第10話 魔導評判記
森のカフェしっぽっぽで「魔導雑貨市」が開かれてから三日後。
サトルはカウンターの奥でコーヒーを飲みながら、少しだけ不安になっていた。
理由は単純。
異世界の商品を結構売ってしまったからだ。
魔導保温カップ。
魔力反応スプーン。
魔導ランタン。
便利そうではあるが――
地球の常識で作られてはいない。
つまり。
「……クレーム来ないよな?」
サトルはぽつりと呟いた。
みどりさんが笑う。
「猫が可愛いから大丈夫ですよ」
それは根拠になっているようで、なっていない。
その時。
ちりん。
ドアベルが鳴った。
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最初の報告
入ってきたのは先日の女性客だった。
魔導ランタンを買った人である。
サトルは内心身構える。
返品か?
女性は明るく言った。
「こんにちはー!」
元気だ。
クレームの顔ではない。
サトルは少し安心した。
「いらっしゃいませ」
女性は席に座る。
トラが即座に膝へ。
営業猫である。
女性は言った。
「ランタンすごいですよ!」
サトルは瞬きする。
「え?」
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ランタンの効果
女性は楽しそうに話す。
「夜、部屋で使ってるんですけど」
サトルは静かに聞く。
「光が柔らかくて、すごく落ち着くんです」
「ほう」
「あと、猫みたいに動くんですよ」
「動く?」
サトルの眉が上がる。
女性は笑う。
「テーブルの上を少しだけコロコロ動くんです」
サトルは天井を見た。
やっぱりか。
魔導ランタンには軽い浮遊機能がある。
地球では微妙に挙動がおかしい。
女性は続ける。
「でもそれが可愛いんですよ」
問題なし。
むしろプラス評価。
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次の客
その時。
またドアベル。
入ってきたのは男性客だった。
魔導保温カップを買った人。
サトルはまた身構える。
男性は言った。
「すごいですね、あのカップ」
サトルは目を細める。
「冷めませんでした?」
男性は笑う。
「むしろ熱いままです」
「それは仕様です」
男性は言う。
「昨日、コーヒー入れて三時間後に飲んだらまだ熱かった」
みどりさんが驚く。
「すごいですね」
サトルも思う。
思ったより性能高い。
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スプーンの事件
そして。
三人目の客が来た。
魔力反応スプーンを買った女性。
サトルは少し不安。
あれ用途が謎だ。
女性は席に座る。
きなが膝で丸くなる。
女性が言う。
「スプーン面白いです!」
サトルは聞く。
「何に使いました?」
女性は答える。
「ダイエットです」
「え?」
予想外。
女性は笑う。
「ケーキに近づけると震えるから」
サトルは理解する。
「警告装置」
「そうです!」
新しい用途が生まれた。
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猫カフェ効果
店内は和やかだった。
トラは膝巡回。
チビは机の上。
きなは熟睡。
イチはカウンター王。
ロンは入口警備(睡眠)。
そして。
ジルは棚の影。
いつもの光景だ。
客たちは雑貨の話を続ける。
「ランタンの光、すごく落ち着く」
「カップ便利」
「スプーン可愛い」
サトルは思う。
意外と成功している。
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SNSの噂
その時。
女性客がスマホを見せた。
「これ見てください」
写真。
魔導ランタン。
部屋。
柔らかい光。
いい感じ。
サトルが聞く。
「これ投稿したんですか?」
女性がうなずく。
「ちょっとバズってます」
サトルが固まる。
「……え?」
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ネットの反応
スマホ画面。
コメントが並ぶ。
「このランタンどこ?」
「かわいい」
「欲しい」
「猫カフェ?」
サトルは頭を抱える。
「……在庫足りない」
地下の箱は減っている。
だが。
この流れだと足りない。
みどりさんが笑う。
「仕入れですね」
サトルはため息。
「またガルドと交渉か」
蜥蜴人族の商人。
絶対値上げする。
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猫たちの営業
客が写真を撮る。
ランタン。
猫。
カップ。
猫。
スプーン。
猫。
猫の方が多い。
サトルは言う。
「うちは猫カフェだから」
女性客が笑う。
「猫と魔導雑貨の店ですね」
それは確かにそうだ。
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夜
店が閉まる。
サトルは地下へ。
市場側。
ガルドがいる。
蜥蜴人族。
サトルは言う。
「追加注文だ」
ガルドが笑う。
「やはり売れたか」
サトルは肩をすくめる。
「猫が売った」
ガルドは首を傾げる。
「猫?」
説明が難しい。
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平和な店
一階に戻る。
猫たちは寝ている。
イチ。
きな。
トラ。
チビ。
ジル。
ロン。
静かな夜。
サトルは椅子に座る。
コーヒーを飲む。
「……商売って分からないな」
みどりさんが笑う。
「猫ですよ」
確かに。
しっぽっぽの主役は猫だ。
その瞬間。
地下からまたぽんという音。
サトルは天井を見る。
「……また新商品か?」
森のカフェしっぽっぽ。
猫カフェであり。
異世界貿易会社であり。
そして今――
魔導雑貨の人気店になりつつあった。
ただし。
トラブル付きである。




