第12話 異界注文
森のカフェしっぽっぽの朝は、いつものように静かに始まった。
カウンターの上ではイチが丸くなり、王様のような顔で店内を見渡している。
窓際のクッションにはきなが寝転がり、微動だにしない。
トラは朝から元気で、床を歩くチビを追いかけて遊び始めている。さな
ジルは棚の奥から顔だけ出して、外の様子をうかがっている。
入口では犬のロンが伸びをして――
また寝た。
「……平和だな」は
サトルはコーヒーを一口飲んだ。
みどりさんがカップを拭きながら言う。
「昨日は魔導ねこ玉が全部売れましたね」
サトルはうなずく。
「予想外だった」
異世界の商品はたまに大ヒットする。
ただし。
理由はだいたい猫である。
サトルは地下の在庫を思い出していた。
魔導ランタンは残り少ない。
保温カップも残りわずか。
魔導ねこ玉は――
完全完売。
「追加仕入れしないとな」
サトルは立ち上がった。
「ちょっと地下行ってくる」
⸻
異世界の市場
地下倉庫の奥。
木箱の並ぶ倉庫のさらに奥に、小さな扉がある。
そこが――
異世界との通路。
サトルだけが通れる。
サトルは慣れた足取りで扉を開いた。
空気が変わる。
向こう側は石造りの通路。
そして市場の声。
異世界の商人たちが行き交う。
蜥蜴人族
鉱人族
森猫族
魔導士族
様々な種族が商売をしている。
サトルはいつもの店へ向かった。
⸻
商人ガルド
露店の前に立っているのは、知り合いの商人。
鱗のある体。
鋭い目。
蜥蜴人族のガルドだ。
ガルドはサトルを見ると笑った。
「来たか、人間」
「来た」
サトルは言う。
「魔導ねこ玉、全部売れた」
ガルドは目を丸くする。
「全部?」
「全部」
ガルドは腕を組む。
「人間界は変わった市場だ」
サトルは肩をすくめた。
「猫が強い」
ガルドはしばらく考え――
「では追加を出そう」
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新しい注文
ガルドは箱を出す。
ねこ玉。
大量。
サトルはうなずく。
「助かる」
その時。
別の声がした。
「人間の商人か?」
振り向くと、小柄な人物。
ひげ。
筋肉質。
鉱人族だ。
名前はバルドン。
鍛冶職人である。
バルドンは言った。
「変わった市場で売っていると聞いた」
サトルは笑う。
「猫カフェだ」
バルドンは首をかしげる。
「猫?」
説明が難しい。
⸻
ドワーフの提案
バルドンは袋を出した。
中から取り出したのは――
小さな鈴。
だがただの鈴ではない。
金属が魔力で光っている。
サトルは聞く。
「これは?」
バルドンは胸を張る。
「魔導鈴だ」
「何ができる?」
バルドンは言う。
「鳴らすと落ち着く音が出る」
サトルは思う。
猫に良さそう。
⸻
実験
サトルは鈴を鳴らす。
ちりん。
柔らかい音。
市場の空気が一瞬静かになる。
近くの森猫族が耳を動かす。
そして。
ゴロゴロ喉を鳴らす。
サトルは確信した。
「買う」
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魔導士の商品
さらに奥から声。
「その市場、面白そうだ」
現れたのはローブの人物。
魔導士族。
名はセレナ。
彼女は箱を差し出した。
中には――
光る羽根。
サトルは聞く。
「これ何?」
セレナは言う。
「浮遊羽根」
「用途は?」
「飾り」
サトルは考える。
猫。
羽根。
……危険な組み合わせ。
だが。
「買う」
⸻
地上へ
サトルは箱を抱えて地下へ戻った。
倉庫。
そして階段。
一階へ。
みどりさんが言う。
「仕入れですか?」
「大当たりの予感」
箱を開ける。
ねこ玉。
魔導鈴。
浮遊羽根。
猫たちが近づく。
⸻
猫の反応
まず鈴。
ちりん。
トラが止まる。
きなが目を開ける。
イチが耳を動かす。
そして。
全員ゴロゴロ喉を鳴らす。
みどりさんが言う。
「すごい」
サトルもうなずく。
「ヒット確定」
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羽根の結果
次。
浮遊羽根。
空中にふわふわ。
チビの目が光る。
トラがジャンプ。
イチも珍しく立つ。
猫大興奮。
ジルは棚の奥へダッシュ。
ロンは寝ている。
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新商品決定
みどりさんが言う。
「商品名どうします?」
サトルは考える。
鈴。
羽根。
猫。
そして言う。
「魔導にゃん鈴」
「羽根は?」
サトルは言う。
「魔導ふわ羽」
みどりさんが笑う。
「売れますね」
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夜
店が閉まる。
猫たちは寝ている。
サトルは椅子に座る。
コーヒーを飲む。
「また商品増えたな」
みどりさんが言う。
「異世界通販ですね」
その瞬間。
地下からまたぽんという音。
サトルは天井を見る。
「……今度は誰だ」
森のカフェしっぽっぽ。
猫カフェであり。
異世界貿易店であり。
そして今――
異世界の商人たちが注目し始めた市場になっていた。
ただし。
猫が主役である。




