜか、猫たちがうまく解決してしまうのだ。


「まあ猫のおかげだな」


 店の奥を見る。


 そこには――


 猫たちが転がっていた。


 イチは棚の上。

 きなは椅子の上。

 ジルはカーテンの裏。

 トラは床。

 チビは通路の真ん中。


 そして犬のロンは入口で寝ている。


「起きろー」


 サトルが声をかける。


「にゃ」


 イチが片目だけ開けた。


「営業だぞ」


「にゃー」


 きなが伸びをする。


 ジルはまだカーテンの影で震えている。


「にゃ……」


 トラはゴロゴロ転がる。


 チビは微動だにしない。


 ロンは腹を見せて寝ている。


「お前ら働け」


 するとみどりが言った。


「猫は働かなくてもいいんです」


「いいのか?」


「存在が仕事です」


「なるほど」


 その時、入口のベルが鳴った。


 チリン。


「いらっしゃいませー」


 入ってきたのは、二十代くらいの女性だった。


 スーツ姿だが、少し疲れた顔をしている。


 みどりが案内する。


「こちらへどうぞ」


 女性は席に座り、店内を見回す。


「猫カフェ……初めてなんです」


 サトルがコーヒーを持ってきた。


「ゆっくりしていってください」


「ありがとうございます」


 女性はコーヒーを飲む。


 少しだけ表情が緩んだ。


 すると――


 トコトコ。


 きなが歩いてきた。


「にゃー」


 女性の膝にぴょんと乗る。


「わっ」


「この子、きなです」


 みどりが説明する。


「甘え上手なんですよ」


 きなは女性の膝で丸くなった。


 ゴロゴロ。


「かわいい……」


 女性の顔が少し柔らかくなる。


 すると棚の上からイチが見ている。


 王様のような顔だ。


 その様子をサトルは観察していた。


(今日はきなが担当か)


 この店では、なぜか猫が悩みの深い客を見抜く。


 そして接客担当を決める。


 完全に猫任せだ。


 しばらくして女性がぽつりと言った。


「仕事がうまくいかなくて」


 みどりが静かに聞く。


「そうなんですね」


「営業なんですけど……」


「うんうん」


「全然売れなくて」


 きなが女性の手をペロペロ舐める。


「にゃ」


 女性は少し笑った。


「なんか……慰めてくれてるみたい」


 サトルが言う。


「その子、空気読むんですよ」


「本当に?」


「多分」


 すると今度は――


 トラが来た。


 どさっと女性の足元に寝転ぶ。


「にゃあ」


 完全にやる気ゼロである。


 女性が笑う。


「この子やる気ないですね」


「トラはマイペースなんです」


「いいなぁ……」


 女性はぽつりと言う。


「私もこんな風に生きたい」


 その時だった。


 通路をチビが塞いだ。


「……」


「通れない」


 女性が笑う。


「この子、邪魔してますよ?」


「それが仕事です」


「仕事?」


「人を止める係」


「そんな係あるんですか」


 サトルが真顔で言う。


「この店にはあります」


 女性は声を出して笑った。


 その笑い声を聞いて――


 カーテンの影からジルが顔を出した。


「にゃ…」


 臆病な猫だ。


 そろそろと近づく。


「この子は?」


 女性が聞く。


「ジル」


「怖がり?」


「めちゃくちゃ怖がり」


 ジルは女性の足元に座った。


 少し震えている。


「かわいい……」


 女性は優しく撫でる。


 ジルは逃げない。


 サトルは腕を組んだ。


(今日はジルも参加か)


 女性が言った。


「この子、私みたい」


「ジルが?」


「私も怖がりなんです」


 少し沈黙。


 女性が続ける。


「営業なのに、人と話すの怖いんです」


 サトルはコーヒーを飲む。


「向いてない仕事って思う?」


「思います」


「でも続けてる」


「辞める勇気もないんです」


 その時。


 ジルが女性の膝に乗った。


「にゃ」


「え?」


 みどりが驚く。


「ジルが乗った」


 サトルも目を丸くした。


「珍しい」


 ジルは臆病だ。


 普通は人に近づかない。


 女性が優しく撫でる。


「怖いけど……来てくれたんだね」


 ジルは小さく鳴いた。


「にゃ」


 サトルは笑った。


「それが答えかもな」


「え?」


「怖くても、ちょっとだけ前に出る」


 女性はジルを見る。


 ジルはまだ少し震えている。


 それでも逃げない。


 女性が小さく笑った。


「……私も頑張ってみます」


 その時。


 入口のロンが吠えた。


「わん!」


 次の客が来たらしい。


 みどりが言う。


「忙しくなりそうですね」


 サトルは猫たちを見る。


「今日はフルメンバーだな」


 猫カフェ森のカフェしっぽっぽ。


 ここは猫が接客し、

 店主はコーヒーを入れるだけの店である。


 ただし地下では――


 異世界市場が今日もサトルを待っている。


「今日は何売るかな」


 サトルはつぶやいた。


 するとイチが言う。


「にゃ」


 まるでこう言っているようだった。


 また騒ぎになるぞ。

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