第14話 筋肉ブーム来る
翌日の夜。
**森のカフェしっぽっぽ**の営業が終わった。
最後の客が帰り、店内にはコーヒーの香りだけが残っている。
「ふぅ……」
カウンターの中で、サトルは背伸びをした。
「今日も平和だったな」
すると後ろから声がする。
「サトルさん」
ウェイトレスのみどりだ。
「なんだい」
「昨日も地下行ってましたよね」
「行ってたな」
「怪しいことしてません?」
「してない」
即答だった。
みどりはじっとサトルを見る。
「本当に?」
「本当に」
「地下に誰か住んでるとか」
「住んでない」
「密輸とか」
「してない」
「異世界とか」
「……」
サトルは咳払いした。
「戸締まり頼む」
「話そらしましたね」
みどりが呆れている間に、サトルは地下へ向かった。
階段を降りる。
すると当然のように後ろから足音がついてくる。
「にゃ」
イチ。
「にゃー」
きな。
「にゃ……」
ジル。
「にゃあ!」
トラ。
「……」
チビ。
「わん」
ロン。
「お前ら完全にレギュラーだな」
サトルは苦笑しながら地下の扉を開けた。
ギィ……
その瞬間、空気が変わる。
そこは異世界の市場。
夜なのに人――いや**異世界人**で賑わっている。
サトルの姿を見た瞬間、叫び声が上がった。
「サトル来たーー!!」
走ってきたのは猫耳少女。
森猫族のミャル。
「持ってきた!? あれ持ってきた!?」
「落ち着け」
「肩ブルブルのやつ!」
「正式名称マッサージ機」
すると後ろから声がする。
「サトル」
ローブ姿の青年。
魔導士族のアルト。
「今日は新しい商品があると聞いた」
「ある」
サトルは段ボールを置いた。
ガサガサ。
中から出てきたのは――
**腹筋ローラー**。
「これは何だ」
ミャルが聞く。
「筋トレ器具」
「筋トレ?」
「体を鍛える」
すると後ろから巨大な影が現れた。
牛鬼族のガルドだ。
「鍛える?」
「そう」
「俺の出番だな」
サトルはローラーを床に置く。
「こうやる」
ゴロゴロ……
前に転がして戻る。
ミャルが目を丸くする。
「それだけ?」
「それだけ」
ガルドが挑戦した。
「ふん」
ゴロッ。
その瞬間。
ガルドの顔が歪んだ。
「……!」
プルプル震える。
戻れない。
倒れる。
ドーン!!
市場が揺れた。
「弱っ」
ミャルが言った。
「違う」
ガルドが起き上がる。
「これは……効く」
アルトが言う。
「魔力を使わず肉体を鍛える……」
「そう」
そこへ小柄な男が来た。
鉱人族のバルド。
「面白そうだな」
挑戦。
ゴロッ。
「……」
プルプル。
バタン。
「無理だ!!」
すると観客が集まる。
蜥蜴人族
森人族
兎人族
皆興味津々だ。
森人族の女性が言った。
「美しい体を作れるの?」
「作れる」
「買う」
即決だった。
蜥蜴人族の商人も言う。
「戦士の訓練に良い」
「買う」
気づけば――
**筋トレ大会**が始まっていた。
「ふん!」
「ぐぬぬ!」
「戻れん!」
市場が筋肉の叫びで満ちる。
ミャルが言う。
「ミャルもやる!」
「無理だろ」
「できる!」
ゴロ。
戻る。
成功。
「え」
全員固まる。
アルトが言った。
「軽いからだ」
「それ言うな!」
ミャルが怒る。
すると突然――
「筋肉!!」
叫び声がした。
振り向く。
そこには――
巨大な男。
鬼人族の戦士。
「鍛える道具だと聞いた!」
「そうだ」
「全部買う!」
「全部!?」
段ボールを抱える。
十個購入。
サトルは目を丸くした。
「まいど」
その時。
レオガルドが走ってきた。
狼騎士族。
「サトル!!」
「今度は何だ」
「鍛錬場が混乱している!」
「また?」
「お前の道具のせいだ!」
見に行く。
そこでは――
「筋肉!!」
「鍛える!!」
「もっと!!」
**筋トレ祭り**だった。
アルトが言う。
「異世界に新しい文化が生まれた」
ミャルが言う。
「筋肉文化!」
レオガルドが言う。
「原因はサトル」
サトルは腕を組む。
「腹筋ローラー強いな」
その頃。
地上の**森のカフェしっぽっぽ**。
みどりが猫たちに言っていた。
「サトルさん絶対変なことしてますよね」
イチが言う。
「にゃ」
きなが言う。
「にゃー」
ジルは震えている。
「にゃ…」
トラは寝ている。
チビは通路を塞いでいる。
ロンは大の字だ。
地下ではサトルがメモを書いていた。
**次の仕入れ**
・プロテイン
・ダンベル
・ヨガマット
サトルは呟いた。
「次は筋肉ドリンクかな」
この時まだ誰も知らない。
**異世界に筋肉宗教が生まれることを。**




